第11話 オークキング
1話で終わる予定が2話分になってしまったので、今日中にもう1話投稿したいと思います。
俺は、フルールさんの家を後にし、オークキングのところへと向かう。
なんとなく、後ろを振り向くと人がいた。
「うわぁあ!」
「驚かせちゃいましたか?」
「え、えーと君は?」
「ハトリと言います。誤解して、麻痺針を刺してしまったので、謝りたくて」
麻痺針?
ああ!
あの時か。
俺が、オークを追っ払った後に突然動けなくなった時の。
「もしかして、ハーフなの?」
「はい。獣人と人間のハーフです。と言っても、獣人の方の特徴はほとんど出なくて、ちょっとばかし素早く動けるだけなんですけどね」
「まさか、近接で刺した?」
「はい。その方が確実なので」
気配とか音とか何も感じなかったよ?
こっわ。
これはもうアサシン先生ですわ。
気づいたら、いるとか怖すぎ。
恐怖ですわ。
これはもうアサシン先生に逆らえない。
「誤解なら仕方ないよね。大丈夫。うん。アサシン先生、それじゃっ!」
「え、あの!アサシン先生って!」
ダッシュで逃走しました。
これからは、後ろに気を配らないと。
意味ないけど。
そのまま、オークキングがいる場所を目指す。
10分ほど歩いた。
確かもうすぐ見えるはずなんだけど。
いた。
ゲスオークもいる。
10対1はさすがにきついな。
なんだ?
20体ほどオークがやってくるな。
どうするか。
しばらく様子を見るか。
「俺はオークジェネラルのジェファー。ギリング、お前を討ち、俺がオークキングになる」
「いいぜぇ。俺様は、王ギリングだぁ。いかなる挑戦でも受けて立つぜぇ。王は強者のことだからなぁ!」
「いくぞ。この槍には光魔法をためこんである。はぁぁ、くらえ、浄魔の一閃!」
「くっはぁ。いいぜぇ。俺も本気だぁ。左手に宿りしはぁ、炎の一撃ぃ。恋い焦がれしぃ、この炎にぃ焼かれろぉ!そしてぇ、右手に宿りしはぁ、強者の証ぃ、弱きものの尊厳を踏みつけぇ、わが身の糧とするぅ!」
「う、うわぁああ!熱い。熱い。欲しい。欲しいぃ」
「ジェファーぁ、命じるぅ。今日からオメエのすべてはぁ、俺様のものだぁ」
すさまじい。
あのオークジェネラルが弱いわけではなかった。
おそらく、あの炎の一撃で体力の8割はもっていかれただろう。
あのオークキングがおかしいのだ。魔法なのだろうか?違う気がする。あのオークキングは、歌ってないし、楽器も弾いていない。それで魔法が発動するはずがない。強い。強すぎる。しかも、いまので配下のオークが30ほどになった。オークジェネラルは奇襲で倒したとしても、数が多い。圧倒的に不利だ。
焦る。
こんなところで立ち止まっている暇はない。
まだ二日目だが、急いで帰るに越したことはない。
もしも、少女に万が一のことがあれば、唯一の手掛かりを失ってしまう。
愛を早く助け出したい。
龍にさらわれてからすでに三日が経過してしまっている。
一度落ち着こう。
深呼吸をする。
魔法を発動させ、そのまま、オークジェネラルに切りかかれば、そこそこ数を減らせるだろう。
そう判断し、魔法を発動させる。
響くバイオリンの旋律。
奏でるのは、「シェヘラザード」リムスキー・コルサコフ作。
第一楽章冒頭のバイオリンソロ。
あなたは「シェヘラザード」の背景を知っているだろうか?
妻の不倫を目撃した王が人間不信に陥り、暴君になってしまう。
そこへ、シェヘラザードという女性が現れ、千一夜に渡り話を聞かせ、王は次第に暴君でなくなり、最後には以前にも勝る名君として国を統治するというもの。
第一楽章は「海とシンドバッドの船」
最初は暴君である王を表すかのような部分から始まる。
そして、シェヘラザードの部分になる。
これが、今弾いている部分だ。
この部分はシェヘラザードを感じさせるようなソロだ。
魔法を初めて発動させるときにはイメージ力が大切だ。
水魔法なら激しく流れる川。
火魔法なら燃え盛る炎。
風魔法なら強風や台風など。
別にそれはそよ風であってもいい。
威力は変更されるが。
俺は、今回光魔法を使うつもりでいる。
陰魔法の雷を使うならと考えたのだ。
しかし、俺は光魔法を使ったことがない。
初めて魔法を使ったときは、風がイメージしやすい曲ということで風の通る道を用いた。
前回と違い、光魔法は基本魔法でない。
しかも、この世界に来てからおれは一度も光魔法を見たことがない。
そのため、イメージ力不足だと考えた。
俺が好きな曲でもあるシェヘラザードなら、というわけだ。
浄化するイメージで。
暴君をなだめるイメージで。
吸血鬼が日の光で消滅するように。
ゾンビ浄化されるように。
まばゆい光が起きる。
包み込むように、近くにいたオーク二十体ほどを攻撃する。
光量の割には効果範囲が小さい。
倒しきれなかったのもいる。
倒せたのは、十五体ほどか。
まず、オークジェネラルを切りつける。
もうほとんど体力が残っていなかったようで一撃で消滅する。
次はオークに切りかかる。
三体は一撃で沈める。
残りに苦戦する徐々に劣勢になってくる。
多勢に無勢とはこのことだ。
しかも、気を緩めるとオークキングの炎に焼かれそうになる。
休むことなどできない。
槍で攻め立ててくる。
避ける。
後は五体ほどっ…っ!
「あっ!」
一秒が長く感じる。
死ぬ。
冷静だった。
このまま槍で貫かれる。
目を瞑る。
激しい剣戟の音がした。
目を開くとアサシン先生がいた。
その時だった。 音は聞こえなかった。
だが、オークキングの体が揺らぐ。
目は驚愕に包まれている。
そうだろう。
何者かに突然、攻撃されたのだから。
彼は言う。
「待たせちゃいましたか?」
「ふっ。俺はヒロインキャラじゃないからフラグは立たねぇよ」
「ははっ、いきますっ!」
ハトリは速かった。
短剣を二本持っている。
双剣使いなのだろう。
素早く交互に六発、そして、両剣で突き刺すように一発。
計七発の斬撃。
俺もやらなくては。
青銅の剣を構え直してハトリの最後の一発を引き継ぐかのように切る。
そこで優しい雰囲気を感じる。
ピアニャ!
声にはならない声を発する。
ピアニャはきっと俺を助けに来てくれたのではないだろうか?
両親の仇をとってくれて、プロポーズまでされたのだから。
子供なりに必死に来てくれたに違いない。
しかし、今の俺に余裕はない。
すでにふらふらだ。
ピアニャの顔には恐怖と怒りがにじんでいるように感じる。
考えられたのはそこまでだった。
「援軍が来ましたっ!ザコオークはあちらに任せて、僕と2人でこいつを!」
「わかった!」
返事はしたものの体は重い。
回復したわけではないし。
もう、あと一回抑えられるかどうかといったところだろう。
善戦はしていると思うが、援軍の方もそれほど長く持たないだろう。
くっ!援軍の一人がオークの槍に貫かれる。
鮮血が噴き出しオークの醜い顔がさらに醜く歪む。
焦る。
焦る。
鈴の音のような声が聞こえた。
初めて聞く声だった。
自然と聞き入ってしまった。
その場にいた全員がだ。
如何に異常なことであるか。
戦場にも関わらず、誰も動けなくなるなど。
聞けば聞くほど心地いい。
まるで、俺のためだけにこの歌があるような錯覚に襲われる。
「いまぁぁあああ!」
俺は声に反応して剣をオークキングに差し込む。
そのまま後ろに下がる。
ハトリは麻痺針を投げる。
そこで、突然頭の中に知らない歌が流れ込んでくる。
この歌は何だろう。
聞いたことのない、けれど耳を離すことの出来ないメロディー。
胸が熱くなるような歌詞。
聞いているだけで明るくなる。
ノリが良く、元気になれるようなリズム。
俺は歌った。
聞こえてくるままに歌った。
ピアニャも一緒に歌ってくれた。
続いて、傷付いて立ち上がれない人も。
きっと合体魔法になったんだろう。
それだけじゃないと思う。
それ以外の要因もきっと。
力が湧いてくる。
劣勢だった人達も巻き返している。
動きが格段によくなっている。
あとは、オークキングだけだ。
麻痺が解除されるこんなに長く麻痺していてくれたのが奇跡に近い。
歌の途中でいつ動き出してもおかしくなかった。
「一人じゃないの。私も、みんなもいるの。一人ぼっちじゃないの」
耳元でピアニャが囁いてくる。
一人じゃない?何か引っかかる。
活路が見えそうで見えない。
次が最後の一発だ。
次の行動を起こさないと。
オークキングの胸元に白い光が細く輝くのが目に入る。
そこでようやく気付く。
「ハトちゃん!麻痺針を貸してくれ!それとオークキングの注意を俺から逸らしてくれ」
「針はいいですけど、持たないかもしれませんよ。10秒ですね」
「分かった」
俺は麻痺針を借り、白いきらめきを狙う。
ダーツならやったことがある。
できるはずだ。
できる。
できる。
違う。
こうじゃない。
俺は一人じゃない。
助けてもらった。
気づかせてもらった。
ピアニャ、ハトリ、ナナ、みんな、…そして愛。
一人じゃここまでこられなかった。
いままでも。
きっとこれからも。
俺を信じてくれているハトリのためにも、つらいだろう愛のためにも。
みんなのために俺はやる。
足りない部分は助けてもらう。
「ハトリッ!」
ハトリがオークキングの正面から退く。
今だ!!
「いっけえぇぇ!!」
投げる。
まっすぐに飛んでいく。
そして、オークキングの核に突き刺さる。
「なぁにぃい!お、俺様がぁ!や、やられるというのかぁっ!げひっ」
ついにオークキングが消滅する。
最後は笑っていたような気がする。
消滅したオークキングからティア・ドロップが出現する。
綺麗な純白の宝石のようだ。
そこで勝鬨が上がる。
なんとかオークを倒し終えることができたようだ。
ピアニャが駆け寄ってくる。
「あの、ありがとうです。父さまと母さまのかたきを取ってくれて」
「あいつがそうだったのか。それに…いや。こちらこそありがとう。あの素晴らしい歌声は君だろう、ピアニャ。そして、助言もありがとう。君がいなかったら、俺は死んでいただろう」
「…すっ。……ことないです。…そんなことないです」
「僕もいるんですけどね」
「ははっ。ハトリもありがとう。同じく、ハトリもいなければ俺はここにいなかった。さすがアサシン先生だな」
「なんかすごく嫌な呼ばれ方されている気が」
体が重い。
無理し過ぎただろうか。
意識が飛びそうだ。
早く街にかえ…ら……な、い…
ついに万能薬のための素材がそろいました!
現実にも万能薬あったらいいのに。。。




