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23.ルビーのコンサート

 トンカツを揚げた次の日のメニューは決まっていた。


 真っ白なサンドウィッチ用のパンに分厚いトンカツを乗せ、特製ソースで仕上げて挟めば、特製カツサンドの出来上がりである。


 サンドウィッチは実にいい。何かしながら食事が出来るのが最強だと思う。


 齧りついたらあっさり噛み切れ、肉を挟むことで生まれるどっしりとした食べ応え。


 からしのアクセントとソースのこってり味が後を引く一品は今日もいいことありそうだった。




 さて試験をクリアし、限定解除も3回目ともなるとそろそろ自由度が高くなってくる。


 ここを超えれば、また一つ世界が変わるのは間違いない。


 だがそのために必要なのがアイドルがまたがったドラゴンを倒すこととは―――実にファンタジーだ。


「ほらほら~☆ ひょっとしてビビっちゃったかな~? そんなんだとすぐにバラバラになっちゃうよ~?」


「……なるほど」


 煽るルビーに私は若干黒い気持ちが沸き上がる。


 よーしそこのクソガキ、わからせてくれよう!


 凛々しい顔つきのクレソンに私は指示を飛ばす。


「クレソン! 蹴散らしてあげなさい!」


 クレソンの溜まった基礎ポイントは素早さと物理攻撃にすべてつぎ込んだ。


 そして特に重視した素早さの結果、先攻はクレソンだ。


 やはりポイントの分配は大事だということか。


 激しい踏み込みからのパワースラッシュ。


 まるで効果がなかったらどうしようかと思ったが、クレソンのフルスイングはド派手なエフェクトと共にステージドラゴンを切り裂いた。


 エフェクトが飛び散り、中々良いダメージが入ったことは確認できた。


「うわぁ! なになに~☆」


 エフェクトの欠片の中でよろめくステージドラゴン。


 頭の上で踊っていたルビーも顔色を変えて、その頭にしがみついていた。


「……や、やるじゃん☆ でもこれからだよ! 弾けろサウンド♪ 轟け愛♡ ボクの声ですべてのハートを鷲掴みなんだから☆」


「ギャオオオン!」


 甲高いシャウトがハウリングする。


 叩きつけられる音波はもはや爆発だった。


 いや、この音が攻撃か。


 ドンと地面を爆砕されたが、クレソンのボディは傷一つ負ってはいなかった。


「ええ☆ マジマジ!?」


 うーん、この娘、反応が好きだな。うむ。


 驚き声が心地いい。


 存分に驚くがいいだろう。これはレベルアップによって覚えた新たなスキル―――。


「スルー!」


 スルーは攻撃を受け流す防御スキルである。


 連発は出来ないが、どんな攻撃でもダメージを無力化出来る回避技。


 身体がブレて、一瞬だけ存在が希薄になったクレソンはダメージエフェクトも一切発生しない。


 そしてアタックチャンス。


 攻撃を終えた瞬間、ステージドラゴンがガタつきはじめた。


 ボンボンとスモークが誤作動を起こし、ボヨヨンと間抜けな音が聞こえたなら、これはチャンスである。


 いけ! クレソン! お前の力を見せてやれ!


 くらいの勢いでパワースラッシュを叩き込んだが……HPの残りを見て、ムムムと私は眉間に皺を寄せた。


 うーむ……これは、弱点ってほどではないけど、等倍くらいかな? ちょっと先が長いかもしれない。


 こんな時どうするかって?


 戻って、装備を新調してから再び挑む?


 レベルを上げて、パワーで殴り倒す?


 いやいや、そんなことはやることをすべてやり尽くした後にどうしてもダメならやればいい。


「だがうちのクレソンは……そんな弱い子ではないのだよ!」


 パワースラッシュ! パワースラッシュ!


 つまるところ最大火力でゴリ押しである。


「ハハハハ! 効果ないよそんなの☆ そんなに私の歌が聞きたいのかな♡」


 聞きたい聞きたい! 何ならフルで聞いた後、アンコールプリーズ!


 心なしかうんざりした顔の我がAペットだが、もはや後退なんてありえなかった。


「だけどそれはバトルの後でだ! さぁ諸君。フィナーレだ!」


 迷いが無ければタップも早い。


 さぁここからは根比べだアイドル。


 クレソンの斬撃は鋭かった。


 クリティカルは何度も出たし、クレソンは何度か避けてもいた。


 スピニッチとブロッコリーも頑張った。


 その太い腕から繰り出される、若干貧弱さを感じる攻撃は十分すぎる成果を出したことだろう。


 スクラップになったとしてもその雄姿の価値が損なわれるということはないはずである。


 その結果……


「あっ……ぶな~」


 私は勝利した。


「うわーん! あんたいくらなんでも粘りすぎ―★!」


 バグは今度こそショートしながら崩れ落ちる


 ステージドラゴンの爆発シーンよりも、これ本当に残っているのか?というくらい糸みたいな細さで奇跡的に残ったHPバーの方がスクショしたい惨状だった。


 まさに辛勝である。


 推奨レベルはいい勝負するためにあるんだねと、匠のバランス調整をそこに見た。


「でもおめでとう! 限定解除試験突破だよ♡ これで君は次のエリアに行けるからがんばってね!」


「はい、ありがとうございます!」


「ねぇそれと……ボクのライブどうだった?」


 どうだったかだと? そんなもの、実は中の声優さんファンの私の答えは決まっていた。


「ルビーちゃんサイコー!」


「この後も、私のライブは定期的に開催してるから、次回は有料で入ってね! 入場得点でペンライトを配ってるから☆」


 何とペンライトとな?


 それはまた汎用性が高そうなアイテムを配ってくれるものだった。


 後で調べたら、かなり色にバリエーションがあるらしく、全種コンプリートには少なくともライブに10回は通わなければならないのだとか。


 アイドルオタの道も平たんではないか。


 でもとりあえずもう一曲くらいは聞いていこう。


 試験が終わっても、こっそりライブの時間まで居座ってたら無料でそのままいけるんじゃないか?


 そう思った私はあっさり追い出された。


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