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さいのかわらは夢河原  作者: ぎん
2/5

さくら市6歳少女行方不明事件1

「あっ、桜里さん! お疲れ様っす!」


男は桜里と呼ばれた。彼よりも5つか6つ。若い男に。


黒く汚れた軍手を外しながら、若い男は床に畳んだ段ボールを敷き、そこに肩掛けかばんを下ろした桜里に話を続ける。


「今日は、機械がほぼフル稼働してるんで忙しいっすよ。………あれ? どうしたんすか? 顔色悪いみたいっすけど」


若い男は話しながら、いつもとは違う桜里の様子に気付き、表情を濁らせた。


「いや、なんでもねえよ。ちょっと寝不足なだけさ」


桜里はあわててそう取り繕い、懸命の苦笑いを浮かべる。


若い男はそれを見て、また疑問を抱きながらも、先輩であろう彼にそれ以上問うこともなく、仕事場の申し送りを済ませる。


「それじゃ、以上になりますんで。……無理しないで下さいね」


若い男はそう言い残し、夜10時になったのを確認して、仕事場から階段を上がり、事務所がある2階へと上がっていった。


桜里は、水道で顔を洗い、自分の顔を鏡で見ながら、頬を強めに叩く。


「さ、仕事だ。気を抜かないようにしないとな……」


桜里は自らにそう言い聞かせて、手袋をはめて、端から順に機械に投入されている金属製の材料の確認から取りかかった。




「えっと、こっちは3本補充で………こっちは補充しなくて大丈夫か……」


桜里は手慣れた様子で、機械ごとに定められた金属の材料となる身の丈ほどある長い棒を倉庫から持ち出し、機械に投入していく。


すると機械は補充された材料を切り取り、そして切削して、車やバイクなどの部品を仕上げていく。


桜里はそんな金属加工工場の夜勤に勤めて2年になろうとしていた。


「ふーっ………。少し休憩するか」


夜0時を回ったところ。仕事を開始してから2時間が経過したところで桜里は一息入れることにした。


荷物の側にパイプを置き、そこに腰を下ろす。


桜里は、バッグから賞味期限間近。半額になっていた焼きそばパンを取り出し、袋を破る。


それにかじりつきながら、何気なくスマートフォンを開き、ブックマークしているニュースサイトへ。


スポーツニュース。夕方から夜にかけて。桜里が贔屓にしている千葉のプロ野球チームは今日も敗戦していた。


「はあ……。これで5連敗かよ……」


桜里はその結果を知り、ため息をつきながら、ペットボトルに入ったお茶を口に含む。


喉を鳴らしながら、目に入ったのは少女誘拐事件のニュース。


桜里の胸がドキリと高鳴る。普段はスポーツニュースくらいしか目を通さない彼が、そのニュースをタップして開く。


テレビで目にしたものと同じ。隣町であるさくら市6歳少女行方不明事件。


その続報と出ていたが、服装が白いワンピースやリボンのついた麦わら帽子と。


情報にあまり変わりはなかった。


桜里はそのニュースを見て、行方不明になった少女とそっくりの子が石を積む気味の悪い夢を思い出して少し後悔した。


なんだか体が神経質になっている。背筋がなんだか冷たい。


僅か3分椅子に座って、パンを1つ食べただけで、桜里は休憩を終わりにして、仕事の続きに取り掛かった。




しかし、初めの休憩をすぐに切り上げてしまったせいで、少し時間が空いてしまった。


次の時間作業まで、1時間近くある。そう思いながら、ふと時計を見上げた桜里は若干の眠気を感じた。


時間はある。やれる作業は今のところない。


桜里は現場を離れて、2階へ続く階段を昇る。夜中の時間帯で、ここにも誰もいない。真っ暗な事務所を通りすぎ、紙コップのドリンクが売られている自販機の明かりを頼りに、作業靴からスリッパに履き替え、事務所横の休憩室へ。


シーンと静まった休憩室は、少し肌寒く、外に立つ街灯の光が窓からほんの少し差し込むだけの暗さ。


それが今はちょうどよかった。


彼はスマートフォンのアラームを50分後にセットして、部屋の奥に設置された黒く硬いソファーで横になる。


側の本棚の漫画本を2冊枕代わりにして、仰向けに。腹部の上で軽く手を組みながら、つかの間の休息に息を長く吐きながら、目を閉じた。


吸い込まれるような不思議な眠気。彼はそれを受け入れると。


気付けばまた、河原。


行方不明の少女がまた、河原の側にしゃがんで石を積んでいた。




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