【第4章‑5】最後の問い
長浜の町を一巡したあと、
信長は湖のほとりに立った。
朝の光が水面に沈み、
細い揺れだけが岸へ寄せている。
藤吉郎は、
その背中を少し離れて見つめていた。
宗春はさらに後ろで、
二人の光の交差を観測していた。
信長は、
湖の揺れをしばらく見ていた。
沈む光が、
水面の揺れを押し返しているようだった。
やがて信長は、
振り返らずに言った。
「藤吉郎。」
藤吉郎の胸が、
わずかに脈打った。
「おぬしの“動”……
どこへ向かう?」
藤吉郎は、
その問いの重さを理解していた。
信長の問いは、
未来を測るためのものだ。
藤吉郎は、
湖の揺れを一度だけ見た。
「……人の心へ向かいます。」
信長は振り返らない。
藤吉郎は続けた。
「城も、兵も、
道も、町も……
すべては、人の心が動かすもの。」
湖の光が揺れ、
藤吉郎の声がその揺れに重なる。
「心が動けば、
国が動きます。」
信長は、
その言葉を受け止めるように沈黙した。
宗春は、
その沈黙が町の空気とは違う重さを持つのを感じた。
信長の沈黙は、
藤吉郎の“動”を押し返し、
その芯を試している。
藤吉郎は、
その沈黙に向かって言葉を重ねた。
「わしは……
光で人を動かしたい。」
信長が、
ゆっくりと振り返った。
その目は、
冬の光のように静かだった。
「光で、か。」
藤吉郎はうなずいた。
「はい。
光が揺れれば、
人の心も揺れます。」
信長は、
藤吉郎の目をまっすぐに見た。
沈む光と揺れる光が、
真正面からぶつかった。
宗春は、
その瞬間の空気が震えるのを感じた。
信長は、
長い沈黙のあとで言った。
「……ならば、
その光、
わしに見せ続けよ。」
藤吉郎の胸が、
強く揺れた。
信長は続けた。
「揺れは浅い。
だが……
浅い揺れほど、
大きく育つ。」
その言葉は、
未来を許す者の声だった。
宗春は、
二つの光が同じ方向を向いたのを感じた。
沈む光と揺れる光が、
初めて“未来”という一点で重なった。




