第28話 舞台準備
いつもよりかなり短くなっています。
楽しみにしてくれているみなさんには本当に申し訳ありません。
夜も更けて、今は22時ごろ。
俺はアローラさんの部屋に向かっていた。
暗い廊下を通り抜けアローラさんの部屋へと向かう。
トントンと扉を軽く叩き声を掛ける。
「かなんです。アローラさん起きていらっしゃっいますか」
「ええ、どうぞ」
「こんばんは、かなんさん。こんな時間にどうしたのかしら?」
「単刀直入にお聞きしますが、あの婚約者のことはどう思っているんですか?」
アローラさんは突然の質問に驚いた表情になる。
「そうね。彼のことはまだ好きとは言えないけれど、良い夫婦になれたらとは思っているわ」
「…………」
「政略結婚でも、お父様の助けになれるならなんでもしたいと私はおもっているの。だから気にしないいで」
彼女は優しく微笑む。
「すみません」
二重の意味での謝罪。
こんな夜遅くに女性の部屋を訪れたことにたいするものとアローラさんのために何もできないことへの。
彼女はエルフ族であるにも関わらず、差別しない。
俺にもナナにもとても優しく接してくれた。
ナナと三人一緒に街を回ったこともある。
エルフには選民思想が蔓延っているにも関わらず、だ。
俺は部屋を出る。
「ありがとう。かなんさん。優しいのね」
彼女の優しい言葉が胸に突き刺さる。
俺はそのまま部屋に戻り眠れぬ夜を過ごした。
次の日。
マギアでの「基礎魔法理論Ⅰ」の授業を終え、ナナと話しながら昼食をとっていると、金髪の少女がこちらをちらっちらっと見ているのが、目の隅に入った。
もちろん、フィーアと呼ばれていた少女だ。
気のせいでは……ないな。
「先輩、なんか見られてますけど」
どうやらナナも気づいたようだ。
「やっぱり昨日のことだろうなぁ」
「ああ。なるほど」
俺がフィーアの方を見るとふいっと顔をそらす。
いかにも見てませんよわたしぃ!と主張するように。
どうしたものかと考えながらいるうちにまた数日が経った。
俺は疲弊していた。さすがに放課後まではついてこないがいたるところでフィーアの視線を感じるのだ。
いい加減堪忍袋の緒が切れてフィーアに物申そうとしたときだ。
俺はカインズさん奥さんを見かけた。
訝しみながらを状況を見る。
奥さんは黒い帽子を被った男と何かを話している。
不信さ満載だが、特に襲われていたり、脅されていたりするわけではないようなので、後で聞こうと思う。
もう頭の中からフィーアのことはすっかり忘れ去られていた。
その日の夕食前。
俺は奥さんと話をしていた。
「あれは誰なんですか」
「そ、そんなの知らないわ」
「カインズさんに言ってもいいですね?」
「それは!」
なんでだろう。
これじゃ俺がまるで悪役みたいな。
まぁ、いいか。
「何をしていたか教えてもらえませんか?」
「……わかりました。私が会っていたのは娘の婚約者の父親なのです」
「あいつの父親?」
「そうです。父親の方が私に自分の妾にならないかと。これまでよりもいい暮らしをさせてやるし、夫にもこれまでよりも良い地位を約束しようと」
「それは……」
くそ野郎じゃねぇかという言葉を必死に飲み込んだ。
確かに言われてみればあの男はアローラさんの婚約者のあいつに似ていた。
本当に父親なのだろう。
俺はなんてことをしてしまったのだろう。
そんな考えが頭の中を駆け巡る。
「すみません。お見苦しいところを……主人には言わないでもらえないでしょうか?」
彼女は俺に腹を立てるでもなく真摯に頼み込んでくる。
俺は申し訳なさと、やってしまったという気持ちでいっぱいになった。
俺は奥さんに黙っているということを確約し、その場を急いで後にする。
一方そのころ、カインズさんの執務室には来客があった。
「お初にお目にかかります。カインズ氏。私は探偵のようなものをやっております、ミセルと申します。どうぞお見知りおきを」
「初めまして、ミセルさん。それで、その密偵さんが私にどのようなご用件で?」
「奥様のことにございます」
「妻の?何を言っているんだ?」
「奥様は最近ちょくちょくお出かけになりますよね。はて、どこにいっているのでしょう?」
ミセルが憎たらしい笑みを浮かべながら、こちらを見ている。
「どういう意味だ?」
分かっていても腹が立つ。私の大事な妻に対してなんてことを言うんだ、この男は。
「ホホ。本当にお分かりにならない?それはよほどの阿呆でございますねぇ」
こちらに向かってまざまざと嘲りの表情を向けてくる。
神経の太さに感心すると同時に言いようのない怒りが沸々と立ってきた。
「どういう意味だと聞いている!」
私が声を荒げると奴はニコニコと笑みを浮かべたまま何も言わない。
どうあっても私の口から言わせたいようだ。
「妻が不倫してるとでも言いたいのか?ふざけるな。そんなたわごとを良いに来たのだったら、とっとと帰るがいい!」
「ホホホ。わかっているじゃあないですか」
そう言って至極楽しそうに口角を上げる。
「それでは、これを見てもそう言えますかな?」
奴が取り出したのは上映場で使われる記録用結晶。
映し出された映像に映っていたのは妻と娘の婚約者の父親であり、長老会のメンバーでもあるゴーズ氏。
そのゴーズ氏と妻が一緒に食事をとっているところ。
妻の方は背面なので顔は見えないが一緒にいるゴーズ氏はとても楽しそうだ。
もう、何というか……
いや、そんなことはない。
妻は私のことを思ってくれているはずだと思うが自身が少々そがれてしまう。
そんなところへ奴はさらなる攻撃に出てくる。
「どうやら、好待遇が約束されているらしいですよ(笑)」
字面に(笑)と書いてあるような言い方を奴はする。
確かに、ゴーズ氏ならそういうことも可能だろう。
でも、妻なら。
このころにはもう少し自信がなくなってきていた。
そこへさらなる爆弾を投下してくる。
「まぁ、娘さんもいることですしねぇ」
その言葉で頭の中が真っ白になった。
混乱している私に奴は一言放って出ていく。
「それでは。身の回りにお気を付けくださいませ」
奴の言葉は私の心を惑わせるのには十分だった。
妻は大事にしているが、ここのところ放置気味になってしまっている。
このことがもしかしたら……。
疑心暗鬼に陥ってしまい、悶々と業務をこなす羽目になるのだった。
同じように窓からこれを見、ほくそ笑むものが一人。
「これで二つ目。もう少しで最高のハーモニーを響かせますよ。それまでしばし、お待ちくださいね。くくっ」
二つ目にして強力過ぎる布石を置き終えた。
心底嬉しそうにその場を後にする。
奏で終えるまであともう少し。
カインズ家の各々はそれぞれの思いを胸に秘めたまま夕食を共にするのだった。
次回はいつも通り更新できると思います。
頑張ります!




