バルクの店
貿易都市ポルタ=ルクスの街角。
冒険者ギルドから少し外れた通りに、その店はある。看板は、わずかに
傾いていた。釘の打ち直しが甘いのか、それとも最初からそうだったのか。
直そうと思えば直せる程度の歪みだが、放置されている。
店の中は、さらに雑多だった。剣が並び、短剣が混じり、槍が立てかけられ、
杖が束ねられている。整っているようで、整っていない。値札はついているが、
書き方がまちまちだ。丁寧に書かれたものもあれば、殴り書きに近いものもある。
新品もあれば、中古もある。磨かれているものもあれば、そうでないものもある。
玉石混交。それが、この店の在り方だった。
店主――バルクは、カウンターの奥で腕を組んでいた。客が来れば応対する。
来なければ、そのまま立っている。無理に売り込むことはしない。必要なものを、
必要な分だけ売る。それで回る。そういう店だった。
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武器立てに、視線が向く。
剣。短剣。槍。杖。いつもと同じ並び。だが、その中に一つ、異物があった。
長杖。細い軸。過剰ではない装飾。先端には、青い宝玉。光を受けて、静かに
輝いている。
妙に、綺麗だった。傷がない。埃もない。この店にある他の品とは、明らかに
空気が違う。
バルクは、眉をひそめた。
「……こんなの仕入れたか?」
記憶を辿る。仕入れた覚えは、ない。だが、いつからあるのかと問われると、
それも分からない。昨日、なかったとは言い切れない。一週間前、あったとも
言い切れない。
気づけば、そこにある。そんな存在だった。バルクは、しばらくその杖を
見ていた。だが、やがて視線を外す。
「……まあいい」
売れるなら、それでいい。そういう判断だった。
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扉が開く。鈴が、軽く鳴った。
入ってきたのは、若い男だった。ローブは新しい。だが、着慣れていない。
見習いの魔術師。そういう空気だった。
「……杖、探してるんですけど」
少しだけ遠慮がちな声。
バルクは顎で武器立てを示した。
「そこだ」
それだけ。余計な説明はしない。客は、ゆっくりと歩み寄る。一本ずつ、
手に取る。重さを確かめる。感触を見る。視線が、移る。
そして止まる。あの長杖で。青い宝玉が、光を受けて揺れる。客の目が、
少しだけ変わる。
「……これ、いいな」
ぽつりと呟く。バルクは、何も言わない。ただ、見ている。
⸻
「これ、いくらですか?」
客が振り返る。
バルクは、少しだけ考えた。値札は、ついていない。そもそも、仕入れの
記憶がない。原価も分からない。だが、このまま置いておくのも、気持ちが
悪い。
「……銀貨一枚」
適当な値段。安くもなく、高くもない。処分としては、妥当。
客は、少しだけ迷った。表情に出る。
「……ちょっと高いな」
正直な感想。だが、視線は杖から離れない。見た目は、いい。明らかに、
他より整っている。少し考えて。
「……これで」
銀貨を差し出す。バルクは、それを受け取った。杖を渡す。客が、手に取る。
一瞬だけ。手元が、わずかに沈んだ。
「……?」
小さな違和感。
「重い……?」
呟く。だが、すぐに首を振る。
「……気のせいか」
持ち直す。そのまま、店を出ていった。鈴が、また鳴る。静かに。
⸻
店内。
バルクは、武器立てを見る。あの杖があった場所。今は、空いている。
少しだけ、隙間ができている。
違和感。だが、その理由は分からない。何が変わったのか。何が減ったのか。
うまく言葉にならない。
「……まあいい」
同じ言葉を、もう一度。
バルクは、カウンターに戻った。いつも通りに。店は、変わらずそこにある。
看板は、少し傾いたまま。武器は、雑多に並び。値札は、ばらばらで。それでも、
回っていく。
その杖が、三日で三回返品されることを。
このときのバルクは、まだ知らなかった。




