第21話 3の試練
遅くなりました!
最後の試練です!
扉を開け、通路を進むと、また一本道だった。少し行ったところに台座のある部屋を発見する。
「3の試練を開始する
この試練は、貴殿の勇気を試させてもらう。
課題
この部屋から一人で出、己の勇気を示せ」
今度は一人か。
勇気とかいうだけあって勇者の真似事とかさせられるんじゃないだろうな。
考えてもわからないし、とりあえず、休憩するか。みんなも疲れている。
「少し休憩しよう」
「うん」
「はい、マイマスター」
「やったー」
「…」
琴音さんの反応がない!
なにかしてしまっただろうか。
疲れているだけだよね。
そうだよね?
聞こえなかったんだよね?
アイテムボックスから携帯食を取り出す。
あまりおいしくはないが日持ちもするし、何より値段が安い。
もっとお金が手に入るようになれば、おいしい料理をお弁当にしたりできるのだろうが。
お金って大事だよね。
食事を済ませ、話し合う。
「俺が行こうと思うんだけど」
俺がそう提案すると反対されると思ったが、異論は出なかった。ナナいわくは、
「先輩はやるといったら絶対やりますから」
と言われてしまった。
談笑しながら休憩時間を過ごし、みんなの回復を待つ。
全快とまではいかないが、多少なりとも効果はあるだろう。
「あの、みんなで帰ったら、どこか遊びに行かない?」
「いいな。行きたい」
「あそぶの?ピアニャもつれてって!」
「…でも」
「ことね、なんかあるのか?ちょっと様子変だったからさ」
「…そ、それは…」
「無理に話さなくてもいいけどさ」
「ことねん、あいのこと?」
「…そう。ナナには、お見通しだね…」
琴音が力なく笑う。
愛のことだったか。
ああ、そうか。
操られていたとは言え、愛がさらわれる原因になったのは、龍に渡したことだもんな。
罪の意識を感じてしまうだろう。
「ねぇ、ことねん。あいは優しいよ。たぶん許してくれるよ。私、すぐにあいとすっごく仲良くなれたの。だから、ことねんもすぐになれるよ。一緒にいこ?」
「…本当に行っていいのかな?」
「うん」
「なあ、ことね、実は言ってなかったんだけど、あいも、俺もこの世界の人間じゃないんだ。異世界から転移してきたんだよ。だから、その、あいと仲良くしてやってくれないか?」
「…はい」
琴音は最終的に折れてくれた。
つたない言葉だったかもしれないが、琴音に伝わったのなら良しとしよう。
「どこに行く?」
「遊園地かな。あ、でもお買いものとか、水族館とか。映画でも!」
「ピアニャはたのしいとこがいい!」
ヤミを見ると、複雑そうな表情をしていた。
ヤミはこの世界に出てこられないもんな。
「ヤミ、これ食べてみろよ」
「?栄養補給は必要ありません、マイマスター」
「いいから、いいから。これ俺が作ったんだ」
「わかりました、マイマスター」
ヤミにお手製クッキーを渡す。この間試しに作ったものがアイテムボックスに入っていた。
味の保障はしかねる。
ヤミがクッキーを食べる。
急に不安に駆られる。
「おいしいか?」
「…おいしいです、マイマスター」
「よかった」
「はじめて、食べるものです、マイマスター。いままで、こういうものは、一度も、食べたことがなかったので」
ヤミが涙を目に浮かべている。
そんなにおいしかっただろうか。
一瞬迷うが、ヤミを抱き寄せる。
「あんまり、泣くなよ。心配になるだろ」
「はい、はい、マイマスター」
ヤミが泣き止むまで抱きしめていた。
ヤミも助けてあげたいと強く思った。
ヤミは俺のことを何度も助けてくれている。
その恩返しに助けたっていいよな?
いい子にしているヤミの元にいいことがあったっていいじゃないか。
休憩を終え、試練に挑む時間になる。
俺は扉を開ける。
これが最後の試練だ。
厳しい戦いになるだろうが、さっさとクリアして、炎龍をぶっとばして、絶対に愛を救ってみせる。
はやる気持ちを抑えて、中に入る。
今までと同じ通路を進む。
視界が光に包まれる。
光が収まると、中には、女が一人いた。
かなりの美女だ。
どこか神々しささえ感じる。
そこに広がるのは王宮の寝殿のような部屋だ。
どれも素晴らしい細工が施され、芸が細かい。
値段はわからないが、とても高いものであることが分かる。
まわりを見渡すが、他には誰もいないようだ。
「ようこそ。私の城へ」
女はそう言った。
誰だこの人は?
なぜ、こんなところにいるんだ。
ここはそう簡単につける場所じゃない。
おかしい。
炎龍の従者とかか?
こちらは警戒を怠らずに返事をする。
「お前は何者だ?こんなところでなにをしている?」
「ふふっ。レディの顔を忘れるなんて酷いじゃない、異世界人さん?」
「っ!」
警戒度をいっきに引き上げる。
なぜ、知っているんだ。
俺が異世界から来たことを知っているのはごく限られた少数だけだ。
俺はなるべく異世界人であることを隠している。
ばれたらろくなことにならないのはお約束じゃん。
異世界転移モノは。
っていうのはさすがに冗談で、隠したほうがいいとナナが言っていた。
ナナのいうことに従い隠してはいるが理由は知らない。
ナナに聞いたが、話したくないと言われてしまった。
彼女が話し始める。
「あら、本当にわからないの?腹立たしいわね」
「お前は誰だ?」
「女神メローペと申します、ふふふ」
メローペは妖艶に微笑む。
どういうことだ。
女神なのか?
確か、セーゴが炎龍の名前って言っていなかったか?
こいつが愛をさらった張本人じゃないのか?
わからない。
わからないうちから襲うのはよくないな。
「では、勇気の試練をはじめましょ」
「何をすればいい?」
「私とお話ししてくれればいいわ」
「…わかった」
少し迷ったが承諾した。
試練を達成するためには必要なことだろうし、何より、この試練を達成するための情報をもらえるかもしれない。
何があるかわからないが。
「どうしてあなたはここに来たのかしら」
「あいを守ると誓ったから」
「あら、つまらない答えね。お熱いことで」
「…」
「つれないわね。女の子に嫌われるわよ」
「…」
「そう。まあ、いいわ。次ね。あなたはなぜこの世界に来たの?」
「知るか。ガクに聞け」
「うんうん。隠し事はよくないわよ」
「…」
「言う気はないのね、もういいわ。次はあなたの番よ」
「俺が質問していいってことか?」
「そうよ」
「あいはどうした、無事なのか?」
「あの子は無事とは言い難いわね。生きてはいるわよ」
「っ!ふぅ」
深呼吸をして一度気持ちを落ち着ける。
まだだ。
まだ聞くことがある。
愛は死んでいない。
こいつは倒すが、それは後だ。
落ち着け。
「お前たち7龍はなんなんだ?」
「この世界を愛しているの!素晴らしいと思わない?弱肉強食の理の元にすべての生物が生きているの。
私たちはこの素晴らしい世界を維持するために、多すぎる生き物を間引いているの。
だって、増えすぎたら調和が崩れてしまうじゃない?そんなのって悲しいでしょ?
お姉さまたちはそれぞれが領土を見張っているの。間引くのは面倒くさいし、お姉さまたちは忙しいから私がしっかりやらないと。
私は人間が大好きなの。夫も人間だったのよ。でも、夫は死んでしまった。仕方のないことよね。人間なんだもの。生きるものはいつか死ぬ。儚いの。もろいの。だからこそ美しいの。綺麗なの。目を引くの。愛したくなるの。だから、水の国とともにあるの。夫を愛したように、人間を愛すのは当然じゃない?
でも、私って、不死じゃないでしょ?回復力もお姉さまたちよりも高くないじゃない?だから、栄養が必要じゃない?栄養補給は大事でしょ。でも、調和がとれている今の世界からさらに減らすってよくないじゃない?だから、あの子にしたの。ちょうどいいじゃない?私の栄養として。醜いものをなくすって大事じゃない?
死んで私の糧になって私の憂いがなくなっていいじゃない?好都合じゃない?理想的じゃない?適切じゃない?適当じゃない?妥当じゃない?
ふふふっ!
他の子に迷惑をかけずにあの子だけを捕まえるの大変だったのよね。
苦労よね。辛労よね。苦慮よね。腐心よね。苦心よね。労苦よね。辛苦よね。
ふふふふふふふふふふふふ、あはっ!あははっ!あはははははははっははあ。
だから、お前が許せないの。調和を乱す。邪魔、邪魔、邪魔!邪魔なの。異物なの。そぐわないの。適してないの。妨害なの。障害なの。
はああああああああぁぁぁ。
死んで。消えて。いなくなって。亡くなって。消滅して。絶滅して。滅亡して。破滅して。
ほらほらほらほらほらほらぁぁぁぁぁぁ!
なんでまだいるの?私を傷つけるの?怪我させるの?負傷させるの?損傷させるの?それとも、脱臼?捻挫?骨折?火傷?失明?
酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い。
やっぱり殺すしかないわね。世界のために。人のために。私のために」
もう何を言っていいかわからない。
こいつはおかしい。
狂っている。
愛だって来たくて来たわけじゃないのに。
1回しかない人生で異世界に来られたことはある意味、幸運だと思う。
だってさ、宝くじを買って何人の人に莫大なお金が当たる?
それと同じくらい確率の低いことじゃん。
それで、殺されるってよくない!
それをこいつは何を言っているんだ?
愛が醜い?
かわいいっつうの。
俺の大事な…後輩だよ!
それをこいつは!
「あはははははっはははっははぁ!
それじゃあなたの勇気を試すわ。せいぜい死んで来てね、うふっ!」
醜悪な笑みで、そう言われた瞬間、違う場所にいた。
暗い。
夜だろうか。
ここは街の中?
愛がいる。
圧縮された魔力が銃弾のように飛んでくる。
気づいていない!
危ない!
動けない。
手も足も動かない。
何一つ動かせない。
できるのは考えることだけ。
メローペの声がする。
時間を動かそうと思えば時は動き出すわ。
くくくっ!
時間、動け!
動ける!
その瞬間愛の眉間に炸裂し血が噴き出す。
「うわあああああああああああああああ」
愛の目がこちらを見る。
助けてって。
でも、なぜかわかる。
これは即死だって。
次の瞬間、また、さっきの地点に戻る。
今度はすぐに動けば!
時間、動け!
すぐに愛を押し倒す。
だが、角度が悪かった。
俺を貫通して愛に炸裂し、二人分の血が噴き出す。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
次の瞬間また戻る。
今度こそ!
時間、動け!
角度に気を付け慎重にいく。
しかし、またも炸裂し血が噴き出す。
「うわぁあああ!」
戻る。
戻る。
戻る。
そろそろ2桁になるだろうか。
少しずつ良くはなっているものの一度も救えていない。
また戻る。
今度こそ!
時間、うごけぇ!
今回は素早く、的確に慎重にやる。
血が噴き出す。
俺のではない。
「うわぁあっぁぁぁあぁ!」
戻る。
今度こそ、今度こそだ。
時間、動け。
冷静に正確に実行する。
しかし、あとほんの少し足りない。
血が噴き出す。
戻る。
今度こそ?
違う。
光景が変わった。
今度は愛が龍に襲われている。
また、救えないのか?
時間動け。
龍が魔法を放つ。
すさまじい火が、炎が身を焦がす。
灼熱地獄ってこんな感じなのかな。
そのあとまた、何度も、何度も、何度も、戻り続けた。
3桁に届いたかはわからない。
何度か場面が変わった。
俺が救える確証を得て、救えないと場面が変わる仕組みらしい。
俺に何をさせたいんだ!
愛を何度も殺されて。
ああ、そうか。
俺に死んでほしいのか。
そういっていたもんな。
吐き気がする。
もちろん吐くことなどできない。
俺は愛をいまだに救えていない。
一度も、ただの一度もだ。
発狂しそうだ。
よく耐えていると思う。
どうすれば助けられるのか全然わからない。
何度も考え、考え、さらに考えて行動しているが救えない。
助けられない。
無力だ。
力不足。
わかってはいた。
そのために強くなると、強くなろうとしていたのだから。
無気力に近い状態になり始めている。
でも、回数を増やしていく。
助けられるかもしれないから。
時間動け。
愛を的確に、素早く、押し倒す。
角度にも方向にも気を付ける。
うまくいった。
助けた。
愛は死んでない。
喜びが徐々にあふれてくる。
やった。
やった。
やった!
これで、愛を連れて帰れる。
やっと!
ついに助けられた!
炎龍に、メローペにしかるべき報いを与えて、帰ろう。
みんなで。
次の瞬間、台座のある部屋に俺はいた。
愛は?
いない。
まだなのか?
まだ、救えていないのか?
そこで意識がなくなった。
ナナたちの悲鳴だけが部屋に響き渡った。
タイムリープっぽくなりました。
女神は狂人になっていますね。書いてる途中に手が止まっていました。




