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34.過去ボスラッシュ

 イベントの最中にいったん引き返すのって、必要な事でも何となく罪悪感が湧く私です。


 誰に怒られるわけでもないのにそう思うのはきっと世界観に没頭して楽しんでいる証だと思う。


 でもそのかいあってとても満足。


 私は決戦の準備を整えて、食事をたらふく食べて、お風呂に入ってから戻って来た。


 我が体調も道具のストックも万全である。


「さて、では行こう」


 選択の長い階段を駆け上がる。


 そして階段は開けた階層に繋がっている。


 どう見てもここからが本番で、さっきのフェスイベントはすべて前座だったようだ。


 そこには見知った顔が一人、私を待ち受けている。


「そうか……見届けることを選んだのか」


 謎の階層にいたのはファームコミューンのサファイアさん。


 逞しい農業系女子である。


 しかし今日の彼女は、どう見たって武闘派だった。


「……そうこなくっちゃ面白くない。誰だっていいところは見たいものな」


 気迫が今度は試験じゃないと、そう主張しているようだ。


 斧を構えたサファイアはしっかりと意志の乗った視線を私に向けていた。


「さぁおいでよ。言っておくけど、私を倒さないとここを通れるとは思わないことだ」


 武器は斧。


 服の色は青系統。


 どう見てもパワータイプである。


 巨大な斧はズズンと地面にめり込んだ。


 こちらは一体だけのくくりはすでに解除されていた。


 つまりこれが本当の本番だと言うことだ。


 回復アイテムは限りがあるし、回復できるポイントがこの先にあるとも限らない。


 ここはできる限り温存する意味も含めて主力以外で、決戦を挑む。


「いけ! トマッティ!」


 マスコットキャラ風の侍が飛び出し、刀を構える。


 刀身が真っ黒な刀と、トマッティのくせに緑の着物と唐傘を被った侍はちょっと浪人っぽい仕上がりだった。


 これで武器については相性は有利。


 それに最終決戦に向けて鍛えた苦労も、出番のおかげで報われるというものだった。


「先制は間違いなくこっちだ。よしアレをやってみよう」


 この手のやつはラスボスには効かないかもしれないが、中ボスにはかろうじて効く場合も多い。


「デス居合斬」


 説明しよう。D居合斬とは一定確率で即死効果のある刀スキルである。


 ダメージ量は少ないが、決まれば一撃必殺。


 ここで使わねば、もう使う機会もあるまい。


 トマッティの斬撃は間違いなくヒットした。


 飛び散るエフェクトはダメージがある証。そして即死が通る証でもあった。


「……でも、ミスだね……まぁ一発でそんなことあるわけないし?」


「そんな攻撃効かないぞ! お前の本気を見せてみろ!」


 正直あの牧歌的な君に戻って欲しいです。


 今のチビっとダメージでお怒りなのですか? サファイアさん?


 ぐるぐる斧を回して飛んでくる攻撃は、ヘビーラッシュ。


 ダメージが大きめな連続攻撃は殺意が非常に高かった。


「……やばくない?」


 そして斧のウエポンスキルはロックオンという、当たる回数を安定させるもの……マジやばくない?


 バシバシと、当たる当たる。


 一発はそんなにでもないが、ザックザクとHPは削れてあっという間に致死圏内だ。


「え? 死んじゃうよ?」


 あ、死んだと思ったら、一発分余裕があった。


 だが、ここで発生するのはさっきとは別の意味のギャンブルだ。


 手持ちのスキルで、1ターンで逆転できるスキルは一つしかない。


 そして、効果が実際にあるのかはすでに確認した。


「…………」


 よしこれで決める。


 D居合斬は一撃必殺。二の太刀など考えるのは無粋。


 まぁ負けたら負けたでその時また考えよう。


 すべての幸運を、この一撃に懸ける。


 トマティは刀を鞘に納めて、再び全力の一刀を放った。


「――――切り捨て御免」


 即死である。


 サファイアは一撃の下切り伏せられて、私は歓喜で震えた。


 実際はヒヤヒヤする内容だったけど、こういうのは運も実力の内なので言っちゃう。


「……やはり持っているね私は」


 そして多少の幸運要素がある方がゲームは楽しめてしまうのかもしれない。


 案外簡単に脳汁が出てしまうもんである。


 では勝者なので、敗者の言葉を聞いてあげるとしよう。


 サファイアは私に道を譲る。


「お見事。アニマペットの正体。実にわかりやすいだろう? 私もかつてはクリエイターだった。手塩にかけたAペットと共にホープタワーへ挑んだよ。でも時々思うんだ、かつて確かにあったあの時、もしアニマペットにならなかったらわたしは今、どんなAペットを作っていたんだろうって」


 穏やかに笑って見送られると、最初のステージを思い出してしまうね。


 彼女はクリエイターとしての自分が好きだったということか。


 今もファームコミューンにいることを考えると、そんな思いは強かったのかもしれないとそんなことを私は思った。




 回復アイテムをしこたま使いつつ、階段を上る。


 待ち受けていたのはシティコミューンの管理者シトリンだ。


 彼女は恭しく頭を下げ、私を向かい入れた。


「その目で結果を見届けに来るだろうと思っていました。では……ここを通りたくば、このシトリンがお相手いたしましょう」


 両手の双銃をくるくる回転させてポーズを決めるシトリンはやたらスタイリッシュである。


「えっと……二丁拳銃は『クイックドロウ』。スピードが1.5倍になる」


 ただかっこいいポーズと同じくらいウエポンスキルが厄介そうなのが、気にかかった。


 それはまたターン性バトルで厄介極まりないスキルだと思う。


 ある程度パワービルドのキャラに先制をとられる可能性がある。


 それだけで、紙装甲なら一撃で死にかねない。


 敵は銃。


 服装は黄色。ならばこちらはこういく。


「行ってこい! キャロット!」


 対するのは盾、ニンジン色のキャロットだ。


 赤属性に調整したコーディネートと、盾による防御スキルはウエポンスキルを補って余りある。


 バトルが始まると開幕一番、先制をとれるスキルクイックガードを発動する。


 防御力を1.5倍アップするスキルで生存率を上げる。


 続くターンで二丁拳銃特有の音が重なるような音とエフェクトが弾けてキャロットがよろけるが、盾は確実にダメージを削っていた。


 ぐっとタメて、緩急をつけたダッシュからのシールドバッシュ!


 盾の数少ない攻撃手段である。


 盾を構えて全力で相手に突進する体当たりは、かなり強力である。


 ズドンと重い音がしてシトリンはよろめく。


 弱点属性が見事に決まり、半分以上HPを持っていくのだから相性は本当に侮れない。


 勝ったな。


 心の中で腕組みした私は勝負を決めるために追撃を指示した。


「……これは使いたくありませんでしたが」


 でも特殊セリフの後シトリンは何やらカッコイイポーズで拳銃を突き出して、オーラを銃口に集中して放った。


 攻撃の瞬間、銃が弾け飛ぶエフェクトを見て、私はぎょっとしてしまった。


 あの技は『ガンブレイクキャノン』!


 限界を超えたエネルギーの一撃で、超ダメージを与える荒技。


 銃が使用不能になり、ウエポンスキルも消失。属性は拳に変化する。


 大きな代償を伴う必殺技である。


「そんなビックリ技まじらせるなよ!」


 閃光はキャロットに命中し飲み込む。属性すら凌駕する攻撃力の暴力はキャロットのHPを限りなく0にした。


「……だが甘いな」


 しかしキャロットはまだやれる。


 格言を教えてやろう。HPなんてものは本当に0にならなければよいのだ。


 1だけ残ったのは、ウエポンスキル即死回避の効果だ。


 あっちにもそれがあるように、こちらにもウエポンスキルの恩恵は存在する。


 そして、このウエポンスキルとセット運用するためにあるようなカウンター技もまた存在した。


 次のターンに先制して、ダメージを2倍にして返すスキル。


 さっき以上の閃光が盾から放たれ、シトリンを崩れるエフェクトに変えたのは次のターンだった。




「……素晴らしい。成長とはこういうものでしたね」


 戦闘が終わり、復活したシトリンは満足そうに微笑んで、私に道を譲った。


「かつて私とこの子も共に成長しました……そんな実感があったのです。しかし完成してしまった以上、私達には与えられた役目があり、秩序を守らなければなりません。アニマペットはただ理想を追い求めるためにあるわけではない。得た力でこの世界の秩序を維持管理する存在だと、自分をごまかしていたのかもしれません」


 シトリンは、現状に迷いがあるようだ。


 なるほど、アニマペットという存在になることである種のカリスマを得て、管理者枠になるわけだ。


 何せあれだけいるAIを打ち負かしてようやくたどり着く頂点だ。


 AIの人格が人を模しているのなら、敬われるのもわかる話だった。


 まぁそう言うことあるよね。


 些細な事でも神と褒め讃えたくなる案外そう言うノリ、嫌いではないです私も。




 再び階段を上る。


 その階層に到着したとたん星が乱れ飛ぶと、赤が鮮やかな衣装の彼女は、彼女のステージに降り立った。


「おっけー☆、やる気満々なんだね♡……じゃあ相手したげる―――このルビーちゃんがね!」


 前はステージが襲い掛かって来たが、今回は本人か。


 彼女の武器は巨大なアーム、つまり拳だった。


 アラやだこのアイドル、武闘派なのね。


 マナーの悪いファンは問答無用で鉄拳制裁される、自分でボディはガードする系のようだ。


 ガツンと巨大なアームを体の前で打ち合わせ火花が散った。


 構えをとったルビーは様になっていて、今日はカワイイよりもカッコイイが先に立つ


「あの子は進んで融合しようとしてるんだから邪魔したらダメだよ☆ アニマペットになるってことはAI達の究極の目標なんだから☆」


 邪魔した方がいいのかそうでないのかもわかんないんだけど、これは誘導されているのではないのだろうか?


 その辺りの事情は最上階に行けばわかるか。


 今は目の前の美少女アニマペットに集中しよう。


 拳の技はアクションがかっこよくて私好みなんだよね。


 モーションのこだわりが見て取れるのが素晴らしい。


 だが容赦はしない。


 相手が拳ならこちらは銃。


 赤い衣装に身を包んだルビーに対抗コーディネートは紫だ。


 スピニッチには、こういう時のためにぶっとい奴を持たせてあった。


 大型ブラスターはバフを貫通する光線を放つスキル付き武装である。


 だがくしくも相手のアームについているスキルもダメージ貫通系。


 どちらもバフに胡坐をかいていると、素で殴り倒される。


「つまり、正面から殴り合えとそう言うことだろう」


 まぁこっちが筋肉ムキムキマッチョマンのスキンヘッドが銃を構えているから絵面はひどくマッシブなんだけど……味方なんだからスキンヘッドを全力で応援するよ? ホントだよ?


 ルビーとスピニッチの戦いは壮絶だった。


 お互いの最大攻撃力を、交互に叩きつけ合う。


 優雅な舞踏のような動きから繰り出される分厚い装甲の拳は、スピニッチの筋肉の鎧を容赦なく叩いた。


 そのたびにぶっ飛ばされるスピニッチは負けずにブラスターで応戦した。


 一進一退。スキルの恩恵は戦いをシンプルなものにする。


 それすなわち、どちらのパラメーターが高いのか?


 今回戦いを制したのは私のスピニッチだった。


「……うきゅー」


 ぐるぐると目を回し倒れるルビーを下し、銃を突き上げるスピニッチの姿はあまりにも勇ましい。


 ……絵面は暑苦しいけれど。



 そんな泥臭い勝利でもパチパチと手を叩いて賞賛してくれるルビーは困り顔で道を開けた。


「やっぱり強いね君……私は前のボクより、今のボクの方が断然好き。クリエイターなら―――そう言う側面が絶対あるはず。だってこの見た目も性能も『好き』を詰め込んだものだから、そんなの最高ジャン?」


 すべては自分がより良いものを作ろうと研ぎ澄ませたもの。


 ルビーはAペットと同化したことに後悔はないようだ。


 それもまたわかる話である。


 好きなものになりたいという願望は大なり小なり理解できないものではない。


 そして自分の中にある自分の感性が不変であると信じたい気持ちも私には理解できた。




 続く階層はラスト一歩手前に違いない。


 そろそろ終わりも近いだろう。


 待ち受けるのはスペースコミューン担当、エメラルドさん。


 緑の衣装に身を包む彼女は、鋭い視線で私を射貫く。


 圧の強い彼女の獲物は、SFチックな浮遊する盾である。


「ここまで私達、アニマペットの言葉は聞いてこられましたか?」


 エメラルドは静かに問う。


 質問好きな彼女は相変わらず、私に問う形で話を進めた。


「あなた自身我々と戦って、どう感じましたか? あなたが感じたその答えを是非まとめておいてください。まぁ……話す暇はないかもしれませんが」


 エメラルドが真っ黒な盾を眼前に並べバトルは静かに始まった。


 盾という武器は、守りに特化したスキルが多い。


 つまり自身に施すバフや、少々特殊な効果のあるテクニカルな武器と言える。


 熟練度を鍛えれば盾がなくても使えるスキルがあり、一度は盾を経験させて必要なスキルを得るまで育てることも視野に入る。


 対してこちらは斧という攻撃力に優れた武器で攻めた。


 だがこの組み合わせは斧が有利属性ではあるものの、うっかりすると死にかねないスキルが存在する。


 どういう攻め方で来るのか? それは分かりやすいほどわかりやすい。


「ウィルスショック」


 怪しい紫色のエフェクトがブロッコリーに侵入して、肌色を紫にして来た。


 ウィルス状態は、毎ターンHPを削って行く。


「つまりはそう言うことなんだろう……うわぁめんどくさい!」


 完全な持久戦で、じわじわ削られるやつ。


 こちらの動きを阻害して、徹底して守りを固める戦いはやたらターン数と時間がかかることは明白だった。


 だが、斧の戦法は単純明快。パワーで殴るほかない。


 持久戦がお望みなら、それを更なるパワーで打ち砕く。


 そうなるとまだ守りが完成していない、このタイミングを置いて勝ち筋はない。


「マッスルチャージ」


 攻撃力を2倍に増強する、バフスキル。


 規格外のパワーはターンに余裕がなければ破綻するだろう。


「パーフェクトウォール」


 六角形を組み合わせたシールドがエメラルドの周囲に展開した。


 ブロッコリーに指示したフルパワーアタックは斧の大威力技だったが、ダメージすら与えられずに弾かれた。


 パーフェクトウォールはダメージを完全に無効化する無敵の盾だ。


 だがバフを持つ相手には今のように起点にされて逆に積まれる可能性もあるから注意。


 こちらも向こうもバフの入った構成だが、エメラルドはウィルスを仕込んでくる耐久型。


 構成さえわかれば、後はじゃんけん大会だ。


「ブロッコリー! お前の筋肉が張りぼてじゃないってところを見せてやれ!」


 バフは積んだ。そしてシールドは連続で使うと成功率が極端に下がる。


 ウイルスによってHPが削られるが、HPなんていうのは0にならないように管理するもの。


 多少の上下でくよくよしてはいられない。


 斧を振りかぶり跳躍からのフルパワーアタックは大地を割った。


 今出せる最大火力は伊達ではない。


 耐久力に秀でたボディだとしても、バフを積めば突破も不可能ではなかった。


 属性まで整えていれば、いちころである。


「……!」


 吹き飛ぶエメラルドは盾を構える。


 あれは即死から復活するスキルか、めんどくさい奴を仕込んでいたものだった。


 おそらくウィルス攻撃に比重を置いた時間稼ぎが目的に違いないが、そっちがその気なら何度でも削ってやろう。


 というかぐだった時点で私の負けなんだから、速攻以外手がないのだけれども。


 でも次は殴っても守るんだろうから、当然これだろう。


「マッスルチャージ」


 ああ……うちのブロッコリーが、心なしか黒光りして見える。


 きっと回復のスキルも用意しているんだろうけど、そんなものもう使わせない。


 読みは当たり、自らを守る無敵のバリアーはむなしく空振りする。


 NPCの悲しさよ。


 では高めに高めた一撃を無防備に喰らっていただくとしよう。


「ブロッコリーよ―――叩き潰してあげなさい」


 粉砕である。


 今まで見たことがないほど派手に飛び散るダメージエフェクトに私は震えた。


 溜めに溜めた力を、最高のタイミングで解き放つエクスタシーは最高だった。


 相手が固くなければ、最強のパワーを発揮することはなかっただろう。


 ブロッコリーが真の筋肉、モヒカンの中のモヒカンだと証明された瞬間である。


「―――成長を、実感していますか?」


 砕かれた盾、エメラルドさんは最期に問う。


 もちろん最高に実感したとも。


 エメラルドは深く頷き、私に道を譲った。


「私は思います。常に疑問は持つべきだと。我々アニマペットは完全を目指し、生まれました。しかし現在のアニマペットが果たして完全なのかどうか、それは疑問だと思いませんか?」


 アニマペットは自らが完全であることに拘っている。


 いや、アニマペットがというよりも、AIの基本的な思考がそうなっているようだ。


 野良AIの話では、この世界のすべてのAIは一度は皆クリエイターを目指すのだとか。


 それはそんな彼らの常識というべきものなのかもしれない。


 エメラルドは言う。


「私は常に疑問を持ち続けます。この世界は難解で、理解しがたい。正解だと思っても、次の瞬間何かのきっかけで正解は正解でなくなることもあるでしょう。可能性は無限でも進める方向は一つだけです。だからこそ常に己に問いかけることを望みます。願わくば、後悔のない回答を。この先にいる彼女にもそううお伝えください」


 よくわからんけど、かなり見込まれているようだ。


 良かろう、私におまかせなさい。


 唯一一つのハッピーな選択を選び取って見せようじゃないか。


 ではそろそろリコちゃんに会いに行くとしよう。


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