7話 神城大輔は改造人間である
文章修正の可能性あり
王都のダンジョン 地下3階
エレンが【スカウト】に転職してから二日経ったある日のこと。俺たちはレベルアップをするために、王都の近くにある貴族御用達のダンジョンを訪れていた。
「今ですエレンさん!」
「は、はいっ!」
マルグリットから発せられた緊張感のある声に押されたエレンは、少し焦ったような顔をしながら目の前で彼女に取り押さえられたゴブリンに対して短剣で斬りつける。
普通の新人【スカウト】は、弓をメインウェポンにして短剣をサブウェポンにするのが大半らしいが、エレンの場合は【メイド】としてナイフを使っていたこともあるし、そもそも弓を使ったこともないので、戦闘時は短剣と投げナイフがメインになるそうだ。
……ますますどこぞの婦長みたいなんだが、この世界のメイドの戦闘方法としてはスタンダードなものらしいので、文句を言うつもりは無いぞ。
そのスタンダードを作ったのが異世界人である可能性? 知らん。
『ギ、ギャギャギャ!』
エレンの細腕から繰り出された攻撃は、傍から見てもそれほど勢いが乗っていたわけではなかったように見受けられたのだが、元々弱っていたゴブリンを殺すには十分な威力があったようだ。
その証拠に、マルグリットによって散々痛めつけられた挙句にエレンが止めを刺すためだけに生かされていたゴブリンは、断末魔の声を上げて魔石へとその姿を変えていく。
うーむ。血も涙も無駄も無い。まさしくパワーレベリングよな。
いや、今更魔物に同情しようとは思わんけど。つーか、死ねば死体も残らず魔石に変わるというのは何度見ても不思議な光景だ。ここは物理さんに『仕事しろ』とでも言うべきところなのだろうか?
「油断……はしているようでしていないね。って言うか、アンタ十分強いじゃないか。アタシらの護衛なんか要らないんじゃないのかい?」
マルグリットとエレンのレベリング作業を見ている俺に対して、マルレーンが呆れたような声をかけてくる。
そりゃ初ダンジョンで油断はできんよ。平然としてエレンのレベリングを見ているように見えるのだろうが、内心では周囲から奇襲を受けないかどうかでドキがムネムネしてるからな。
しかしあれだ。どうも俺が予想外に強かったことでマルレーンに警戒心を抱かせてしまったようだ。しかしはっきり言おう。それは誤解、と言うか勘違いだ。
と言っても基本的に俺の立場はハッタリで得たものである以上、下に見られるよりは買い被ってもらったほうが良いのは事実なので、俺から向こうの勘違いを正すつもりは無い。
むしろその勘違いを加速させるべきだろうよ。
そう判断した俺は、あえてなんでもないことのようにマルレーンの疑問に答えることにした。
「いやいや。私とて国元では貴族としてそれなりの教育は受けてますからね。今更ゴブリンだのコボルト程度には苦戦しませんよ」
「……それなり、ね(よく言うよ)」
マルレーンはジト目をしながら「それなら猶更護衛なんか要らないんじゃないか?」と告げてくるが、甘いな。俺の説明はまだ終わってはいないのだぞ。
「えぇ。それなり、ですよ。そもそも私はこの国の常識を知らないのです。故に、私が自覚無く行なった行為が周囲に迷惑をかける結果になっては目も当てられません。そういう意味で貴女方は必要なんです。実際、私は『このダンジョンに奴隷を入れないほうが良い』という常識すら知らなかったでしょう?」
「まぁ、そうだね」
俺の言葉を聞いたマルレーンは微妙な顔をして頷く。
実際問題このダンジョンが、普段王国軍の訓練や貴族のレベルアップに使われるお偉いさん御用達のダンジョンだなんて知らなかったからな。
ただなぁ。これに関しては、少し考えればわかることだったんだよな。
なんたって『生活や夢のためにダンジョンに潜る冒険者と、訓練や研究資源の採取のためにダンジョンに潜る騎士や兵士たちが同じダンジョンに潜っても良いコトは無い。そこに貴族が混じれば猶更だ』なんてことは常識だろう?
貴族は一般市民と混ざって何かをすることを忌避するし、冒険者だって貴族と鉢合わせて面倒ごとになるのは嫌なはず。だったら、冒険者たちが潜るダンジョンと、貴族が潜るダンジョンは区別されているという可能性だってあるじゃないか。
そして、そんな貴族が狩場として使っているような由緒正しい領域に、何も知らない新興の貴族が買ったばかりの奴隷を連れてきたら、周囲の貴族との間に無用の軋轢を生むことになるわな。
つまるところ、俺が奴隷を買って屋敷に置くだけならともかく、俺が望むように戦闘ができる奴隷を一から育てるってのは、王都の貴族街の中では不可能ってことだな。
どうしてもやりたいって言うなら、貴族街の外に拠点を持つ必要があるってことだ。
いやはや危ない危ない。
「……それならアタシらは『護衛』と言うよりも、アンタに常識を教える『監督兼教師』としてここに居るって思って良いのかい?」
「そうなりますね」
「なるほどねぇ」
とりあえず俺の説明に納得したのか、今まで訝し気に俺を見ていたマルレーンの目に理解の色が宿る。
(なんとか誤魔化せたか)
本当のところを言えば、マルレーンの役目は彼女が当初考えていたであろう『俺の護衛と俺にパワーレベリングを施すこと』で間違ってはいない。俺もそのつもりだった。
しかし事件はダンジョンに到着し、最初のゴブリンを発見した際、今の段階の実力を把握するために『試し』にということでゴブリンとの戦闘を行なったときに起こった。
その原因は、俺が予想した以上に【薬剤師】という職業がチートだったことだ。
そもそも職業レベルと個人レベルは連動している部分がある。
分かりやすく言えば、職業レベルの上昇でも身体能力は上がるのだ。
ただし、職業によって上がる数値は違うらしい。
この辺は統計を取っていた連中による資料による仮説なのだが、実際に握力だけ見てもメイドと戦士では上昇の値が目に見えて違うのだとか。
で、何代か前にとある異世界人がステータスの表記を行い、職業に応じた平均ステータス表のようなものを作ったらしい。
これはソイツが統計厨なのか、もしくは『鑑定』のスキル持ちだったのかは今となっては不明なのだが、とりあえずそれを指針にして、いくつかの職業はステータス上昇値が纏められている。
まぁ俺が以前自分を『診断』できたくらいだからな。他人を鑑定できるヤツが居てもおかしくはないだろう。
それはそれとして。そのステータス表で言えば、エレンが就いていた【メイド】のステータスは
体力:E
魔力:E
力 :E
頑強:E
俊敏:E
知力:E
精神:D
器用:D
というものらしい。
これがスカウトになると
体力:E
魔力:E
力 :E
頑強:E
俊敏:D
知力:E
精神:E
器用:D
となる。
そんでもって成長の度合いを無理やり数値化した場合
E:0~5
D:6~10
C:11~15
B:16~20
A:20~30
S:30以上
となるらしい。
ただし、この上昇値はレベルアップした際の握力の向上具合から判別して数値化したモノなので、あくまで参考程度のものではあるが、逆に言えば参考にはなるということだ。
それで言うと今のエレンは【メイド】のレベルが10まで上がってから【スカウト】に転職しているので、戦闘経験などを考慮せず累積されている数値だけを見るなら、エレンは現時点でも普通の新人冒険者よりは強いんだとか。
で、その職業によるステータスの上昇値は個人レベルが上がった際にも影響される。
なので天職として二次職や三次職が無い場合、まずは職業レベルを上げてから個人レベルを上げるのが良いとされている。
つまるところ二次職や三次職になってから個人レベルを上げるのが理想のレベルアップなのだ。
また、ほとんどの戦闘職は素振りや型稽古よりも魔物を倒したほうがレベルアップしやすい傾向があるが、逆に言えば、素振りや型稽古を繰り返し行うことで職業レベルを上げることができるので、純粋な武人の家系の場合は徹底的に基礎訓練だけを行なって二次職や三次職になってから個人レベルを上げるという家もあるそうだ。
何事も基礎が大事ということだな。
しかしエレンの場合は別に最強のメイドを目指しているわけではない。そのため、今はさっさと【スカウト】のレベルと個人レベルを上げるために、こうしてダンジョンでモンスターを狩っているというわけだ。
そんなエレンの事情はともかくとして、問題は俺のチートについて、である。
元々女神からの加護? を貰って【薬剤師】となった俺のステータス数値は以下のように
体力:B
魔力:A
力 :B
頑強:C
俊敏:B
知力:A
精神:A
器用:S
と、いうモノで、これはその辺の三次職を大きく上回るものだ。
そしてここからが本当の誤算についての話になるのだが……なんと、俺は自分も知らぬ間に職業レベルが上がっていたようなのだ。それも1とか2ではない。もっと上だろうと思われるほどに。
これはあれだ。今まで気付かなかったんだが、日々の『成分摘出』やら『調剤』やら何やらの結果だろうと思われる。
ん? 自分のレベルが曖昧な理由? そりゃダンジョンに来る前にレベルを確認してなかったからだよ。
ん? なんでレベルを確認しないのかって? いや、そりゃそうだろ。今まで一度も戦闘をしていないんだから、ずっとレベル1だと思ってたんだよ。
職業レベルを上昇させるにはスキルの使用を繰り返すことが必要だって話は聞いていたが、まさかアレでレベルが上がるとは思わんし、職業レベルがここまで身体能力に影響を与えるなんて考えてなかったんだよなぁ。
あとはアレだ。これまで全力を出すことがほとんど無かったことも影響している。
なにせ今まで俺が相手にしていたのは薬品やそれを入れる試験管だし。貴族の若者は罠に嵌めただけ。そりゃ全力なんか出す機会なんか無いわな。
エレンやヘレナとの夜戦の時は猶更だし。
そんな理由からこれまで全力を出すことがなかった俺が、初めて見たゴブリンに対して全力の奇襲攻撃を敢行した結果、腹パンした俺の拳がゴブリンの腹を貫通する……どころではなく、攻撃を喰らったゴブリンが爆発四散してしまったんだ。
魔石になる前に粉々になったゴブリンを見てドン引きするマルグリットやエレンの視線は中々に痛かったし、そのせいでマルレーンにも不要な警戒心を抱かせてしまったのは完全に俺のミスなのだが、それに関してはなんとかフォローできたと思う。そう思わないとやってられん。
それにな。結果として今回のダンジョン探索で自分の戦闘力を理解できたってことは、決して悪いことじゃない。だってそうだろう? ついイラついて貴族を本気で殴った結果、相手を爆発四散させるよりはよっぽど良いじゃないか!
……ルイーザや侯爵に怪しまれる可能性もあるが、そんなん知らん。弱いよりマシだとしか言えん。ちなみに今回の探索で判明したチート能力は他にもあるのだが、ソレに関しては今のところマルレーンに見せるつもりはないので今のところは保留だな。
「で、マルレーン殿。このダンジョンについてですが、ここは何階層まであって、どのような魔物が出現するのですか?」
「ん? あぁ、ここに出てくる魔物はねぇ……」
「ほうほう。それではドロップアイテムなども?」
「アイテムは……」
「なるほどなるほど」
色々考えたが、結局俺は後で侯爵らに詰問された際の対応を未来の自分にぶん投げつつ、元々の目的であった『レベルアップ』をマルグリットとエレンに任せ、マルレーンからダンジョンや魔物に関する常識を学ぶのに専念することにしたのであった。
今更ながらステータスについての説明である!
なんだかんだ言っても『チートがあるくせに無双しないお話』なので、神城君の戦闘描写はほとんどナシの予定でごわすってお話。
閲覧・ポイント評価・ブックマーク・誤字訂正ありがとうございます!





