F級のメリア
カウンターの向こうに、栗色の髪のやわらかい表情の女性がいた。壁際の
椅子には、ローブ姿の男が一人、こちらには目もくれずに本を読んでいる。
酒場みたいに騒がしい場所を想像していたが、思ったより静かだった。
(思ったより……普通だな)
俺はカウンターに近づいた。受付カウンターの女性は、俺を見ると、すぐに
微笑んだ。
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。ご用件をお伺いしても
よろしいでしょうか?」
「……登録したいです」
「冒険者登録ですね。承りました。私は受付のリシェルです」
軽く頭を下げる。
「初めての方ですね? それでは、こちらへどうぞ」
カウンターの横の小さな机に案内された。リシェルは慣れた手つきで書類を
並べた。
「冒険者登録では、まず身分情報を登録します。難しいことはありませんよ」
小さな金属板を取り出す。
「こちらは古代文明の遺産で、冒険者証になりますね。血液を
少し登録するだけで大丈夫ですよ」
「……血?」
「ほんの一滴です。すぐ終わりますから」
俺は指を出した。チク。痛みはほとんどない。血が一滴、カードに落ちると、
淡い光とともに文字が浮かび上がった。
リシェルがそれを見る。
「……あら」
少し驚いた顔。
「お名前は……アルストロメリアさん、ですね」
長い。リシェルは少し考えた。
「もしよろしければ、メリアさんとお呼びしてもいいでしょうか?」
(アルストロメリア、か。確かに長い)
「……それでいいです」
「ありがとうございます、メリアさん」
リシェルはカードを机に置いた。
「次に、魔力適性の測定を行いますね」
水晶のような装置を取り出す。
「こちらに手を」
俺は装置に触れた。水晶が光る。普通なら色が出るらしい。紅、蒼、翠、
黄――属性の色が。だが、光が消えた。何も出ない。
リシェルが首を傾げた。
「……あれ?」
再起動してもう一度試したが、また消える。無色だった。
(……ゼロ、ということか。それとも測定できない何かがある、ということか)
判断する材料がない。今はそれだけわかれば、十分だった。
「故障……でしょうか?」
「いや」
奥から声がした。椅子のきしむ音とともに、ローブ姿の男が立ち上がる。
黒髪に青い瞳。年齢はわからない、若く見える。ゆっくり歩いてきた男は
装置を軽く触った。水晶が淡く光り、はっきりした翠色を示す。
「ほらな。壊れていない」
「セラフィンさん……」
リシェルが少し慌てるが、男は肩をすくめて俺を見た。目が細くなる。
「つまり、君の問題だ」
淡々としていて、少し皮肉っぽい。
「珍しいだけだ。測定不能体質。まれにいる。問題はない」
リシェルが冒険者登録証を見た。
「それではランクですが」
少し申し訳なさそうに言う。
「測定不能の場合、F級になります。新人の方はほぼF級からなので、
心配いりませんよ」
差し出されたカードを受け取った。
名前とランク……――アルストロメリア、F。
(……まあ)
こんなものか。カードをポケットに入れた。
リシェルが微笑む。
「改めまして、ようこそ冒険者ギルドへ」
「よろしくお願いします」
後ろでセラフィンが小さく笑った。
「面白いな」
誰に言ったのかはわからない。俺は気にしなかった。




