さくら市6歳少女行方不明事件2 赤兎
石を積む少女をまた目にした時。桜里は何かを察した気がした。
そしてまたこれが夢の中であると、不思議とそれが分かった。
続けて同じ夢を見ているとか。既視感だとか、それとはまた違ったもののような気がしていた。
少女が石を積む。1つずつゆっくりと。大きい石。小さい石。丸い石。角ばった石。
1つ1つ確実に。白いワンピースに、赤いリボンの付いた麦わら帽子を被る少女はゆっくりと河原の側で石を積んでいく。
同じ光景。同じ夢。
桜里が少し近付くと、少女はふっと顔を上げた。そして、彼の存在を確認するとまた顔を下ろして石に手を伸ばす。
少女の見上げた顔が、テレビのニュースでニコリと笑っていた写真と重なり合う。
彼は少女の側にあぐらをかくようにして腰を下ろした。
今度は積み上げた石を挟んでではなく、すぐ隣に。
肘を出せば触れられるくらい近くに、桜里は腰を下ろした。
「…………」
「…………」
また2人間に冷たい風が吹き抜ける。
しかし、すぐ側に年が30で黒縁の眼鏡を掛けた男が腰を下ろしても、少女はなにも変化を起こさない。
全くたじろがないというよりかは、我関せず。そんな様子だった。
そんな少女の横顔と石を積む手つきを眺めながら、彼は口を開いた。
「ねえ。名前はなんていいのかな?………もしかして、みなもちゃんだったりして」
そう言った瞬間、少女は石を積む手を止めた。
そうだよ。とか、どうして知っているの? とか。
お兄さん、誰?とか。
そんな返しを彼は予想したのだが、少女は何の言葉も発せず。桜里の方を見向きすることなくゆっくりと立ち上がり、河原の向こうを向いた。
そして、そのまま歩き出す。
様々な石や岩がある場所からゆっくりと歩き出す。つやつやしたビニールサンダルでしっかりと地面を踏みしめるように。
そして河の中に足を踏み入れる。
それほど深くはない。少女のふくらはぎが少し隠れるくらい。
流れも穏やかで、河底の小石がはっきりと見えるくらい澄んでいる。
少女はすぐに河の向こう側へたどり着いた。
そしてまたそのまま、桜里のことも、自分が積んだ石も。一切気にすることも振り返ることもなく、少女はゆっくりと河原が続く景色の向こうへ遠さがっていく。
桜里はただその光景を見ているだけ。
いや、声をかけたりしてはいけない。
彼はそう感じたのだ。少女は石を積み、河を渡ることで何かを終わらせ、何かを始めようとしているのかもしれないと、桜里はそう考えた。
「お主。聞いてもよいかの?」
だから、いつの間にか側にいた、巫女服姿の女の子の可愛らしい声に、内臓がひっくり返るくらい驚いた。
それでも彼は平然を装う。
「………なに?」
「ここに、真っ白な服に、麦を編んだ大きな帽子をかぶった幼い女の子は来なかったかの?」
白い羽織りに赤く長い緋袴。そしてなにより特徴的な、ふわふわとしていそうな白く長い両耳。
彼はそれを目にしても、なんとか平然を装っていた。
「いたよ。今、その河の向こう側に渡っていったところだ。もう、見えないけどな」
桜井は少女が歩いて行った先を見ながら、そう答えた。
それを聞いた巫女服姿の女の子はこう返す。
「何回見たかの?」
「………ん? 何を?」
「その少女をじゃ。ほれ、あの石はその少女が積んでいったものであろう?」
巫女服姿の女の子は振り返り、河の側を指差す。
すらっとしている白く華奢な人間の腕。
その先を見ても、桜里はその言葉の意味をあまり理解出来なかった。
「2回。………2回見た。その少女が石を積んでいるところを」
「そうか。………では、7日ほど時間が経っているはずじゃな」
巫女服姿の女の子は少し考えながら、体の前で腕を組んだ。
「7日って、なにが?」
桜里がそう訊ねると、女の子は長い耳を片方だけ折りながら、彼の顔を見上げる。
「その少女が死んでからじゃよ」
「………」
この巫女服姿の女の子が何者なのかは分からない。
しかし、やっぱりそういうことか、この場所は。
たどり着いてはいけない答えに行き着いてしまった気がした。彼はそう思ったことであろう。
心底疲れたようにして、膝くらいの高さがある大きな岩にゆっくりと腰を下ろした。




