温度
この世界で、“能力”は管理される。
管理できないものは、例外なく排除される。
燃えている。
理由は、わからない。
ただ、これは“正しい行動”だと認識している。
施設は崩壊寸前だった。
天井の配線が溶け落ち、壁は赤熱し、床は軋んでいる。耳をつんざく警報音が、ひっきりなしに鳴り続けていた。空気が重い。熱で歪んでいる。だが、それを不快と感じる機能はない。
足を一歩前に出す。
踏み込んだ床が、熱で黒く焦げて沈む。
問題ない。
この状態は“許容範囲内”。
廊下の奥から武装した集団が現れた。統一された装備。動きに無駄がない。一般人ではない、訓練されている。
「対象を確認!コード——」
発火
言葉は途中で途切れた。
引き金が引かれるより早く、炎が彼らを包み込む。
悲鳴は一瞬で焼き切れ、音が消える。
残るのは、黒い痕跡だけだった。
思考する、ここは何か、なぜ自分は破壊しているのか。
断片的な情報が浮かぶ。
施設。
実験。
拘束。
観察。
そして“対象”
「……排除対象」
結論はそれだけで十分だった。
理由は不明。
だが、この場所は破壊すべきだと認識している。
歩き出す。
奥へ。
横から弾丸が飛来した。
回避。
上半身を炎へと変換し、弾道をすり抜ける。
直後に再構築。
皮膚、血液、骨格が瞬時に再形成される。
「化け物……」
発砲者が呟いた。
その意味は理解できない。
ただ一つ明確なのは
この場にいる全てが排除対象であるということ。
血の花が咲く
体の内側から“歪む”
骨の代わりに炎が走る
形が一点に収束し、槍になる
「——屍焔槍」
血が蒸発し、肉が崩れ、骨が燃料になる。
炎は槍の形を取り、空間を貫いた。
爆音。
壁ごと敵を消し飛ばす。
静寂。
警報音だけが残る。
違和感。
足が止まる。
“温度”
記憶の奥に、微かな残滓がある。
熱ではない。
もっと柔らかい何か。
「……不明」
思考を切る。
不要な情報だと判断する。
出口が近い。
だがそこには、先ほどとは明らかに違う集団が待機していた。
「対象確保班、配置完了」
「能力使用を許可。損壊は最小限に」
その言葉は理解できる。
意味も正確に把握できる。
自分は、狙われている。
問題ない。
踏み込む。
炎が噴き上がる。
だがその瞬間
視界から、影が消えた。
違和感。
反応が遅れる。
斬撃。
肩口が裂ける。
血が吹き出す。
だがそれは瞬時に燃え、消失する。
視線を動かす。
黒衣の男がそこに立っていた。
気配が異常に薄い。
「やっと会えたな。問題児」
軽い声。
緊張はない。
「報告通りだ。完全に制御外れてる」
意味。
文脈。
解析。
不明点が多い。
だが敵であることは確定、即座に距離を詰める、炎を纏う。
しかし
視界から消える。
次の瞬間、背中に悪寒が走る。反射的に身体を炎へ変換する。刃が空を裂いた。
「反応はいい」
淡々とした声。
「でも、それだけで逃げ切れるほど甘くない」
分析。
移動ではない。
位置そのものが“ずれている”。
能力。
対処不能。
ならば範囲ごと焼却する。
出力を上げる。
肉体を炎へと変換。
温度が跳ね上がる。
空間が歪む。
「おい……」
男が初めて僅かに警戒の色を見せた。
「それ、マジでやるのか?」
回答は不要。
発動しようとした、その時。
急激に、温度が落ちた。
炎が削がれる。
音もなく、静かに。
空気が凍る。
“止まる”。
初めて、動きが止まった。
視線を向ける。
そこに、少女が立っていた。
淡い色の髪。
透き通るような冷気。
手には刀。
「対象、確認」
淡々とした声。
だが、ほんのわずかに揺れている。
理解できない。
だが、心臓が強く脈打つ。理由は不明。
「排除対象と認定」
刀が構えられる。
空気がさらに冷える。
なのに目が離せない。
「……なぜ」言葉が漏れる、意図しない発声。
口が勝手に動く。
「優先度が高い」
意味はわからないが、それが正しいと確信している。
少女の表情が、一瞬だけ揺れた。
ほんのわずかに、目が見開かれる。
そして
踏み込んだ
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