表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
20/37

19.裏の意図

 私はトースターの中を覗き込む。


 中にはソースをたっぷり塗ったトーストに刻んだ野菜とウインナー。そしてはみ出しそうなほどのチーズが乗っていて、徐々に溶け出しながら具材を包み込んでゆく。


 トロトロのチーズを見ているだけで幸せな気分になるが、ピザトーストのマックスはチーズが焦げ出してからが本番である。


 完全に自分好みの焦げを見極め取り出す。


 中々根気のいる作業ではあったが、完全に好みに色を変え完成されたピザを見た時、全てが報われるのだ。


「よし、準備はできた……はじめようか」


 我が作品の名はクレソン。


 聖剣エクスカリバーに選ばれし、最強無敵のAペットである。


 なんちゃって。


 イヤー新しい剣を装備して戦闘してモーション確認してみたが、振るたびに光の軌道が出て最高だ。今度暗闇を見つけてもっかいやってみよう。


 あのショップの人……名前がかわいいマリリンさん。どうやらかなりいい仕事をする方だったようだ。覚えておこう。


 せっかくなのでアキバエリアをさらに潜り、白銀の鎧とドレス。真っ赤な王様マントも購入。


 そうすればホラこの通り。立派な女騎士の出来上がりだった。


 さてこのゲーム、衣装も相性を決める重要な要素ではある。


 属性はカラーパレットで比率の高い色属性に振り分けられ、武器にはウエポンスキルはあるが攻撃力が上がるわけじゃない。


 クレソンの場合は鎧の色が黒よりの銀なので、現在黒属性とはなるだろう……。


「つまり……これだけ頑張っても、めちゃくちゃ強くなることはない!」


 だがそれでいい! 


 理屈はともかく、両手持ちの聖剣に鎧ドレス美女は正義である。


 そこに山賊二人が同行しているのは絵的にやばいが……まぁ、悪い奴らではないのだ。


 Aペットを見た目で判断してはいけない。


 ホクホクと思ったより楽しかったアキバアンダーグラウンドでお買い物を済ませて帰ると、最初のクエストも終了だった。


「はい。アキバエリアでの買い物、終了です。お疲れさまでした」


 いやぁ受付嬢さん軽いもんっすよ。


 やっぱり専用ボイスをもらっている受付さんに聞き惚れ、私は新たなクエストを求めて掲示板に急いだ。


 このコミューンでの基本的な攻略の手順はなんとなくわかった。


 つまりアキバエリアで買い物をすることも含めて、すべてはチュートリアルだったわけだ。


 では、これからがシナリオ攻略の本番である。


 私は掲示板をじっと眺めて、ふと気にかかったクエストを受注する。


 超大型バグ討伐クエスト。


 難易度はAランク。


 見るからに難しそうなクエストだが、私ならばやれるのではないだろうか?


 なにせクレソンの武器はオンラインのアンダーグラウンド製。


 そして今の私は初参加でコンテストに入賞するこの豪運、負ける気がしない。


 なに、ストーリークエストなんて、サクサク進むの前提だ。


 私は軽い気持ちでクエストを受ける。


 さて目指すはバトルエリア。


 様々な地形を再現しているという、冒険専用のエリアである。




 バトルエリアのスタートは草原だった。


 そしてこのエリアに、クエストの大物バグというやつがいるらしい。


 場違いなほど広大な草むらをサクサクと進んでいると、早速バグが姿を現してバトルに突入した。


 「これはまさかスライムか!」


 そう思った私は、出てきたスライム状の何かの中に機械みたいなものを発見した。


 液体の中でコロコロと回転する機械はあくまでバグだと主張してくる。


 だがやはり、ここでのバグのモチーフは明らかだった。


「クレソンスラッシュ!」


 エクスカリバーはスライムバグを一刀両断する。


 まさに雑魚ポジのやられっぷりに私は逆にほっこりした。


 チリンチリンとコインでも飛び散りそうな音が聞こえたなら、やる気が出てくるというものだった。


 バトルエリアは戦闘しやすい。


 バグの種類も様々で、エリアごとに強さに合わせてレベリングできる。


 続いて出て来た目の前のトカゲ型バグを一刀両断するクレソンの技のキレもマシマシである。


 これは中々おいしい。


 私はホクホク顔でアツアツピザトーストを頬張った。


 ああ、うまい。上あごが火傷しそうなほどにチーズに、ザクザクのトーストが最高だ。


 これはザクザク敵を倒してさらに上のステップに……なんて事をしている場合じゃなかった。


 クエストだクエスト。


 このエリアのどこかに超大型バグが出るんだった。


 クレソンの雄姿に見とれていたが、まずはストーリーを進める事こそ寛容だろう。


 なに、超デカいというならすぐ見つかるさ。


 私は探索して……うわぁでっかい。


 超大型はエリアのあるポイントに足を踏み入れた瞬間、突如出現した。


 「いや今リポップしたのか! こざかしい!」


 クエストを受けた誰かがここに足を踏み入れた瞬間に現れる仕様ということか。


 私はクレソンにスラッシュを指示。


 先制で斬り込んだクレソンの聖剣は、ズバリとスライムを切り裂くが……HPの減りは今一だった。


 というか少なすぎる。


 私は思わず二度見する。


 なぜか敵は様子を見ていて動かないのをいいことに、クレソン二度目の攻撃。


「ダブルスラッシュ!」


 ちびっとダメージが。


「……あ、これ、ダメじゃね?」


 そう気づいた時にはぶにょんとデカスライムがハンマー型に変形。


 猛烈な勢いで振り下ろされた一撃はプチリとクレソンを叩き潰す。


 くれそーん!


 ノイズを残して消えるクレソンのHPはゼロである。


 ぐ! これはマズイ! 致命的にレベルが足りてない感じだ!


 残るAペットはスピニッチとブロッコリーの2体だが、どちらもクレソンにレベルで劣る。


「だがやるしかない! 行ってこいスピニッチ!」


 出現した斧を持ったモヒカンが勇敢に構える。


 威圧感は相当なものだが、実はクレソンよりも力とか遥かに弱い残念仕様である。


 斧中心のスキル構成でワンチャンつけいる隙はあるかもしれないが、あと一つ何かないと勝つのは難しいだろう。


 なにか……そう、何か都合の良い仕様はないか?


 はっきり言って勝てる気がまるでしない。


 オプションから難易度設定なんてものがあったら、この瞬間だけイージーとかにしたいもんだと私は脂汗を掻いた。


 だがそこで私はスキル横にある禁断のアイコンに気が付いてしまった。


 いや……思い出したというべきか。


 ごく最近、最悪の悲劇を引き起こしたあのアイコンをである。


「……」


 ある意味浪漫だが……自分で使うには抵抗があるそのボタンは相変わらず独特の存在感だった。


「えい」


 チュドム!


 すぴに―――ち!


 彼の尊い犠牲はきっと勝利の二文字で報われることになるだろう。


 スピニッチよ……お前の貢献は忘れない。


 自爆の一撃は容赦なくスライムのHPを削るが、残念ながらしとめるには至らなかった。


「え? スピニッチ報われないじゃない」


 何ってこった! スピニッチは無駄死にだったってのか! これ以上私に何ができると!


 しかしAペット一覧には新たな仲間、ブロッコリーの姿が……。


「……」


 巨大スライムは一ターン様子を見る。


 幸い私に都合がいいこの現象は、こういう仕様なのだろう。


 いい機械なのでクレソンをかろうじて持っていた蘇生アイテムで復活させておく。


 私のターン!


「ポチっと」


 バリバリとスパークして光り出すブロッコリー。


 弱っているバグスライムに突撃する彼は間違いなく輝いていた。


 チュドム!


 ぶろっこり―――!


 そうして命の輝きは再び解き放たれた。


 今度こそ本当に相手のHPを削り切り、断末魔を上げて液体になる巨大スライムを見て、私は自らの行いに恐怖した。


 そして私は自爆の真の意図に気が付いてしまった。


 こいつはいうなれば救済措置だ。


 自爆という字面がなんとなく抵抗を感じさせるが、これこそライトユーザー向けの難易度調整というわけだ。


 どうしてもストーリーが進めたかったら、自爆をしても進めと。


「……恐ろしいゲームだ」


 私は冷や汗を拭った。


 地面に溶けるように消えてゆく巨大スライムが哀愁を誘う。


 ただそれでも経験値はおいしく、シナリオは一個進んだ。


「……帰って修理するか」


 心なしか、クレソンの視線さえどこか冷たい気がするが、必要な犠牲だったんだ。


 どこか悔しいような、そんな気持ちが湧いたむなしい勝利の記憶である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ