【第4章‑7】去り際の光
信長が馬に乗ると、
長浜の空気がわずかに沈んだ。
町の揺れが細くなり、
人々の声が遠くなる。
藤吉郎と宗春は、
その前に静かに立っていた。
信長は、
長浜の町を一度だけ振り返った。
湖からの道、
荷車の流れ、
市場のざわめき、
家々の灯り──
すべてが細い揺れとなって重なっている。
藤吉郎の“動”が作った揺れだった。
信長は、
その揺れを沈む光で測るように
しばらく黙っていた。
宗春は、
その沈黙が町全体を包むのを観測した。
やがて信長は、
藤吉郎に視線を向けた。
「藤吉郎。」
その声は、
冬の光のように静かだった。
藤吉郎は一歩前に出た。
信長は、
長浜の揺れを背にして言った。
「……この町は、
おぬしの光で動いておる。」
藤吉郎の胸が、
強く揺れた。
信長は続けた。
「揺れは浅い。
だが……
浅い揺れほど、
遠くまで届く。」
宗春は、
その言葉が藤吉郎の未来を指しているのを感じた。
信長は、
馬の手綱を軽く引いた。
「藤吉郎。」
藤吉郎は息を呑んだ。
信長は、
わずかに目を細めて言った。
「……その光、
天下へ向けよ。」
藤吉郎の胸の奥で、
何かが静かに燃え始めた。
信長はそれ以上何も言わず、
馬を進めた。
沈む光が、
長浜の揺れを背に遠ざかっていく。
宗春は、
その背中を見送りながら
胸の奥で小さく呟いた。
「……光は、
未来へ向かうもの。」
藤吉郎は、
信長の去った道を見つめていた。
その目には、
揺れる光が宿っていた。




