第25話 迷いの森
遅くなりましたっ!
第2章の細かいところを詰めていたら思いの外時間を食ってしまいました。
別にSAOの新作ゲームが出たから遅くなったわけではないんですよ?
風の国を目指しているが足取りは重い。
愛のことが頭から離れない。
助けられなかった。
最大限苦しみを与えるように殺された。
仇を討つこともできなかった。
炎龍に無様に負けた。
やるせない。
領土を与えられ、英雄に祭り上げられた俺が王に逆らうことなどできるはずもなく、こうして風の国を目指している。
目的は二つ。
親善のためと賢者の捜索。
本当はそんなことはどうでもいい。
愛を助けられそうな人なんてショーゴかあのエルフィって子だけだ。
涙が溢れそうになる。
わかってはいるんだ。
もう愛には会えないって。
メローペは彼女を養分として吸った。
後には何も残らない。
食べ物がのどを通らない。
無理して食べても全部戻してしまっている。
俺はこれから自分が助かるためだけに生きていくんだろうか?
それで愛のことを報告する?
できるわけがない。
それがしなければならないことなのはわかっている。
彼女を助けられるかもしれない極小の可能性に、希望にかけて俺は風の国を目指す。
夜も更けて村についた。
ここはもう風の国の領土内だろう。
獣人が多いようだ。人間も時たま見かける。
ここはティファナという名の村らしい。
宿を取り一泊する。
次の日、気まぐれに辺りを散策する。
何をしていても気が晴れることはない。
心に穴が開いたようだ。
ふといい香りがした。桃のような香り。
マントに隠れていてほとんど見えないがピンク色の髪が見える。
ナナか?
一瞬そう考えるがそんなはずはない。
ナナはアイシクルにいるはずだ。転移魔法がないこの世界で移動できるはずがない。
俺は村を後にし、迷いの森を目指す。
道中は当然モンスターに出会うこともなく、オークに出会うこともなかった。
森の入り口にたどり着く。
看板があるな。
「ここは迷いの森なり。下賤の者はすぐに引き返すがいい。命が惜しくば」か。
随分と物騒だな。
確か風の国にはエルフが多いはずだ。
エルフか。
ピアニャとフルールさんだな。
フルールさん曰くは、ハーフは忌避されるってことだったけど。
迷いの森はどうやって超えるのだろうか。
一応、王国の使者ってことになっているし、きっと誰かが迎えに来てくれるかなんかするだろ。
迷いの森の中は木々立ち並び、草が生い茂っていた。
少し薄気味悪い感じがする。
背の高い木々によって日は当たらないし何かが起こりそうな雰囲気だ。
とりあえず進んでいく。
突き当りに行きつく。
まずは分かれ道だ。
右か左か。
まずは右へ。
30分ほど歩くと一本道が終わりひらけたところに出る。
そこの中心には巨大樹があった。
何百年もの歴史を感じさせられる。
たくさんの動物たちが住処にしているようだ。
リスや鳥、見たことのない動物たちもいる。
木に触れると生命力を感じるかのようだった。
外周に沿い歩いてみたが特に通路などは発見できなかった。
試しに道ではないところをあるいてみたが気づくと道を歩いていた。
魔法だろう。
正規の道を通らないとこの森を抜けることはできないらしい。
そのあと夜まで探索したが特に何も見つからなかった。
もうどこが最初の場所かもわからない。
さすがに迷いの森といったところか。
何度もたどり着いてしまうひらけた場所―大樹エリアと呼ぶことにした―で睡眠をとることにする。
大樹エリアならば見通しもいいし、襲われる際には気づきやすいだろう。
簡易な寝袋を出し寝た。
不意に起きる。
獣の気配だ。
集団でしかも足音の消し方がとてもうまい。
浅い眠りでなければ気づかずに死んでいたところだろう。
剣はない。
町や村で買っておくべきだった。
今さらながらに自分の浅慮を悔いるがもう遅い。
バイオリンを構える。
現れたのはオオカミだった。
懐かしい。
あの時はウォーターウルフだったが今回は森ウルフといったところか。
ウォーターウルフよりは強そうだ。
俺は風をイメージしてバイオリンを弾く。
軽く早く。
軽快に奏でる。
すぐに風が発生しオオカミたちを切り刻む。
二匹が倒れる。
しかし数が多いので次々と襲い掛かってくる。
野良モンスターというか野生の獣に近いオオカミたちには剣の方が対処しやすいということを改めて実感する。
さらに一匹倒したところでリーダー格の個体にやられる。
傷は浅いがこの調子で戦っていると負ける。
ここであることに気が付く。
傷口が変色している。
ふと嫌な考えが頭をよぎる。
死ぬのか、と。
ここはラノベやアニメ、ゲームの世界などではない。
勇者ではない俺はいわゆる加護というやつがないだろう。
死んだらお金を失ってコンティニュー?
教会に行けば蘇生してもらえる?
加護で死なない?
全くもってそんなことはない。
現実にそんなご都合主義なことはない。
で、だ。
ならば、どうしてモンスターが弱いのから順番に襲ってきてくれるだろうか?
モンスターたちは勇者が徐々に強くなるのに合わせて襲ってくるか?
悪い魔王は唯一の障害である勇者を殺さないか?
答えは否だ。
普通ならそんな目の上の瘤など弱いうちに全力をもって叩き潰す。
少なくとも俺ならそうする。
この世界では力がものをいう。
もちろんそれだけではないし、他の要因もあろう。
何を言っているかわからないか?
そうだな、例えば迷いの森でオオカミの群れの中に今の自分では絶対に勝てなそうな相手がいるとする。
Lv.1の相手にLv.100が負ける道理があるだろうか?
ない。
死なない加護も回復魔法すらおぼつかない世界でどうして勝てると思うだろうか?
死んだら終いだ。
長くなったが、要するに、リーダー格のウルフはヴェノムウルフだった。
もうわかるだろう?
自分より強い相手に出会い死を悟った。
その俺がこんなことを思うのは仕方ないじゃないか。
傷が痛くなくなってきた。
もう、麻痺してしまっているのか。
オオカミたちは俺を取り囲む。
その時だった。
澄んだ音色があたり一帯を包んだ。
見慣れた水球がオオカミたちを襲う。
ナナだった。
ナナがオオカミを次々蹴散らしていく。
ヴェノムウルフたちは仲間がやられたことでナナから少し距離を置いている。
その間にナナが薬を俺に飲ませる。
本来ならば開口一番でお礼を言わなければならないのに口からでたのは全然違う言葉だった。
「…ナナ、なんでここにいるんだ?」
「そ、そんなのきまってるじゃないですか…」
「俺は、俺は!」
ナナに酷いことをした!
言葉は続かなかった。
異世界に来てからナナには助けてもらいっぱなしだった。
でも、愛のことでいっぱいいっぱいになって、俺は……
「なんでわからないんですか!私は!先輩のこと好きなんですよ!!」
「っ!」
俺は茫然自失になる。
ナナが?
俺のことを好き?
状況を飲み込めない。
えーと、死にそうで?ナナが助けてくれて?ナナは俺のことが好きで?
はい?
ナナの顔を見ると赤くなっている。
マジでリンゴ。
ナナは、はっと気が付いたような顔をするとさらに顔を赤くしてやけくそ気味に魔法を放つ。
音が心なしか乱れているように感じる。
落ち着こう。
切り替えて、今は戦闘に集中するんだ。
魔法を唱える。
ナナとの合体魔法だ。
澄んだフルートの音色にバイオリンの音を重ねる。
大きな、大きな水球が優しくオオカミたちを飲み込んでいく。
ヴェノムウルフたちはなすすべもなく消滅していく。
どうにか全て倒せたようだ。
戦闘で気を張っていたためか急に力が抜ける。
このところ食事や休息をとっていなかったことも影響しているだろう。
意識を失うほどではないが立っているのもつらい。
その場に座る。
「………」
「…………」
沈黙が続く。
ナナの告白と現状がつかめないことで考えがまとまらない。
先に声を発したのはナナだった。
「…先輩、返事、もらえますか」
「……ごめん、今は答えられない」
「どう、して?」
「後輩に手を出すのはよくないと思うし…それに、あいのことをこのままにするわけにはいかない。俺はあいを救えなかったら自分が許せないと思う。だから…」
ナナは悲しそうな表情になる。でも、一瞬目を瞑った後吹っ切れたような表情になる。
「そう、ですか。………私は、諦めませんから。先輩に後輩だってことが関係ないくらい好きになってもらいますから。だから、だから!…早くあいを助けよう?」
ナナは泣いていた。
俺はこんなかわいい子に惚れられたっていう嬉しさと不甲斐無い返答しか返せない自分自身に嫌になりながらナナを抱きしめていた。
今までわかっていなかった、いやわからないようにしていた。
後輩がどんなに俺のことを好いてくれていても、ダメなことだと思った。
だけど俺は愛が好きだ。
それと同じくらいナナも大事な存在になってきている。
しっかり伝えないと。
こういうの苦手なんだけどなぁ。
「俺はあいのことを大事に思ってる。それと同じくらいナナのことも大事に思ってる。こんな俺だけど…もう少し待っていてくれれるか?」
「…うんっ!」
戦闘でのダメージが思っていたよりも大きかったらしく、俺たちはすぐに休むことにした。
ここのところは思うように休息が取れていなかったがこの時は幸せな気持ちだった。
俺とナナは手を繋いだまま眠った。
目を覚ますと手に温もりを感じた。
寝ている間中ナナの手を放さなかったようだ。
ナナの顔が目の前にある。
かわいい。
清楚なお嬢様みたいだ。
整った顔立ち。
桜色の唇。
誘惑に耐える。
「…んぅ」
声に驚いてビクッとなる。
やましいことはしていないのに。
ナナが起きたようだ。
そのあと支度をして話をする。
「ナナはどうしてきたんだ?」
「だから、せんぱいを追いかけてきたの、もうっ」
「ごめんごめん。何かわかったことがあったのか?」
「星宝具賢者の石、知ってる?」
「賢者の石か。いや、知らない」
「賢者の石は別名生還の石とも呼ばれていて所有者に永遠の命を与えるともいかなる情報でも与えるとも言われているものなの」
「それがあればあいを生き返らせることができるのか?」
「わからない。でも、エルフが賢者の石を持っているのではないかという噂がここ最近流れているの。だから、もしかしたら…」
「そうか。いろいろありがとう。ナナがいなかったら俺はもう死んでいただろうし…だから改めて言わせてくれ。ありがとう。それと、俺と一緒に来てくれないか?」
「もちろん!」
こうして、俺とナナは再び一緒に旅をすることになった。
賢者の石を求めて。
「ナナは迷いの森の道はわかるのか?」
「わからない…普通はエルフ側の案内人がいるはずだから。先輩はあいを助けるために風の国に行こうとしてたんだよね?」
「そうだな。一応、し…」
使者の役も任されているのは言っていいのだろうか?
秘密だとヴェーゼさんが言っていたような。
でもいいか。ナナと一緒に行動するならどうせわかることだし。
「どうかした?」
「いや、水の国の王様から風の国に使者として行くように言われているんだ。えーと、やることは親善大使のふりをした諜報活動と、賢者の捜索だってさ」
「賢者!本当に実在するのかな?」
「ん?ああ、そうか。ナナは気を失っていたっけ。実は炎龍を倒したのは俺じゃなくて賢者なんだよ」
「え!そうだったんだ!そっか。賢者か…」
「道はわからないか。迷いの森をどうやって抜けるか」
「でも、大使なら案内人が迎えに来てくれてもおかしくないと思いますけど…」
「まぁ、もう一回この辺りをまわってみよう。もしかしたら、見落としてるものがあるかもしれないし」
「うん」
そのあとはまずオオカミたちを倒したエリアを見て回った。
そうすると、さっきは見つからなかった穴を発見した。
かがめばぎりぎり入れそうな大きさだったので俺が先、ナナが後で中に入った。
「なんかあっさり見つかったな」
「もしかしたら、オオカミたちがカギだったのかも」
「なるほど。そうかもな」
少し進むと手を伸ばしたら天井に着くくらいの広さになった。
巣穴のようになっているのできっとオオカミたちの巣だったのだろう。
さらに行くと青白く光る部屋に出た。
「ここは?」
「きれいね~」
中に石碑のようなものがあった。
材質は石じゃない。
これは一体?
何か文字が刻まれている。
見たことあるような?
これは!
英語だ!
ところどころ削れていたりして見えない部分があるけどこれは英語で書かれている。
どうして、こんなところに英語が?
最後に人の名前が書いてあるようだ。
そのあとにも書かれているな。
こっちの部分は読めそうだ。
そこにあったのはおかしな内容だった。
アメリカ大統領、2XXX.10.―
なんで、アメリカの大統領の名前がここに?
第2章始まりました!
また、よろしくお願いします!




