20.リコちゃんの襲撃
敵が強くなってた。特にボス。
そういうことは先に教えておいてくれると助かる。
ああ、大事なAペットを2体も犠牲にしてしまったが、救済措置に助けられた……そう言うことにしておこう。
「レベル上げが必要だなぁ……」
まぁ仕方がない。レベル上げは大事である。
干し芋でも齧りつつ。しばらく私は地味な作業に時間を捧げることにした。
しかし楽し気な世界のくせに、恐ろしい敵もいたものである。
ただ、レベル上げのために地道にクエストを受けていると、傾向はわかって来た。
アイコンが白いクエストは必ずしもクリアする必要がないミニクエスト。
アイテムを取ってきてほしいだとか、指名手配のバグを狩ってきてほしいなんて言うのが定番で、無限に存在する資金稼ぎとなる。
そして赤文字の特別なクエストがストーリーを進行するためのクエストである。
レベル上げは、上げにくくなってきたしストーリー進行で機能が解放される以上、ガンガン行くしかないだろう。
赤いクエストを受けて、私は受付に持ってゆく。
受付Aペットは感情の籠らない声で説明を始めた。
やってきたエリアはずいぶんと古めかしい茶色い機械の町だった。
遺跡の様だが、まだ機能自体は死んでいないらしく歯車が回り、蒸気がそこら中で上がっていた。
「うーん実にスチームパンク。この情緒、嫌いじゃない」
ここで出てくるバグは、機関車みたいな煙突をつけたバグが多く、みんな口と頭から煙を出していた。
クレソンで敵バグを撃破しつつ、ダンジョンの奥へと進む。
今回はなるべく自爆はしない方針である。
その時、人がいないはずのダンジョンの中で私は声をかけられていた。
「あれ? 君もここに来てたんだね!」
おやこの声は、マイエンジェル・リコちゃんじゃないか!
これは運命の出会いかしら?
いやいや、まぁ普通にイベントなんだろうけれども、出会えて私は幸せだった。
「ファンタジーコミュって面白いね! 私ライブって初めて観ちゃった!」
えぇ―マジで? 私もチケット買うために資金集めに励んじゃおうかしら?
ものすごく嬉しそうにはしゃぐリコちゃんはすでにライブを体験してきたようである。
普通に羨ましいが、それはもうすでに管理者に会ったことを意味していた。
「わたしのAペットもずいぶん強くなったんだ! どうかな? 君も強くなったんでしょう? 私と腕試ししない?」
ハイ喜んで!
まぁ私は即答である。
いいでしょう、コンクール入賞者の実力とくと見せてあげましょう!
スチームパンクの町でステージをセットアップ。
向かい合うリコの前にはリコリスが姿を現した。
その手に持つ刀は本日も切れ味よさそうだ。
和風にも見える衣裳を身に纏ったリコリスに新鮮な驚きを感じつつ、私はクレソンを呼び出した。
「さぁ行ってきなさいクレソン」
調子はどうだい? そうか絶好調か。まぁ幻聴である。
だが今までの相手と違ってリコリスなら十全にクレソンの性能を試せるだろう。
エクスカリバーを構えたクレソンは先制で飛び上がり、剣を振りかぶると聖剣に青白い光がほとばしる。
クレソンが新たに覚えたスキル『パワースラッシュ』は渾身の力をこめて打ち下ろす威力重視の大技だった。
だが威力と引き換えに、必ず当たるわけではないがそれでも当たればデカい。
ガツンと一撃食らわせると光の刃はリコリスを鮮やかに切り裂き、HPバーをかなり持って行った。
「よしよし」
派手にエフェクトを飛び散らせてよろめくリコリスに、心なしかクレソンも得意気な気がした。
「うわわ! やられた! すごいね! でも……私もこれで終わりじゃないよ! リコリス!」
リコちゃんのセリフに応えてリコリスの体に無数の赤い線が走った。
特に刀の輝きはすさまじく、どこか禍々しく見えるのは気のせいではないだろう。
私は何事かと目を細め、それがウエポンスキルだと気が付いた。
バーサクコード
同じ技しか使えなくなるが、攻撃力を2倍に引き上げるウエポンスキル。
ググった私はいや待てよと思わずツッコミを入れた。
2倍って―――結構つらくない?
まーまー、どうにかなるだろう。当たらなければどうということはない。
実際もう半分以上はHPをもっていっている。
クレソンはもう一度剣を振りかぶり、剣の輝きを全開にする。
狙うはあの禍々しいウエポンスキルを身に纏うリコリスである。
「いけ! クレソン! お前の力を見せてくれ!」
祈りながら放った渾身の一撃は、命中率が低いにもかかわらず吸い込まれるようにリコリスを両断した。
「ああ! リコリス!……」
リコちゃんの悲鳴が響き渡る。
「結構ギリギリ……」
どうやら無事勝つことが出来たようだ。
悪く思うなよリコちゃん。これも勝負なので。
だがリコはすぐにキッとこちらに鋭い視線を飛ばし、手元を操作した。
「大丈夫まだ終りじゃない! 行って! カキツバタ!」
カキツバタ?
頑なにリコリスしか出さなかったリコちゃんに油断していた私の前に、忍者姿のそいつは姿を現した。
ええニンジャ!? ニンジャなんで???
しかもくノ一とは完全に意表をつかれた。
まさかいると思ってなかった伏兵に私は固まった。
でもそうだよな、リコちゃんだって強くなってるのだ。
私のメンバーだって3人いるのだし、一体増えたところで問題ない。
いや、普通に考えたら限定解除が終わっているなら私よりも一体多くてもいいくらいである。
ならばクレソン! 必殺パワースラッシュでニンジャ野郎の脳天を叩き割ってやろうじゃないか!
パワースラッシュを指示すると、力を溜める我らがクレソンはまさに騎士の様だった。
約束された勝利をまた私にプレゼントしてくれるに違いないと私は確信していた。
踏みこみは神速。
流星のような斬撃はダン!とたたきつけられた……地面に。
「あ」
ミス。
ダメージゼロ!
一転して大ピンチ!
カキツバタはすぐさまでっかい手裏剣を構え、分身してすれ違いざまにクレソンを切り裂いて行く。
先制をとられ、素早さはリコリス以上で確定である。
「あああ!」
そしてあの分身! 絶対ウエポンスキルだ!後で探してみよう!
ダメージ自体は少なくなったが、二回のダメージ表記が気にかかる。
受けたダメージに私は戦慄した。
「そんな! クレソンが死んだ!」
すべての攻撃を2回攻撃にする。そんなウエポンスキルだったんだと私はその瞬間悟っていた。
密かに少々ステータスの割り振り的に防御力低めなクレソンにピッタリだと思われたウエポンスキル。
エクスカリバーの『リカバリー』は、満タンの状態で一撃で死にかけると1残ると言うものだったが、一撃で死んだ。
悪い方に噛み合った、最悪である。
「クッ!」
私は続いてブロッコリーを選択。
だがブロッコリーでは長くは耐えられまい。
強くなったな。リコちゃん。
では、次のターンどうすべきか?
ブロッコリーの武器は斧だが、技のバリエーションはクレソンと似たり寄ったりだ。
だがディフェンスにステータスを振っているから耐久力は結構ある。
斧の一撃を叩き込むクラッシュはかなり攻撃力が高いから、半分以上は持っていけるだろう。
バフ技もあるが、ここで使ったら問答無用で殺されそうだ。
だがこちらには絶対に勝てる方法が一つだけあった。
「……いけ」
私はクラッシュを指示。
手裏剣の一撃は先にたたき込まれ、ブロッコリーのHPをほとんど持って行ったがかろうじて生きたブロッコリーは本当に偉い。
だがそんなブロッコリーに出す指示は我ながら非道そのものだった。
「……すまんブロッコリー!」
ポチッと。
絶対当たるHP半分持っていく奴! 相手は死ぬ!
鮮烈な爆炎を前にして、私は敬礼しながら涙する。
「ああ……負けちゃったか。やっぱり君強いなぁ」
「……」
この勝利はさすがにむなしい。
勝負は勝った。だがなんとも言えない敗北感が腹の底に溜まっていた。
リコちゃんの負け台詞を聞いても胸に穴が開いたようだった。




