さくら市6歳少女行方不明事件3 赤兎のお願い
「あのさ、えっと………」
岩に腰掛けた桜里が、真似するように寄り掛かる少女に声を掛けようとして、言葉が詰まった。
彼の言いかけた言葉に長い耳をピクリと反応させた少女がそれを察した。
「我のことは見たままじゃ。赤兎と呼ぶがよい」
少女は彼にそう告げた。
「それじゃあ、赤兎。聞いてもいいかい?」
「なんでもきけい。しかし、年の数は秘密じゃぞ?」
「あのさ、これって夢の世界なのか?」
わたるがそう訊ねると、赤兎はニッコリと笑った。
「よい質問じゃ。それを聞いてくるとはお主、やはり現世の者じゃな?」
少し褒めてきたわりには、質問を質問で返すとはなかなか一筋縄ではいかないうさぎだ。
彼はそう思った。
しかし、その返された質問に答えなければ前には進まない。彼は自分で自分の記憶を確認するように、ゆっくりと答えた。
「そうだよ。君の言う現世は俺は今、眠りについているようだ。……なんとなくだけどな」
すると赤兎は………。
「可哀想だと思わぬか?」
岩のてっぺん。わたるの顔と同じ高さまでよじ登り、少女が歩いていった先の遠くを見ながら、呟いた。
わたるは不思議と、赤兎が言ったその意味をなんとなく理解した。
「女の子の体にいくつか傷というかアザというか。殴られたようなそんな跡があったよ」
「ここの河原は他とはまた違って不思議での。現世に未練か憎しみか、そんなものが魂に残った子らが訪れるのじゃ」
「そうか。それでこの河原で石を積んでいくのか。河を渡る前に……」
「しかしの、石を積み、河を渡っても、まれにたどり着けぬ子が現れるのじゃ。来世にな。……きっと石を積むだけでは晴らせぬ無念があるのじゃろう。そんな子がこの河原にはやってくるのじゃ」
「どうするんだよ、そんな時は……」
「それをどうにかするのが、この河原と現世を行き来できるお主の仕事じゃ」
そう言って、赤兎はわたるにたいしてニコッと笑った。
かなり残酷で悲哀に満ちるようなことを口にしながら、あどけない、まるで朝日が注いだ水面のような笑顔で、赤兎はわたるに微笑んだのだ。




