【第4章‑8】未来の揺れ
信長の一行が長浜を離れると、
町の空気がゆっくりと戻り始めた。
沈んでいた揺れが、
細く、静かに立ち上がる。
藤吉郎は、
湖のほとりにしばらく立ち尽くしていた。
信長の背中が見えなくなっても、
胸の奥の熱は消えなかった。
宗春は、
少し離れた場所からその背中を見ていた。
湖面には、
朝の光が細く揺れている。
信長の沈む光が去ったあと、
藤吉郎の揺れる光だけが残っていた。
藤吉郎は、
湖の揺れに向かって静かに言った。
「……天下へ向けよ、か。」
その声は、
自分に言い聞かせるようでもあり、
未来に投げかけるようでもあった。
宗春は近づき、
藤吉郎の横に立った。
「藤吉郎さま。」
藤吉郎は振り返らず、
湖の揺れを見つめたまま言った。
「宗春。
わしの光は……
まだ浅いか?」
宗春は、
その問いにすぐ答えられなかった。
藤吉郎の光は揺れる。
信長の光は沈む。
どちらも強く、
どちらも未来を照らす。
宗春は、
胸の奥に生まれた言葉を
ゆっくりと形にした。
「浅い……
ですが、
浅い揺れほど、
遠くまで届きます。」
藤吉郎は、
その言葉にわずかに笑った。
「信長さまも、
同じことを言っておった。」
宗春はうなずいた。
「藤吉郎さまの光は、
人の心を揺らします。
それは……
戦の光とは違う。」
藤吉郎は、
湖の揺れを見つめながら言った。
「人の心が動けば、
国が動く。
信長さまは……
それを見抜いておられた。」
宗春は、
藤吉郎の横顔に宿る光を観測した。
沈む光ではない。
形を探す揺れでもない。
もっと速く、
もっと鋭く、
もっと熱い。
未来へ向かう光。
藤吉郎は、
湖から目を離し、
長浜の町を見渡した。
「宗春。
この町を……
もっと動かすぞ。」
宗春は静かにうなずいた。
信長の沈む光が去ったあと、
長浜には藤吉郎の揺れる光だけが残った。
その揺れは、
確かに未来へ向かっていた。




