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異世界で無記憶無道徳【Gijutsu mahōの時代】改訂版  作者: 波修羅 直剣
「第2巻」サーンウッドでの幼少期・第二部
12/15

変なのはお前だ

夜、イレサが眠っている間、カエリアンは浴室にいた。膝の上に本を置き、明かり代わりに手のひらに小さな火を灯している。


(この本にはあらゆる種類の儀式や呪いが載っていて、一部の解除方法まで書かれている。ナエヴィアを生き返らせる方法がないか、私は昼も夜も探し続けている)

(……カエリアン……まだ私に怒っているの?)

(怒らなくなるようなことでもしたのか?)

(……いいえ……)

(なら、それが答えだ)

(……目の教団から生き延びられるとは思っていなかった。だから君の家族のことを話したのよ。でも、私たちは生きている……これからもっと長く生き続けるつもりなら、せめて仲良くしていたほうがいいわ)

(許してほしいなら、人生で初めて私を手伝ってくれ)

(……それはそうね……何を手伝えばいい?)

(この本、規則が少し分かりにくくて、種類もいろいろあるんだ)

(規則は儀式の種類によって違うし、特定の条件があるものもあるわ。何かを行う前によく条件を確認してね)


傷んだページを破らないように気をつけながら、ゆっくりとページをめくる。


(この……儀式にはこうある。観念体への変換の手引き。手順は……魂が逃げないようにナリスの円を描き、対象を円の中に入れ、肉体に最もダメージを与えない方法で命を終わらせる。それから、結びつける魂の石を円の中に入れ、少しずつ閉じて無理やり中に入らせる)

(魂はその物に結びついて、肉体も吸収される……)

(……儀式の逆転方法は書いてない……)

(他のを探して。きっと使えるものがあるはずよ)


数ページめくったところで、目を引くものを見つける。


(これならどうだ。血の契約。霊と定命の者の間に繋がりを作り、服従と忠誠を引き換えに霊に恒久的な物質的存在を与える。円は不要で、両者に契約を結ぶ意思があることだけが必要。定命の者が霊に自分の血を少し与え、それを飲むことで魂が結びつく。また、感覚も共有されるようになる)

(うーん、ナエヴィアは霊じゃない……魂だ)

(何が違うんだ?)

(霊は、動物の創造主である上位の女神Saeriaが創り出した生き物よ。大半は邪悪で、それに森の霊は森から出られないの。一方で魂は、上位の女神エルティス(Elthys)の創造物……というより、正確には彼女が概念を創って特定の生き物に与えた結果、知性を持つようになったの。でも、何が魂を持っていて何が持っていないかについて、彼女に完全な制御権はないわ。だから妖精のようなものも部分的には魂を持っているのだけれど、私たちのものとは同じじゃないのよ)


苛立ちながら本を閉じ、軽く飛び降りて浴室を出る。


(つまり、ナエヴィアには効かないってことか?)

(性質は似ているから、効くはずよ)

(仮に機能したとしても、私の血を口にする前に魂が砕けるかもしれない……それに自由もない。私に従うよう運命づけられてしまう)

(ええ……でももし機能すれば、彼女は生きられるわ)

(それだけじゃない。同じ感覚になるなら、誰かが私に触れるたびに、私が感じる痛みを彼女も感じる。もっとひどいかもしれない。誰かが彼女に触れるたびに、私まで痛みを感じるかもしれない。そんな人生を彼女に与えたくない)

(うーん、じゃあそれは却下ね)


カエリアンは寝台に戻り、イレサの上をまたいで慎重に横になる。


(……残る方法はあと一つだけだ……)

(第1巻を取りに行くこと?……夢でも見ているの)

(本の索引には、第1巻に魂に関する内容が載っていると書いてある。私が埋めた本がその巻である可能性は高い)

(そうね。でも、妖精がまた解放されたらどうするの?)

(鍛錬する。あの妖精を倒せるように)


***


午後、カエリアンは練習のため草原へ向かい、手の中に火の球を作り出す。


「第一の攻撃! 火を放て!」


球は地面に落ちただけで、触れる前に消えてしまった。


「二度目……今度は勢いをつけて」


後ろに数歩下がりながらもう一つ球を作り、腕を精一杯伸ばす。そして一歩踏み出し、ボールを投げるように球を放ったが、数メートルしか飛ばず、何かに当たる前に消えてしまった。


「うーん、計画変更だ」


手を伸ばし、また別の球を作る。


「問題が何なのか、もう分かった気がする。途中で燃料切れになるんだ。おそらく、投げる前にもう少しナリスを注入するのが理想的だろう……普通なら安定性に影響するけど、動いていれば球の中により多くの酸素が入り込むはずだ」


目を閉じ、火の球に集中する。


「……もしかしたら……後ろからナリスを注入すれば、勢いよく飛び出すかもしれない」


球の後方からナリスをさらに流し込むと、突然、手のひらから火炎放射器のように炎が噴き出した。


「うわっ!」


すぐに流れを止める。


「これ……期待していた効果じゃないけど……悪くないな」


遺産の声が響く。


(手伝いが必要?)

「いや、大丈夫。もうすぐ掴めそうだ」


もう一つ球を作り、目を閉じる。


「どうすれば……素早く私から引き離せる?……離れて、遠ざかって……反発しろ!」

(何か思いついたの?)

「電磁気だ。ナリスの性質を操れるなら……それもその一つのはずだ」


カエリアンはナリスの力をイメージすることに集中し、どうにかしてそれを感じ取る。ナリスの力の流れを思い描き、球は彼の手から勢いよく弾き出され、何百メートルも急速に飛び、上へ上へと昇ってやがて消え去った。


「ははっ! やったぞ」

(ええ……分かっているわ)


***


数日後、上空に向かって連続で火の球を撃っている。


(火の魔術の仕組みを完全に解き明かせた。練習してしまえば工程はとても単純だ。広げて、加速して、点火する。もう少し送り込んでから放つ。ナリスの磁力の感覚を一度覚えれば、ただ撃とうと思うだけでいいくらい簡単だ)


放つ球の一つが外れて地面に落ち、花に火をつけてしまう。


(もちろん、まだ少し練習が必要だけど!)


水の球を作り、燃えている花に投げて火を消す。


「ふぅ」

(水はそう簡単にはいかない。だから別の方法を考えた。即時加速だ。分子レベルの距離で『もちろん本当に分子というわけではないけれど』できるだけ速く加速させてから放つ感じだ。同じ理論を火の魔術にも応用しようと考えている)


左右に体を伸ばし、それから腕と首も伸ばす。


(本来ならもっと疲れているはずなのに、そうでもない。私のナリスの蓄えが大きくなっているようだ)


村への帰り道に向かい始めたが、高い草むらの中から物音が聞こえた。


(今のは何だ?)


遺産が答える。


(キツネ……か、何か小さな動物じゃないかしら)


警戒を強め、ゆっくりと振り返る。


(……あるいは魔物か。とにかく、確かめてみる)


小さな水球を作り、ゆっくりと上へ投げる。それはちょうど草むらの中に落ち、何か固いものにぶつかる音がした。


「あいたっ!」

(私と同じものが聞こえたか?)

(その魔物には名前と、もしかしたら名字もありそうね)

「誰だか知らないが、そこから出てこい! 危害は加えない!」


高い草むらの中から、カエリアンと同じ年頃の少女が現れた。毛先が白い薄紫色の髪と紫色の瞳。幅の広いブーツに暗い色のズボン、長袖のシャツを着ていて、ベルトの働きでそれがスカートのようにもなっている。

頭をびしょ濡れにして出てきた彼女は、怒った顔で叫ぶ。


「……むううっ、ちょっと!! ひとに、おみじゅ投げちゃだめでしょ!」


彼女の話し方を聞いて、カエリアンは思う。


(……え?……なんであんな話し方なんだ……?)

(ええ……変ね)


少女は近づいてきて言う。


「いますぐ、あやまちて!」

「おい……言ってることが分からないぞ……誰なんだ?」


彼女は腕を組み、頬を膨らませて答える。


「そんにゃこと、いまはかんけいにゃいの! はやくあやまてぇー!」


遺産が言う。


(……今思えば……彼女は君と同じ年よ。あんな話し方をする彼女が変なんじゃない、君が変なのよ、ふふっ)


カエリアンは考える。


(ううっ、とにかく、さっきから私が魔術を使うところを見ていたに違いない……何かしたほうがいいか? 黙らせるべきか?……うーん、いや。私が森に妖精がいるなんて言ったとしても、大人たちは信じなかっただろう。この子が、師匠もなしに魔術を使っている子供がいると言っても、どうせ誰も信じないだろう)


少女は拳を握りしめ、足で地面をドンと踏みつける。


「ちょっと、ちょっと! きいてるの?」

「え? ああ、うん、もちろん……なんて言ってた?」

「あやまてって、言ってるの!」

「嫌だね! お前がこっそり覗いていたんだ。自業自得だ」

「ちがうもん! べつにのぞいてにゃかったもん!」


指をいじりながら視線を落とし、それから答える。


「わたし……ただ……そこ……とおりかかった……だきぇ」

「へえ、それで私が信じるとでも?」

「うんっ!」


カエリアンは肩をすくめる。


「まあ、うまくいったな」


少女は誇らしげな笑顔で叫ぶ。


「やったぁ!」

「皮肉だよ、おばかな女の子」


彼女は拳を握り、眉をひそめる。


「うう……おみゃえがおばかな女の子だ! かみのけ、ぬらしたでしょ!」


カエリアンは火の球を作り、微笑む。


「ああ、落ち着けよ。乾かしてやれるけど、髪がそのまま残る保証はできないな」


少女は一歩後ろに下がり、つまずいて地面に倒れ込む。


「ああっ、やだ、やだ、はなして、いやだ、いやだ、かみのけを、むじにちてぇ!」


目に涙が浮かび始める。カエリアンは火を消す。


「『ぶじ』だ。何もしないから、今すぐここから出て行け」


少女はすぐに立ち上がり、村の方向へ向かって走り去っていく。

遺産が言う。


(少しやりすぎたと思わない?)

「いや、もうここには戻ってこないだろう。でも見てくれよ。知らない相手とも緊張せずに話せた。ナエヴィアとの会話も無駄じゃなかったみたいだ」


***


(次の日、その女の子は戻ってこなかった。その次の週もだ。脅かしがかなり効いたんだろう。ともかく、これでナエヴィアを生き返らせるために強くなることに集中できる)


家を出て、大きく息を吸い込む。


(準備ができているかは分からないが、日を追うごとに強くなっているのを感じる。ほぼ毎日、ナリスを使い果たすまで魔術の訓練をして、セカンドウィンドのポーションを飲んではまたやり直す。それを始めてから、私の魔力容量は倍の速さで増えている。最近、水と火の組み合わせも始めた。結果は蒸気だ。攻撃的な使い道はあまりない……今のところは。それに、両手を使わないとできない。もっと鍛えれば片手でもできるようになるかもしれない。少し工夫すれば、この能力で『カエリアンのサウナ』も作れるかもしれないな……いや……さすがに無駄遣いだな……とんでもなく快適な無駄遣いだけど)


森の入り口まで歩いていくと、妖精に立ち向かった夜の光景が脳裏に蘇り、背筋に冷たいものが走る。心臓の鼓動が速くなり、呼吸が苦しくなる。

遺産が尋ねる。


(……大丈夫?)


膝に手をつきながら答える。


「……だ、だめだ……森に近づくと……あの時のことを……思い出す」


警戒しながら歩みを進める。もう魔物がいないと分かってはいても、森の中には危険な感覚が残っている。一本の木のそばで膝をつき、土を掘り返し始める。


「そんなに深く埋めなかったから、手で簡単に掘り出せる」


少し土をどけると本の表紙が見え、両手で持ち上げるが、手が震えているのが分かる。


「あ、開けるよ……何かあった時のために、できるだけ遠くで」

(でも、誰も助けてはくれないわよ)


軽く土を払い落とし、本を手にしたまま走り出す。

村からできる限り離れ、少し山がちな場所まで行くと、本を地面に置いて準備をする。深呼吸をして体を伸ばした。


「よし、よし、私ならできる。やるべきことは……二年くらい前に私を殺しかけた魔物を倒すだけだ……うん、普通だ」

(違うのは、今は魔術があるということよ)

「そうだな……よし、今やるぞ!……後悔する前に!」


本を開き、すぐに後ろへと走る。本からは黒いオーラが立ち昇り始め、それはどんどん大きくなって、歯泥棒の妖精の骨ばった姿へと形を変えていく。

カエリアンは両手を前に突き出し、目を閉じる。

形を成し終えながら、妖精が声を発する。


「保……持者……わかって……いた……」


カエリアンは全力を集中させて強力な火炎を放ち、妖精を攻撃する。炎は数秒間続いたが、その後には深い静寂が訪れた。


「何も……聞こえない。もう行ったのか?」


恐る恐る片目をゆっくりと開ける。すると、妖精の体……というより残骸が目に入った。上半身は灰以下のものに還元され、残っていた脚の部分もその瞬間に地面へと崩れ落ちる。


「や……やったのか?」

(ええ……そのようね)

(でも……どうして?……こんなに簡単だとは……思わなかった)

(たぶん、弱っていたのよ)


妖精の黒焦げになった残骸を通り抜け、本を手に取る。


「ふぅ、少なくとも燃やしはしなかったな」

(その本の状態なら、燃やしたほうがマシに見えるくらいよ。家に帰りましょう)


魔物の残骸を完全に焼き尽くした後、家へと戻る。

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