【第4章‑9】夜の揺れ
信長が去った日の夜、
長浜の町は静かだった。
昼間の揺れは落ち着き、
家々の灯りは細く、
風はほとんど動かない。
宗春は、
茶室の前にひとり立っていた。
昼間は揺れていた光が、
夜になると沈み、
影がゆっくりと伸びていく。
宗春は、
その変化を胸の奥で観測した。
信長の光は沈む。
藤吉郎の光は揺れる。
そして夜の光は、
そのどちらでもない。
宗春は、
茶室の中に足を踏み入れた。
昼間の熱は消え、
土壁は冷たく、
床の土は静かに呼吸している。
東の窓からは、
月の光が細く差し込んでいた。
その光は、
昼間のように揺れず、
ただ静かに、
部屋の空気を撫でていた。
宗春は、
茶室の中央に座った。
昼間、
信長の沈む光が押し返した揺れ。
藤吉郎の動く光が生んだ震え。
その両方が、
いまは静かに重なっている。
宗春は、
胸の奥に生まれた言葉を
ゆっくりと確かめた。
「……光は、
人を動かすためにある。」
その呟きは、
夜の空気に吸い込まれた。
宗春は続けた。
「沈む光も、
揺れる光も……
どちらも、人の心を照らす。」
月の光が、
柱の影を細く伸ばす。
宗春は、
その影の揺れを見つめながら
静かに息を吸った。
「わしは……
その光の行方を、
見届けねばならぬ。」
信長の“静”。
藤吉郎の“動”。
その二つの光が、
これからどこへ向かうのか。
宗春は、
その行方を観測する者として
自分の役目を理解し始めていた。
夜の茶室は、
静かに揺れていた。
未来へ向かう光を
受け止めるように。




