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【第4章‑6】光のちがい
信長と藤吉郎が並んで歩く背中を、
宗春は少し離れて見つめていた。
湖の光は静かに揺れ、
岸に寄せる波は細く、
朝の空気はまだ冷たい。
二人の影が、
湖面に細く伸びていた。
信長の影は、
揺れず、沈む。
藤吉郎の影は、
わずかに揺れ、動く。
宗春は、
その違いを胸の奥で観測した。
信長の光は、
世界をひとつの点に収束させる。
沈め、
整え、
動きを止める光。
藤吉郎の光は、
世界を細かく揺らし、
形を探し、
未来へ向かう光。
二つの光は、
まるで違う。
だが、
いま湖のほとりで並んで立つ二人の影は、
同じ方向を向いていた。
宗春は、
その重なりを見て胸が震えた。
信長の“静”が、
藤吉郎の“動”を押し返し、
測り、
それでもなお、
未来へ向かう揺れを許している。
宗春は、
自分の胸の奥に生まれた言葉を
静かに確かめた。
「……光は、
止まるためにあるのではなく、
動くためにあるのかもしれぬ。」
その呟きは、
湖の揺れに吸い込まれた。
信長の光は沈む。
藤吉郎の光は揺れる。
だが、
どちらも“価値”を生む光だ。
宗春は、
初めてそのことを
自分の言葉で理解した。
藤吉郎が振り返り、
宗春に声をかけた。
「宗春。
行くぞ。」
宗春はうなずいた。
胸の奥に、
小さな揺れが生まれていた。
それは、
藤吉郎の“動”を
自分の中にも宿し始めた証だった。




