30.トマトは主役になれるか
「……」
スーパーに行くと、フルーツトマトを見かけて、食べたくなった。
トマトはいい。好き嫌いが分かれるが、私は生で食べるならパンで挟むのが正義だと思っている。
しかし私はトマトに直にマヨネーズをかけるのはあまりしないのに、パンにはさむ場合はマヨネーズベースの味をこよなく愛してしまうのはなぜなのか? 我ながら疑問だった。
「パン一枚なのにな……そのパン一枚で味覚が変わる気がする」
まぁたぶん気分の問題だろうけど、鮮やかな色どりが味と気分を盛り上げるのだとしたら素晴らしい。
主食とサラダ位の違いが生まれるのならやる価値はあると私は思う。
出来上がったトマトサンドを手元に置いて、いざゲームを始めよう。
私が試験をクリアしてスペースコミューンを散策していると、解放されたオンライン販売スペースを発見した。
「へっへっへっ。どうですお客さん、いいブツ揃ってますぜ」
ほほう……おすすめはなにかね?
差し出されたのは、凝った作りの銃だった。
これは某有名映画の銃! それとわかる作りこみには職人の熱量を存分に感じた。
やはりこのスペースコミューン、この手の世界観が趣味に会う者達の根城なのは間違いない。
これ見よがしに連れ歩いているあっちのアンドロイドっぽいAペットも。
そっちで歩き回っている猫型のAペットもどこかで見たことがある素晴らしい再現度だ。
私もいつかは手を伸ばしたいものだが……いや、今はやめておこう。
なぜならば、私はファッションショーを極めねばならない。
センスにイノベーションを起こさねば。
キャロットの少年のキャラクリは良く出来たはずだ、ならば公式の衣裳で攻めるべきだろう。
しかし一つだけワンポイントはOKのようだから、オンラインで攻めてみるのも行ってだと私は考えていた。
私は雑誌片手にあれこれ頭をひねっていると、ふとそれは目に入った。
それはまさに一期一会の運命だった。
深い青に、瞬く星エフェクトがあしらわれたマフラーはまるで銀河の様だ。
「……買うか」
なぜか運命を感じた私は、ちょっとお高めのそれを即購入した。
コーディネートは万全。エントリーしたキャロットの出番は大取りである。
しかし―――結果は3位。
「…………」
寄り道はこれくらいにしておいた方がいいかもしれない。
「最後の思い出が散々だったけど、ついに最終エリアだ……」
万感の思いでそこに立つ私だったが、やって来たコミュ―ンにいつものような出迎えはない。
しかし思っても見なかったこのコミューンの先輩が、代わりに私を歓迎してくれた。
「わぁ! 君も来てたんだ! ってことは……限定解除終わったんだね!」
そんな質問をしてくる君はどなただろうと振り向くと、まさかのリコちゃんじゃないですか。
ええ終わりましたよ?
するとリコちゃんは何度も頷いて私の手を取った。
「うん、君なら来ると思ってた。このコミューンで君に出会えたこと、とってもうれしい」
私も嬉しいですとも。ときめいちゃったよ。
やる気満々のリコちゃん衣装は新衣裳。
まさに最終決戦仕様の白い色違いである。
「ここは、最も優れたAペットを選ぶための場所なんだ。資格を得たクリエイターとAペットがその性能を競う……この場所でまた君と競えるのを楽しみにしてたんだ」
リコは闘志に満ち溢れていて、私はゾクリと背筋凍らせた。
「じゃあ手はじめに―――ここで一度戦う?」
いやいやいやいや。リコさん、私まだ5体目作ってないんですよ?
いえいえyesとかnoとかではなく、ホントに。
こいつはちょっとまずい。
唐突に全開バトルを叩きつけられた感じだ。
実は準備なんてしていなくって焦ったけど流れ的にやるしかないかと考えて、一応返事をしたが、選んだ瞬間リコはニッコリと笑って冗談だと私の手を離した。
「なんてね! ここで勝負なんてもったいないことしないよ」
おいおいリコちゃん、やってくれるじゃないの。
戦闘を回避してホッとした私に、リコはコミューン中央の塔を指さして見せた。
「だから……絶対途中で負けたりしないでね? 出来れば君とは最高の場所で決着をつけたいから」
そうでござるか?
そうでござるかー……まるで武士でござるなぁ。
でもそう言うのいいと思うで候。
これは5体目も素敵武士っ娘リコちゃんのために、気合の入ったキャラクリエイトを披露せねばならないと私は決意を新たにした。
というわけでホープコミューンにすぐさま割り当てられた工房に向かい、頑張ってクリエイトの時間である。
今回のベースにするのはト型。
3頭身のネタ的な素体だが、比較的好きにカスタムできるマスコット型で行くとしよう。
最初から野菜っぽい名前で攻めているのだから、最期の締めもべジタブル味の強い名前にする。
これは決定事項である。
「はっ……トマッティはどうだ。……どうなんだろ?」
名前を決めたら、一気に外観が出来上がってしまった。
トマト頭の侍である。
とりあえず丸い頭に、カラーリングは赤がよい。
緑のちょんまげをつけて、後は丸い目玉を二つくっつけてベースは完成としよう。
後は服装だが、ファンタジーコミューン辺りに侍を意識した袴位あるはずである。
それと……全然関係ないけど、このゲームには自爆の威力を高めるスキルもあるんだとか。
いや、別に何の関係もないけど。
自爆は一般的にはどうしても進めなくなった時の救済措置なのだと私は察している。
いや、別に使いたいわけではないけど。
しかし本当にどうしようもなくなった時、使わなくても切り札を用意しておくのが策士というものではないだろうか?
勝ちを確信した相手に、全力でトマッティをぶつけてやるのも一興だろう。
あとは、雑誌のモデルは無理かもしれないが……ひょっとするとゆるキャラ選手権なんて企画があったとしたらいいところまで行くかもしれない。
私としては我がパーティでも、いつかトマトが主役に躍り出てくれることを期待したいところだった。




