第20話 2の試練
遅くなりました。
2つ目の試練です。
通路を進むと、さっきの迷路があったところとは異なり、一本道だった。
少し行ったところに台座のある部屋を発見する。
「2の試練を開始する
この試練は、貴殿の武力を試させてもらう。
課題
この部屋から分かたれ、その先でモンスターを倒せ」
さっきに比べてえらく簡単だな。それとも、すごく強いモンスターがでてくるとかなのか?悩んでも仕方ないし、さっさと済ますか。
「順番はどうする?」
「私が最初に行きます」
「ナナだな、わかった。次は?」
「ピアニャはいつでもいいー」
「…ぇ、よ、四番で…」
「マイマスター、最後に参ります」
「じゃあ、俺が二番に行こう。ピアニャは三番な」
「うん!」
ナナが扉を開く。
危ないようなら助けるつもりいるが、まあ、死ぬ危険性はないよな?
そこから10分ほど経った。
ナナは戻ってこない。
成功したのだろうか?
とりあえずそろそろ入ってみるか。
「俺は行くから同じくらいの間隔で入ってくれ」
「うん」
「…うっ、はい…」
俺は扉を開け中に入る。
中に入ると、一面水の空間だった。
水中、もしくは海底というべきだろうか。
魚が泳いでいる。
息はできるようだ。
奥には城が見える。
浦島太郎が見た竜宮城もこんな感じだったんだろうか。
とりあえず、城を目指す。
道中はモンスターに襲われるでもなく、人に会うわけでもない。
静かだった。
城に着くと城門が少し開いている。
勝手に入らせてもらおう。
中に入ると街があった。
城下街をそのまま城の中に取り込んだ形なのだろうか。
おもしろい構造だ。
不思議なことに人を一人も見かけない。
さすがに不気味だ。
静かすぎる。
俺は城の中を散策するが何も発見できない。
見事にもぬけの殻だ。
なにがあったのか?
敵がいるのか?
こんな風にしたやつか?
だとすれば、相当に強いだろう。
倒せるだろうか。
玉座の間らしき部屋を発見する。
中に入ると、見知ったピンク色の髪を持つ少女がいた。
彼女はいつも着ているブレザーではなく、ドレスを身にまとっている。
その奥には、玉座に座る男が一人。
王だろう。
ということはナナのお父さんか。
やはり、人魚の国か。
ここから先は戦闘になるだろう。
覚悟を決めなくては。
「お前はナナに何をしたんだ?」
「ふははっ!愚か者じゃのう。父が娘に教育して何が悪い?」
「教育だと?」
「そうじゃ。愚図な者どもと一緒におるようじゃからのう。教育的指導が必要じゃ、そうじゃろう?」
頭に血が上るのを感じる。
許せない。
何を言っているんだ、こいつは?
どうして、ナナは表情を動かさない?
どうして、ナナは死んだような目をしている?
なぜ、ナナは嬉しそうに笑っていない?
怒りの感情が次から次へと流れ込んでくる。
許せない。
こいつは悪だ。
でも、ナナの父親だ。
ナナは悲しむかもしれない。
そんなこと関係あるか?
俺はナナに笑っていて欲しい。
そうだろ?
それで十分だ。
俺はその言葉を口にする。
「お前は父親失格だ。ナナは俺が連れて行く。…ロストアーク」
竜剣を取り出す。
魔法を発動すればナナを傷つけてしまうかもしれない。
魔法を発動させるわけにはいかない。
王が降りてくる。
「そうでなければ。我が殺す意味などないというものよ」
王はどこからか剣を取り出す。
おそらく竜剣だろう。
俺のは柄が赤いが、奴のは緑だ。
二人とも動く気配はない。
先に動けば隙を見せることになるからだ。
相手の隙を待つ。
先に動いたのは俺だ。
声とともに奴に斬りかかる。
奴は俺の一撃目を防ぎ、返す刀で攻撃してくる。
反射的に一歩下がり剣の間合いから逃れる。
だが、第二撃がくる。
俺は剣を使いそれをはじく。
空いた胴に蹴りを叩き込む。
バランスが崩れたこちらの隙をついて、短剣が飛んでくる。
それがもろに左肩に刺さる。
浅い。
「まだわからないのか?愚か者だな。人間が」
その言葉。
聞いた覚えがある。
つい最近のことだ。
竜を倒した時に。
水銀を使った時に。
「お前かぁ!今度はナナを!」
怒りがあふれ出る。
こいつはナナの父親などではなかった。
あの竜だ。
卑劣にも琴音を洗脳し、操っていた。
竜は何も言わない。
ただ不敵に笑うだけ。
怒りが際限なく溢れ出してくる。
斬りかかる。
あっさり防がれる。
そのまま、蹴りを叩き込む。
足をつかまれ投げ飛ばされる。
血が流れる。
額を切ったようだ。
奴が悠然と近づいてくる。
小さな声で歌い上げ魔法を発動させる。
風の魔法。奴を吹き飛ばす。
しかし、状況は好転しない。
距離はある程度開いたが、決定的な差はない。
決定打に欠けている。
魔法を発動すれば、その隙に斬られるだろうし、剣では膠着状態になり、体力の差で負けるだろう。
このままでは埒が明かない。
この状況を打開するには、1つしか方法がない。
ナナを救う。
問題はどうやって救うかだ。
魔法を試してみたいところだが、そんな余裕はさすがにない、これ以上気をそらしていればやられるだろう。
考えてもわからないなら仕方ない。
まず、救う。
それから考えればいい。
間合いを詰め肉薄する。
剣道の要領で、斬り抜ける。
今回のは斬ることが目的ではないので、しっかりと間合いを開け、ナナのところに行く。
「ナナ!しっかりしろ!」
声をかけるが当然返事はない。
後ろでものすごい音がした。
直感的にナナを押し倒して避ける。
剣の斬撃が飛んできたように感じた。
恐ろしい技だ。
ただ、冷静に判断できたのはそこまでだった。
唇に何かやわらかい感触がする。
目を開くとナナの顔が目の前にある。
ポッキーゲーム(男子と)したときでもここまで顔が近づいたことはない。
ナナを見つめてしまう。
その目に段々と光が戻る。
そして、驚愕とともにナナの顔が赤くなっていく。
それにつられて自分の顔も赤くなっていくのを感じる。
今さらながらに、押し倒した状態からナナを解放し、剣を持つ。
顔を直視できずに、言葉だけ交わす。
「ナナ、悪い、その…手伝ってくれ」
「~~~っ!あ、後で責任しっかりとってもらいまふからね!」
ナナがかんだことによりさらに顔を赤くする。
リンゴみたい。
おっと、ふざけてる場合じゃないな。
「大きい魔法を頼む。大きな隙が欲しいんだ」
「うんっ!」
もう一度斬りかかる。
そこに合わせるようにナナが魔法を発動させる。
響き渡るフルートの音。
優しく、雄大に。
綺麗な青色。
水魔法だ。
悪しき者をすべて洗い流し浄化するように、水が奴を襲う。
距離を詰め、斬りかかる。
今度こそダメージを与える。
血が噴き出し、顔に痛みがにじむ。
さすが竜剣だな。
奴が激昂して近づいて来る。
少し態勢を崩したように見せあえて隙を作る。
奴の顔に醜悪な笑いが広がる。
奴が剣を振る。
引きつけろ。
待て。
タイミングをずらすんだ。
相手の油断を、驕りを逆手に取るんだ。
タイミングを半拍遅らせて、ここだ。
剣を刺す。
致命傷を与える。
「ぐっ。…ここまでか」
奴はもう息も絶え絶えだ。
そこに澄みわたるようなフルートの音が旋律を歌い終わり、ナナの水魔法が炸裂する。
終わった。
気が抜けかける。
奴が何かを投げ、こちらへ飛んでくる。
剣だ。
なんとか避ける。
奴を確認するがもう動かない。
本当に終わったようだ。
奴の竜剣を確認すると根元から刃が折れていた。
もう使えそうにない。
「ナナ、無事か?」
「せんぱいこそ」
「大丈夫。…ここってナナの…故郷なのか?」
「…そう」
ナナの表情が暗くなる。
「…本当はもっと綺麗だった。ここは紛い物。信じられないくらい膨大な魔力で構成されていて、忠実に再現されているけど」
「ナナ、俺の来る前に何があった?」
「最初は、お父さまと口論した。生きているはずないって。少し怖かった。でも、途中で魔力の質が変わって、洗脳されたというよりは金縛りだったの。意識はあるのに動かせなくて…」
「そっか。…ナナ、今度、人魚の国に一緒に行かないか?…本物のこの国を見てみたいしさ」
「……うん。ありがとう」
ナナと両親の間に何があったのかはわからない。
でも、できる限り助けてあげたい、仲直りさせてあげたいと思った。
謝ることならできるから。
何様だよって話だけど。
母とよく喧嘩していたから、そんな気持ちのままでナナにいて欲しくないのかもしれない。
いや、きっとそうだろう。
かくして、俺とナナの武力の試練は終わった。
これからに新たな火種を残して。
気づくと俺とナナは台座のある部屋にいた。
ピアニャの入る番になる。
平原が広がっていた。たぶん風の国の入り口とも呼べる迷いの森の近く。
ピアニャが入ってすぐに見つけたのは、竜だった。
直感的に分かった。
腐ったような、汚いような、醜い竜。
ドラゴン・ゾンビとでも言うのが相応わしい。
ピアニャはこの竜から、敵のような気配と両親の気配を感じた。
直感的にわかった。
この竜の構成要素に、件のオークキングやピアニャの両親の魂が含まれていたからなのだが、このことを知るものは誰もいない。
ピアニャは動かなかった。
いつもは自由に、奔放に過ごしている彼女だが今はじっと待っていた。
ピアニャには分かっていた。
竜に敵対行動を見せなければ、襲ってくることはないと。
両親が攻撃してくることはないと。
10分経って、琴音がやってくる。
「ことねおねえちゃん、あの竜を治してあげて。みんな苦しんでるの」
ピアニャはそれしか言わなかった。
琴音ははじめ、何を言われているのか理解できなかった。
でも、ピアニャの言っていることが真実だと納得できるような真剣な声だった。
琴音は一瞬迷ったが、すぐに神術を使った。
「傷つきたるものを癒し、死んだ者を昇天させ、憂いの輪廻を断ち切れ」
はっきりした声。
腐敗した竜に不思議な現象が起こった。
琴音は息をのんで光景を見守る。
竜を白い光が包み込む。
竜の体内から光が徐々に出て行った。
その場にいた二人にはそれが捕らわれていた魂であることが分かった。
二つの光がピアニャの元へやってくる。
言葉を交わせるわけではない。
でも、すぐに分かった。
両親なのだと。
光はピアニャに祝福をもたらして、消えていった。
最後の両親の気持ちは、言葉を交わせずとも分かった。
「大きくなったね」と。
最後に両親に会うことができた。
言葉を交わすことができた。
ピアニャはその事が嬉しかった。
自然と涙が出た。
琴音が優しく寄り添う。
ピアニャは涙が枯れるまで泣いた。
もう、両親に会えないのだということを実感して。
ピアニャと琴音は気がつくと、かなんたちと合流し、台座のある部屋にいた。
ヤミは1人だった。
扉の中に入っても何も起きない。
分かってはいたことだった。
この空間に自分が存在を認められていないと。
マスターに、かなんしか見えていないと。
命あるものの感覚なら欺ける。
でも、楽しかった。
初めてあんなに多くの人と触れ合った。
例え騙していたとしても。
だから、助けたいと思う。
自分勝手で自分本位だけれども、彼女たちを龍に殺されたくない。
かなんともっと話してみたい。
そのためにはやっぱり死なせちゃいけないわけで。
「本当に、面倒くさい人がマスターになったものです」
ヤミは自分の発言に苦笑する。
今までに仕えたマスターたちのことを思い浮かべる。
いろいろな人がいた。
我欲のため、家族のため、復讐のため。
もう、みんな殺された。
ヤミだけが残り、引き継がれる。
いつまで続くのだろうか?
今度こそ最後になって欲しいと願う。
あの人ならきっと。
時間のようだ。
そして、元の間へと戻る。
「みんな無事みたいだな。良かった」
最初に出た言葉はそれだった。
俺は何が起こったかあえて聞かなかった。
みんなの顔を見れば、踏み込んで欲しくないことだとわかったから。
もちろん、自分の話をしたくないということもあったけれど。
思い出しただけでも顔が赤くなりそうだ。
そろそろみんな疲れが見え始めている。
連戦している上に激闘が多い。
そろそろ残りの魔力も危ないかもしれない。
愛の元まであとちょっとだっていうのに!
俺も疲れ始めているな。
イライラしやすくなっている。
次の部屋で少し休憩するか。
時間はもったいないけど、集中力の乱れはまずいからな。
そういえば、ヴェーゼさんたちはまだ来ないのだろうか?
騎士団には優秀そうな人たちも多かったのに。
試練は毎回突破しなくてはならなくて時間がかかっているのだろうか?
きっとそうか。今度、お礼をしないといけないな。
普通の学生が騎士団を差し置いて、龍の討伐をするなんてまずいだろうし。
まあ、間に合わないのならいいか。
知らずに倒したってことにすれば。
台座を見ると、文字が表示される
「第2の試練達成おめでとう。
貴殿の武力は見事だ。
これで次の試練ヘ進むことができる。
扉を開くがいい」
これであと一つだ。
でも、あの空間を創造するほどの魔力ってどのくらいだ?
もし、龍がやっているんだとしたら、どのくらいの魔力総量なんだ。
しかも、何のためにこんな試練を。
謎を抱えたまま次の試練へと向かう。
残り一つで炎龍との邂逅です!
20話記念に活動報告の方へ種族紹介を掲載させていただきます。よろしければご覧下さい。




