3話。プロローグのような何か(3)
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「ん? いきなり真顔になって考え込んでるみたいだけど、何か気になることでもあるのかい?」
「……そうですね。ちょっと思うところがありまして(まだだ、まだ慌てる時間じゃない)」
【人間はもう詰んでいる】
明らかに“ちょっと”では済まない重大な事実に気付きながらも(まだ決めつけるのは早いと)と、自分に言い聞かせ、なんとか平静を保つことに成功した神城は、自分の判断に誤りがないか否かを確認するためになんともない風を装いながら質問をする。
「えっと、こうしてみると魔族は三方面に敵を抱えているんですよね?」
「そうだね。これを見ての通りさ」
神城からの質問を受けて、勢力図を指差しながら頷くマルレーン。
「それでも未だに人類国家は魔族に勝利を収めていない。つまり、三方面で戦いながらもそれだけ魔族は強いということでしょうか?」
「まぁ、そうとも言うけどね」
「?」
話に聞くところだと、多少の進退はあれども、この状態は少なくとも100年以上続いているという。
つまり魔族は、北部の対連邦軍、中央の対連合軍、南部の対神聖帝国軍と三大国を相手に三方面で戦を繰り広げながら、どの戦線でも一方的な敗北を喫していないということになる。
それは何故か? 魔族が強いから? もちろんそれもあるだろう。しかしマルレーンは「それだけではない」と首を振った。
「確かに魔族は強いよ。数で優っていても、個の力で覆されることもあれば、個の力で優っていても数で負ける場合もある。だけど現状の膠着状態を生み出している一番大きな要因はそれじゃない」
「と、言いますと?」
「向こうと違ってこっちは連合軍だろ? どうしても各々の勢力が自分たちが有利になるように動こうとするもんだから、中々足並みが揃わないってのが私たちが勝ちきれない要因なのさ」
「……なるほど。ではマルレーンさんは、現状の拮抗状態を打破できない一番の理由を『国家間の綱引きにある』とお考えですか」
「ま、言葉を飾らずに言えばそうなるね」
数年前までアンネと共に前線にいた彼女には色々と思うところがあるのだろう。なんともやるせない表情を浮かべながら、神城の言葉を肯定するマルレーンは、重ねて解説を加えていく。
その内容は以下のようになる。
連邦も神聖帝国も、もちろんフェイル=アスト王国も、魔族と戦争をしている以上、当然ある程度の損害は覚悟の上だ。
しかしながら、決して無駄な損害を望んでいるわけではない。よって各国の上層部が自国の損害を抑えようとするのは至極当然のこと。
そして、この場合に於ける『自分たちに被害が出ないようにする』というのは『慎重に戦う』という意味ではない。
自分たちが担当をしている戦線以外により被害が出るように動くという意味である。
即ち、足の引っ張りあいだ。
現場の意見としては「そういうのは後にして、今は目の前の戦争に集中しろ」と言いたいところだ。しかし、戦後のパワーバランスを考えればそうそう簡単に決断を下せないのが政治というものだと言われてしまえば、一兵士に過ぎないマルレーンに返す言葉はない。
……例えば『フェイル=アスト王国が後先を考えずに全力を出す』としよう。
それは、即ち『アンネが王国全ての騎士団を率いて全力で戦い続ける』ということと同義である。
これにより大量の物資を消費するのはもちろんのこと、アンネや精鋭部隊だって犠牲になるかもしれない。
それだけの損害を出して、なんとか担当する戦域で勝利を収めたとしよう。
……それで、フェイル=アスト王国は何を得るのだ?
土地も名誉も物資も、損耗したモノを取り戻すには不足なのは明らかである。加えて、損耗したフェイル=アスト王国は周辺諸国から良質の狩場と見られることは間違いない。
多大な損害を出した挙げ句、得るものはない。否、得るものがないどころか、周辺諸国にその身を喰われてしまうことになるのだから文字通り堪ったものではないのだ。
信用? あるわけがない。なにせ自分たちとて、神聖帝国や連邦が弱体化したならば、魔族よりもそちらに兵を向けるのだから。
そんなわけで、後先を考えずに全力で戦った場合、自分たちに待ち受けているものは最低の未来しかないと理解している以上、何も考えずに『人類国家のため』などと抜かして魔族にぶつかることは不可能なのである。
こういった事情から、現在はどの国も全力で魔族と戦おうとはしないし、全力でこない相手に負けるほど、魔族は弱くなかった。
「で、勝てない以上は現状を維持するしかないって感じになった結果、百年以上に及ぶ膠着状態になってるって感じかねぇ」
「……なるほど」
マルレーンの解説は非常にわかりやすいものだった。だからこそ神城は、自分の考えが正しいと確信した。
その考えとは『魔族は手を抜いている』というものだ。
なにせこれまでマルレーンが語った内容は、全てが人間の都合でしかないからだ。
(その理屈で言えば、向こうが一点突破を図ったら負けるだろ)
極端な話になるが、魔族側は何も侵略する必要はなく、ただ神聖帝国か連邦が主力となっている戦域に対して全力でぶつかれば良いのだ。
一度戦線を崩壊させてしまえば、神聖帝国や連邦は崩壊した戦線を立て直すために前線に戦力を送り込むことになる。
そうやって送り込まれてきた戦力を、再度潰す。
もしくは、前線に戦力を差し向けさせたところで、後方にドラゴンの群れでも海獣の群れでも送り込んでしまえば良い。
なにせ向こうは制空権や制海権を一方的に持っているのだ。そうである以上、向こうはいつでも斬首戦術を採用できるのである。
(実際王都の中心部に侵入されたしな)
聞くところによると、各国の王都やそれに準じた大都市には大規模な結界や、空を飛ぶ敵に対する防衛機構は存在するらしい。
しかし所詮それは、アンデッドによる錯乱作戦を防げなかったり、ヴァリエールの侵入を察知できない程度の精度しかないことは既に証明されている。
あのときヴァリエールやアテナイスが王都に被害を生むことを目的としていたなら、王都にはかなりの損害が発生したであろうことは想像に難くない。
(前回彼女らがそれをしなかったのは、偏に『やろうと思えばいつでもできるから』だろうな)
二人は「勇者の情報を集めるために来た」と言っていたが、それは潜伏して活動しつつ、王都に混乱をもたらしながらでもできることだ。
否、むしろ問題を発生させた方がやり易いとさえ言える。
それをせずにこちらとの交渉に臨んだ事実があればこそ、神城は『魔族が手を抜いている』と確信するのだ。
(ここで問題なのは、前線に赴いて戦争に参加した経験があるマルレーンでさえ、どこかで『人間が後先考えずに本気を出せば勝てる』と考えているところだな。それは何故だ?)
軍事に関しては素人の神城だが、それでも社会人の嗜みとして学んだ(色々なお客さんと話をするためには時事ネタを理解しないといけないので、最低限の勉強は必要なのだ)常識から、戦争に於ける制空権と制海権の重要性くらいは理解している。
それらを敵に完全に握られたうえ、魔族が王都へ侵入することを許したという事実を知っても尚、神城から見てマルレーンに悲壮感が見られないのが不思議でならなかった。
(無理をしている風ではない、な。それにドラゴンをはじめとした空を飛ぶ敵を相手にしている以上、制空権の概念がないはずもないよな)
加えて、これまで召喚されてきた勇者からもたらされた知識があれば、制空権の重要性を理解していないはずがない。
「それなら……」
「ん?」
やはり自分が知らない情報があるのだろう。
そう考えた神城は(外部の人間に教えるはずがない)と思いながらも、一つ質問をすることにした。
「もし、もしもの話ですよ?」
「なんだい?」
「たとえばの話ですが、ドラゴンが十匹や二十匹の群れで王都、はアレですから、王国第二の都市に襲い掛かってきたらどうなりますかね?」
ここで、何かしらの対処法があるならそれで良い。だが、もしも何もなかったら……
表面上は涼しい顔をしつつ、内心ではかなりの不安を感じながら質問をする神城に、一瞬『何を聞かれたかわからない』といった感じの表情を浮かべたかと思えば、
「あっはっは。真顔で何を考えているかと思えば、そんなことかい?」
そう言いながら「面白い話を聞いた」と言わんばかりに破顔して、バシバシと神城の肩を叩くマルレーン。
「ウチの娘も子供の時はそんな心配してたよ。だけど安心しな!」
(そ、そうだよな。対処法がないわけないよな)
お前の心配は杞憂だよとでも言いたげな彼女の様子から、ほっと息を吐く神城であったが、世の中はそこまで甘くはなかった。
「今までそんなことは一度もない。専門家が言うには『ドラゴンの飛べる距離には限度があるんじゃないか』って話だったね。それにドラゴンの群れは多くても番と子供の三匹までだから、都市の装備でなんとか対処できるのさ!」
「は?」
「ん? なんだい?」
「あの、対処法があるのではなく、向こうの性質頼りなのですか?」
「まぁ、そう言われたらアレだけどさ。実際これまでドラゴンが群れを成すことはなかったし、都市を襲ったなんてこともなかったからねぇ。心配するだけ無駄だと思うよ」
「そ、そうですか」
(なん……だと?)
そんな実例はないんだから、対処法もない。
そう断言するマルレーンには、国家機密だからと言った理由から何かを隠している様子はなかった。
(つまり、本当に、何もない?)
この世界に来てから一年にも満たない神城には、専門家を名乗る者がどれだけドラゴンに詳しいのかはわからないし、当然『実例』という物証に対して反論する術もない。
だが『これまでなかったから』と言って『今後もない』とは限らないではないか。
年がら年中『前代未聞の自然災害』が多発する日本で生まれ育った神城はその考え方がもたらす危険性を十分以上に理解していた。
(次に二人が来たらそれとなく聞こう。あぁ、この様子だと、保険をかけておかないとヤバいかもしれん。ならばその口実は……)
己の保身のためなら全力を尽くすことも厭わない。
そんな典型的な小物精神の持ち主である神城は、この日、ラインハルト以外の命綱を作ることを心に決めたのであった。
神城はshock!
戦力は均等に割り振るのが基本だよね? なんで最初の町の周辺にラスダンに出てくるようなモンスターを配備しないの? ってお話。
神城君は準備運動を始めたようだ。
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ドーモ、平日の目覚ましをam8:10にしていますが正真正銘ノンケの作者=デス。
親切な方()に教えてもらい、ランキングタグに書影を掲載することが出来ました。
ツギクル様のバナーから試し読みのところに飛べますので、とりあえずお試しだけでも読んでみてもらえたらありがたいです。
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……最近クレクレをしてませんが、もちろんポイントが不要なわけではありません。
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