受付の奥にいる人は大体ヤバい
本日より、更新ペースが変わります。毎週水曜日/土曜日になります。
これからもよろしくお願いいたします。
カードを受け取った直後だった。受付の空気が、ほんの少しだけ変わる。
リシェルが一歩退いた。
「ここからは私が担当する」
セラフィンだった。受付の横を顎で示す。そこには結晶測定器、魔力安定計、
簡易術式展開盤が整然と並んでいた。受付の一角なのに、その場所だけ静かな
研究室の空気を帯びている。
「自動記載は信用しない主義でね。便利なものほど誤作動を隠す」
「精密検査をする」
装置を起動すると、結晶が淡く光った。
「魔力を流せ」
言われた通りに魔力を送り込む。結晶の中に魔力が満ちる。だが、光らない。
正確には反応している。魔力は確かに存在しているのに、色が現れない。透明な
水に、さらに透明な水を注いだような奇妙な状態だった。
セラフィンは装置を軽く叩いて再測定する。結果は同じだった。
「なるほど」
短く呟き、眼鏡を押し上げる。
「分類不能。文献では読んだことがあるが、実例は初めてだ」
少しだけ口元が歪む。
「面白い」
装置の記録を確認して数秒思案した。
「ここでは終わりだ。奥へ行く。責任者判断だ、記録は私の管理下に置く」
受付の奥の扉が開いた。
検査室は静かだった。壁面には術式刻印、中央には精密測定用の魔法陣が
刻まれた円形の床。セラフィンが術式を展開すると、幾何学模様が淡く輝く。
「魔力流動の可視化だ。危険はない」
俺は頷いた。
「魔力を流せ」
魔法陣が光り、魔力を流した瞬間――視界が揺れた。空間に線が走る。
装置の波形、術式構造、魔力の循環。無数の流れがなぜか理解できる。理由は
分からない。だが分かる。次の瞬間、全部消えた。
軽い目眩。すぐに収まる。
「今、何を見た」
「……少し、光が強くなった気がします」
沈黙。セラフィンはゆっくり息を吐いた。
「なるほど」
それ以上追及せず、紙と筆記具を差し出す。
「描け。流れを」
「描く……ですか?」
「見えたものだ」
俺は紙に線を描き始めた。曲線、交差、重なり。魔力の流動図。数分後、
セラフィンが覗き込む。
「ほう……」
それだけ言った。
「君の問題は才能ではない。制御不能な理解力だ」
椅子に腰掛ける。
「魔法は現象ではない。理だ」
机の上の紙束を指す。
「流れを整えろ」
俺は魔力を流し、さっきの図を思い出す。紙束が静かに揃った。それだけ。
「……くだらん」
少し間を置く。
「だが、医者が泣いて喜ぶ」
俺は首を傾げた。
「均しは命を救う」
淡々とした声だった。
その直後。腹が鳴った。かなり大きい音。セラフィンが時計を見る。
少し間があった。
「……何か食ってこい」
俺は扉へ向かった。そのとき。
「アルストロメリア」
振り返ると、セラフィンは机を見たまま言った。
「理解した魔法は形を変える。理解していない魔法はいずれ使用者を壊す」
それだけだった。会話は終わりらしい。
扉が閉まり、検査室は静寂に戻った。
セラフィンは机の引き出しから黒革の手帖を取り出し、新しい頁を開いて
短く書き込む。
――属性未定義個体
――未知の解析反応を確認
――理解速度異常
――危険性評価:保留
筆先が止まる。ギルドの報告書は空白のままだった。手帖を閉じ、最後に一行。
――観察継続(責任者直轄)
「……興味深い」
冒険者ギルドを出た俺は、理由もわからず猛烈な空腹に襲われていた。




