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29.スペースコミューンの戦い

 揚げたてのカツ。それは脂の暴力である。


 脂身のたっぷりついた豚肉を、油のたっぷり入った鍋に入れ食す。


 油とカロリーを取ることを恐れていては決して手を出すことが出来ないそんな料理に私は挑もうとしていた。


 私にとってそれはつまみではなく主食である。


 キャベツにマヨネーズ。米。そして主役のカツーーー。


 それをお口の中で一つにする時、勝利が確定する。


 まさに勝つ。ゲン担ぎでも何でもなく、口に入れた瞬間私は勝者となるのだ。


 しかし勝利には代償が伴った。


 それは大量に取り入れた油による弊害と、ガツンと頭を満たす血糖値による強制眠気。


 では眠くなる前に、さぁゲームを始めよう。




 残りのステーションはあと二つ。


 順番に回っていけばいろんなアクセサリーが手に入る……ではなく、イベントが進行する。


 電車に乗って、次の駅に進むと、そこにはノイズーラの最初のUFOの色違いが浮いていた。


「ハッハッハ! 来たズラ! 報告はすでに来ているズラ! 我らを邪魔するお邪魔虫! ここで消えてもらうズラ!」


 いや、リコちゃんの方が結構脅威度高くない?


 私もやっつけたけれども、ロックオンするのはやめていただきたい。


 性能自体は一体目と同じだ。


 飛びそうな攻撃なら大抵当たり、攻撃手段が絞ってあるせいかそう強くもないのは変わりない。


 結果。


『ズラーー……』


 UFOを撃墜するのに、そう時間はかからなかった。


 もう何だか腕バスターのスピニッチが、SF映画の主人公に見えてくる大活躍だった。


 このイベントは案外ちょろいかもしれん。


 私は作業と化したイベントを攻略して、最後の駅へと向かった。


 まぁ余裕で何とかなるだろうと気軽な気持ちでやってきた最後の駅は、しかし少し今までの駅と様子が違う。


 今まで逃げた着ぐるみAI達と一緒にいるのは、サングラスをした黒いスーツを着た女だった。


 流石最後の駅、キグルミ野郎の待ち伏せとはビジュアルから一味違う。


 背中を見せたまま佇む女性は、私に気がつくとこちらを向き直る。


「……君は、AIではないのだね。ならば君は部外者だ」


 そう言った彼女が指を鳴らすと、女の足元にノイズが走った。


 彼女の足元から現れたのは、いつものバグではなくて、どう見ても人型のAペットだった。


「これは我々の問題。君には口出しする権利もない。それでも邪魔するつもりかな?」


 駅を占拠している犯人がいいおるわ。


 当然、こんな蛮行止めさせてもらう。


 引かずに会話を続けると、女の目つきが変わった。


「ならば仕方がない。強制的にご退場いただこうか」


 バトルが始まる。


 だが今までとは、様子が違っていた。


 何が違うのかと言えば、Aペットの見た目が明らかに凝っている。それは彼女の実力が今までとは違うと証明するようなものだ。


「アニマペットは間違っている、私はこんな試みなど意味がないと証明せねばならない」


 ボスのAペットは鮮やかな赤のレザー装備で身を固めた女性で、銃を構えたハリウッドスターのような外観である。


 しかしどこか禍々しいオーラを纏っていた。


 まさかのAペット戦に私は鼻白む。


 急にパターンを崩してほしくはないが、私だって何かしらラストにイベントがあると予想していなかったわけではなかった。


 さぁ行ってこいクレソンよ。お前の宇宙装備が伊達ではないとみせてやれ。


「君がどんなクリエイターなのか……多少は興味がある。では行きなさいリゲル」


 リゲルと呼ばれたAペットは銃を構えた。


 スペーススーツに身を包んだクレソンは宇宙の背景にビームブレードが良く映える。


 さぁやってやる。


 いやしかし、ボス戦とはいえクレソンならどんな相手だろうと倒せるという信頼は今までの冒険で培ったものだった。


 経験を積んだ今なら、悪い勝負にはならないはず。


 それは一個前の駅ボスの体たらくを見ていれば明らかな事実である。


 当然攻撃力の最も高いスキルを選択。


 しかし―――先の動いたのは、リゲル。つまり敵だった。


 開幕直後に紅い稲妻のエフェクトがリゲルを包み、その姿が霞む。


 瞬間至近距離に現れ、脳天に二丁拳銃の乱打を喰らってクレソンは一撃だった。


「は?」


 意味が分からず私はコントローラーを取り落としたが、HPバーの速度は全く変わらず、無情にも0を刻んだ。


「……この程度ですか? ならば勝ってしまいますが?」


 煽りまで入れてくる敵ボスに私は一瞬思考が停止した。


 再起動まで待ってくれるのは、RPGのいいところだと思う。


「待て待て落ち着こう、いくら何でも強すぎる」


 このままバトルを続行して行けるのかどうなのか、手が震える。


 しかしこれしかないと私は次のメンバーにすべてを託した。


「うおおおお! 勝負だキャロット!」


 私の選択は最も耐久に特化した、キャロットだ。


 新参だが、盾がメインウエポンと言うこともあって一番防御力に優れている。


 そしてやはりスピードは惨敗だったが……キャロットの盾は、見事に銃撃に耐えきった。


「……よし!」


 ここで出すのは一か八かの、強大な一撃が来たからこそ意味のあるスキル。


 カウンターブロックは、受けたダメージを倍にして叩き返した。


「―――」


 カウンターの一撃を返されたリゲルのHPは驚きのスピードで削れて、まさかの一撃でノックアウトだった。


 つまり敵はスピードと攻撃力にすべてをかけた型だったと言うことなのだろう。


 ネタが割れれば簡単なことだった。


 しかしここに来て、きちんとルール通りに戦うAペットはある意味新鮮で逆に驚いてしまった。


「ふぅ……素晴らしい。私の負けか」


 負けボイスのノイズーラ首領はやれやれとけだるそうに首を振って思ったよりあっさり負けを認めていた。


「君のAペット。良く育てられていますね。しかしだからこそ、やはり私は間違っていないと確信させられる。この先あなたの進む先にあなたが納得できるかどうか、私も観察させてもらいましょう。わたしは……引き返すことをお勧めしますよ」


 なんかこのボス、意味ありげなセリフを残すじゃない?


 いや知らんけれども、ぱっと瞬時に消えてしまった女性ボスは去り際もクールだ。


 後に続くなにかもないので、これで戦闘は本当に終わりの様だった。


 私はほっと息を吐く。


 ノイズーラはとぼけた名前の名前通りノイズのような敵だったが、これでイベント終了らしい。


「あっぶなかった……ちょっとでも耐久キャラがいないと、全滅するとか勘弁してくれないかなぁ」


 どう考えてもトラップみたいな戦闘だったけど、これでいよいよメインイベントまでの道が開けた。


 いったん回復、回復。連戦にはこまめな回復が大切である。


 落ち着いてから、私は準備万端整えて、宇宙飛行でバグのエンカウントに果敢に挑戦していると、その星は見えて来た。


 唯一一つの建物しか存在しないその星に私は着地して、建物から飛び出す巨大天体望遠鏡を眺めた。


 天体観測を思い出す宇宙モチーフの建物はなんとなく懐かしさを感じさせる。


 これがメインイベントだと私は意を決して、中に踏み入る。


 すると緑色の髪をしたメカクレお姉さんが天体望遠鏡を熱心に見ていたが、彼女はこちらに視線を向け頭を下げた。


「お早到着ですね。もう少し……このスペースコミューンを楽しんでいただいてもよかったんですよ?」


「十分に楽しんでいるとも」


 でもクリアしてからゆっくり見て回った方が、楽しめるというものでしょう?


 実際このコミューンは中々面白い。


 オンラインイベントのファッションショーだってSFを踏襲したものが多く、きっと自作の武器の販売も、そっち方面が多いに違いない。


 見ていて思うが戦闘は、光る装備は圧倒的に見栄えがした。


 バトルフィールドとしてもスペースコミューンは人気がありそうだった。


 そんなフィールドで今から彼女がどんな戦いを披露してくれるのか、私としては楽しみでたまらない。


「では。始めますか? 後悔しませんか? セーブは済ませましたか?」


 ええああうん。質問ラッシュはやめてね? 不安になる質なので。


 私に特に答える暇も与えずに、エメラルドの上空に無数の板状の物が降り注いだ。


 それはエメラルドの周囲に浮遊して、ぐるぐると回りながら赤いカメラで私を見ていた。


「質問の意図は、備えてほしいから。想像力こそクリエイターの最も優れた武器です。あなたには私の盾を突破していただきます。そしてこのテストを突破すれば貴方は一人前のAペットクリエイターです。では最期の確認を―――準備はできましたか?」


「当然だとも!」


 エメラルドの周囲に幾何学模様が走り、深い緑の八面体の中に消える。


 私が先方に選んだのは、新しい相棒だった。


「行ってこいキャロット!」


 現れたキャロットがその手に持っているのは装備を新しくしたシールドである。


 毒々しい見た目のシールドを構えたキャロットはどこか勇ましく、エメラルドに立ちふさがった。


「キャロット――」


 エメラルドの周囲の板はビリビリと放電して、そのレンズが輝くとキャロットは光線に貫かれた。


 なるほど、あれは武器らしい。盾とか言ってたのにずるい!


 しかし大ダメージを受けたはずのキャロットは、一切ダメージを負わないままいまだ健在だった。


「ンフッフッフッ。いいじゃないかパーフェクトウォール。一ターンのみ、完全にダメージを無効化は、ターン性にはありがたいわい」


 単純に技のスキル枠を一つ埋めるから露骨に攻撃力が下がってしまうけど、この盾を装備することですべては解決する。


 敵の盾は毒々しいエフェクトが現れていて、すでにHPが削れていた。


 この盾のウエポンスキルは攻撃されると30パーセントの確率で、相手にウィルス状態にして、ダメージを与え続ける。


 いきなり当たりを引いた私は、これは来ていると判断して続く手を打った。


「さらにキャロット! オーバーロード!」


 キャロットのスキル『オーバーロード』は敵単体に膨大な攻勢データを流し込み、一定ターン過負荷状態にすることで処理能力を落とす。


 よって、このスキルを使われたターンから3ターン。


 敵のスピードは半分となる。


 こいつを喰らった敵は、極低確率ではあるがオーバーヒートして一ターン行動不能にする効果もあるようだ。


 そう、今回のキャロットは思い切ってデバフを詰め込んでしまったとも。


 そして狙いはうまくいった。


「だがこれで終わりじゃない。リミットブレイクだキャロット!」


 キャロットが盾を振りかざし、頭部に青白いエフェクトが弾けた。


 この技は、対象一体の攻撃力を上げる威力上昇のバフ技だ。


 盾は基本的にデバフ、バフの双方のスキルを覚えることが出来る器用な武器だ。


 しかもこのスキル。実は得物を変えても入れ替えられるタイプのスキルだから、どの武器に換装しても継続して使えるものもある。


「だけど……まぁ、追いつかないよな」


 キャロットは後発組だから育ちきってない。


 つまり現在のバフの使い方は……キャロットが勝つためには存在していなかった。


 チュイン!


「キャ、キャロット!」


 何度か数回の攻撃は粘ったが、甲高い音と共に繰り出された主砲でキャロットはプラネタリウムの闇に消えた。


「あー」


 いくらパラメーターを上げたところで、こういうことは起るわけだ。


 うう……ごめんよキャロット。君の奮闘は私の心に刻まれた。


 では続いて出すのは耐久力のあるアタッカーのブロッコリー? それとも遠距離型のスピニッチ?


 いやいやそうじゃない―――まだまだ経験値が足りないのは家のエースも同じことだ。


「行ってこいクレソン!」


 光り輝く剣と宇宙服を着たクレソンは激戦を潜り抜けて、いつも以上に迫力が増して見える。


 ブオンと柄から伸びるビーム刃を構えるクレソンに私は命じた。


「クレソン。サクリファイススラッシュ」


 それは今クレソンが使える、全身全霊の一撃である。


 反動によるダメージと引き換えに、大ダメージを与えるスキル。


 大上段に剣を構えたクレソンは、捨て身の一撃でエメラルドの盾に特攻した。


「!」


 ただ言っても相手はボスキャラである。


 本来であればクレソン渾身の一撃を喰らったところで倒れはしないだろう。


 しかしクレソンの刃はそうは思わせないせないほどに力強く輝いた。


 激しい剣戟は一撃のもとにエメラルドを守る盾を砕き、一息に削れるHPバー。


「よし!」


 驚異的なダメージ量の理由は、先に破れたキャロットの置き土産のおかげだった。


 今回クレソンに用意したウエポンスキル『データコピー』は前に出ていたAペットのステータス上昇をコピーする。


 レベルを上げて物理で殴る。それでもだめならバフモリモリで戦えば速攻解決。


 決まると……最高に気持ちがいい。


 いつかオンラインでもやってみたいコンビネーションリストに入れておこう。


「ふふふっ勝った……これは勝ったな」


「中々のものです……しかしここからが勝負の分かれ目だとは思いませんか?」


「んん?」


 え? まだしとめてない?


 HPが少なくなったことで、特殊なセリフが出てきたが―――今そういう何かありますパターンはひじょーにまずい!


 私は思わず立ち上がっていた。


「いや、ちょっと待って? クレソン、今耐久が紙なんだけど? ちょっと待ってよエメラルドさん」


 データコピーはデバフも引き継ぐ―――それは特殊なデメリットも同様なわけです。


 ギリギリ……行けると思っていたのに、ギリギリ行けなかった。


 そうなった時、だいたいの流れは決まっている。


「……うおおおお!!!!」


 向こうはボロボロだが、ノーバフで攻めきれるほど弱くもなく……つまりジリ貧である。


 クレソンがレーザーで焼きクレソンにされてしまってからは、もはやただただ残り少ないHPを削り合う地味な耐久祭りと化した。





「おおおお……勝ったぁ」


 最期に立っていたブロッコリーの背中に、私は神々しささえ感じて、思わず祈った。


 長い戦いだった。


 ただただ他に終わらせる術もなく、単純に細かいダメージをひたすらに積み重ねる闘い。


 私に出来たことと言えば、こちらのHPが尽きる前に相手を削り切ってくれと祈ることだけだった。


「素晴らしい。貴方の勝利です。私は貴方の門出を祝福します」


 だからこそ、エメラルドからの勝利のメッセージは思わず膝が砕けるかと思ったよ。


 私は一息ついて、喜びに打ち震えていた。


 とりあえず、スクショしておこう。


 エメラルドさんが素直に褒めてくれるのは素晴らしいご褒美である。


「おめでとうございます。しかしここがゴールではありません。常にどうあるべきか自分への問いかけを忘れずに。きっとあなたの中にその答えはあるはずです」


 おお、すみません。泥仕合なんかしちゃって。考えたけど浅はかだったんですごめんなさい。


 教訓を胸に刻みつつ、私は改めて試験突破の喜びを噛みしめた。


 私は記念撮影を終えてふうと息を吐くと、ゲームを一時中断した。


 もやっとした気分は残ったものの、これで限定解除は終了。


 Aペットも限界の5体になってフルメンバー解禁ということになる。


 今夜は激戦だった。


 私はようやく一息ついて、残っていたトンカツを齧る。


 噛んで溶け出す油は、ちょっと冷めていても格別にうまい勝利の味がした。


 さておかげで強烈な眠気もやって来る。


 今夜は良い夢が見れそうだった。


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