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22.勝利の味

「一回くらい……一回くらい勝たせてくれてもいいだろうがよ!」


 ダン!


 私は思わずテーブルを叩いた。


 このゲーム、初心者私だけなのかな?


 取り乱しました、私はやはり弱い。いやオンラインバトルを楽しむ最低限の準備すら出来てはいなかったようだ。ネットはやはり奥が深い。


 シナリオを全く進めないのは舐めすぎだったのだろう。


 ショーバトルで一回勝ったからって調子に乗りました、こっちが本番でしたわ。


「……私は浅はかな虫野郎ですごめんなさい」


 ちょっと心折れた私だが、しかし悲しみの代償は経験値として沢山もらったので私を踏んづけていった強者たちには感謝しよう。


 へっへっへっ、経験値もファイトマネーもがっぽりいただいたぜ! 精々仮初の勝利を今のうちに噛みしめておくんだなぁ! 


 ……などと負け惜しみを言いつつ、私はゲーム攻略に戻った。


 赤いミッションを攻略するのは、強くなった私達には実に造作もない。


 向かってくるモンスター型バグたちをちぎっては投げ、ちぎっては投げ。


 大きな巨人や、吸血鬼のようなバグを打倒したクレソン達が強くなったことを実感する。


「お、覚えているずらー!」


 おや? 何か聞こえた気がしたが、まぁ何らかのフラグが立ってすべてのストーリーミッションは終了である。


「ふぅ……これはいけるな」


 私は悟り、敗北を糧に強くなった仲間達を引きつれてやって来たのはスタジアム。


 そう、次のエリアに行くための限定解除試験を受けるその場所である。


 ずっと中にも入れなかったが、通行可能になったスタジアムは、本日ライブのお知らせが。


 菅理者ルビーのライブはすでに大きな歓声がスタジアムの外からでも聞こえてきた。


 私が入場すると、おや? ムービー出るのね。気合入りすぎじゃない?


 ムービーでは、動くたびにハートをまき散らすルビーが縦横無尽にステージ上を飛び回り、ウインクをこちらに向ける。


 アレは間違いなく私にしたね。


 そして一曲書き下ろされているあたり優遇具合が半端じゃない。


 歌の長さは一分半。ちなみにスキップ不可だった。


『ふぅ! じゃあ改めてこんにちは♡! 今日のチャレンジャーは君かな? 最高のステージになる様に君の全力! 引き出してあげる☆!」


「……」


 はっ! 完全に鑑賞モードに入ってた!


 ルビーちゃん愛してるー! なんて言ってる場合ではない。


 待ちに待った限定試験開始である。


 さぁAペット達よ、敗北にまみれたレべル上げの成果を今ここで見せつけてやろうではないか。


 姫騎士形態の合法改造エクスカリバーが唸る。


『じゃあとっておき☆』


 マイクを掲げたその瞬間、スタジアムにスピーカーから爆音が鳴り響いた。


 歌の波がこちらに伝わってくるようだったが、会場が揺れているのは歌だけのせいではなかった。


 スピーカーが動いてる? いやステージが動いてる?


 変形していくステージは巨大なドラゴン型に姿を変え、頭のてっぺんには歌って踊るルビーちゃんがハートを飛ばして、脳がバグりそうだ。


「こっから本番! 全開でいくっよー♡!」


 ハートがピンク色の炎のように弾け。ドラゴンが吼えると戦闘は始まる。


 うん、デカすぎじゃない?


 大丈夫クレソン? 一回セーブしとく?


 そんな私の及び腰とは裏腹に、クレソンは両手剣を振り上げた。


 このまま挑むのもいい……しかし今日の私はイケてなかった。




 私はいったんゲームを切り上げる。


 厚すぎるほど厚い豚肉を、低温調理機で調理!


 61度以上で30分以上調理が推奨されているらしいが、豚肉の中心温度が63度が理想なんだとか。


 厚さや、器具によっても違いがあるだろうから出来る限り条件の近いレシピを探してやってみるとしよう。


 では一時間とちょっとマッタリ。


 その間に小麦粉や卵、そしてパン粉をあらかじめ用意しておく。


 ご飯も炊いてー。キャベツも一枚一枚伸ばして重ね、丁寧に千切りして、調味料も忘れずに。


 少しずつ慣れない準備を整えて、ソワソワしていたら一時間なんてあっという間だった。


 では最後の調理を始めよう。


 たっぷりの油に下準備を整えた豚肉を投入。


 心地よい油の跳ねる音を聞きながら、きつね色になるまで目でも堪能すれば完成である。


「前準備で切っておいたキャベツを盛って……たっぷりソースをつけたら……完成だ!」


 私はキャベツにマヨネーズもかけて一緒に食べるのが好きだが、なんだかそれは意見が分かれそうだと思う。


 こいつを食べればもう大丈夫。


 真っ白なご飯を用意して―――。


 ざっくりとした歯ごたえからの、豚肉の油を飲み干せば、私の負け癖を溶かしてくれるに違いない。


 きっと勝利確定……というか口の中はすでに勝利である。


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