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永久の想い  作者: 兎羽
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ブラック兄弟


「秀秋?」


「…………」


秀秋はうつ向いたまま、動かなくなってしまった。言葉もなにも発しないままの秀秋に不安を抱き、コウは下から顔を覗きこむかのように見る。


目は虚ろで、それは以前、秀前が表に出てきている状態に似ていた。

その目には、光がない。


「そ、空っ!?」


身の危険を感じ、慌てるように空に助けを求めようと振り返るが、すでに空の姿はない。

一気に不安が恐怖に変わる。


「…………」


でも、これでいいのかも知れない。

俺は秀前が命よりも大切にしていた空の命を奪ったんだ。


憎まれて、当然だよな…。


腹をくくり、秀前とまっすぐ向き合う。


秀前は前に一歩一歩と踏み出してくる。


ゆっくりとだんだんコウに近付いてくる秀前には、なにか圧倒されるものがあって、コウは身動きをとることすらできない。

何ともいえないプレッシャーで、フローリングに足がひっついてしまったみたいだ。


秀前の手が、コウの頭に、触れた――…。


「なぁ〜に、ぼっとしてんだ?早く行かねぇと空がまた煩いぜ?」


「……………」


くしゃくしゃと頭を撫でられたコウは、呆然と秀秋を見つめる。

それを不思議に思ってか、きょとんとした顔で「どした?」と首を傾げる。


「ひ、秀秋?」


「あ?なんだよ」


秀秋はいつもと変わらぬ様子で眉をひそめる。コウは思わず、その場に座り込んでしまっていた。


「よ…よかったぁ〜…」


「はぁ?ワケわかんねぇヤツ…」


コウはドキドキと早かった鼓動を落ち着かせて再び立ち上がる。それとほぼ同時に、玄関の扉が開かれてひょっこりと空が顔を出した。

その表情は実に不満そうだ。


「も〜おそいよ!!トモたちも待ってんのに」


随分と待たせてしまったようで不機嫌な空。二人は急かされるままに慌てて靴をはいて家から出る。


ボーリング場へ着いてみると、予想通りにトモヤが眉をつり上げて腕くみをしながら待っていた。一樹はいつもと変わらぬ様子でジュースを飲んでいる。


「遅いっ!!!」


不機嫌なトモヤの第一声。

コウはそれをなだめる役割を押し付けられ、秀秋はひとり、受付へと向かっていった。










「あ゛ーっ!!ムカつく!!」


ドカッと乱暴に座ったのは、コウでもなく秀秋でもなく、トモヤでもなければ一樹でもない、空だった。


「な〜にが『お母さんかお父さんは?』だよっ!!」


まだゲームもはじまっていないというのに、空は随分とご立腹だった。

今まで中学生にならまだしも、小学生にまで間違われたことはなかったのだ。

しかし今回はボーリングだという理由で無邪気にニコニコしながらスキップをしていたせいなのか、スタッフに間違われてしまったのだ。


精神年齢はそのくらいじゃないかと、コウは思った。


「精神年齢はそんなもんだろ」


キッ、と鋭い目付きがこちらに向けられてコウはビクッと体を震わせる。

いつものほわっとしたイメージの空ではなく、前世、空也の近付くな的なオーラが放出されていた。


俺じゃない、と両手をあげて自己主張。


一歩身を引いて、少し空から距離をとる。すると、軽い衝撃が背中に伝わった。

どうやら、先程のセリフは秀秋が言ったものらしい。その証拠に空の視線は秀秋に向けられていた。


「お前に言われたくねぇよ、でくのぼうが」


「おーおー、久々にブラックじゃねぇか。誰が木偶の坊だ、あぁ?漢字で書けるようになってからそういう言葉は使うんだな。このミジンコ」


空だけではなく、秀秋までもがブラックモードに入っている。

コウはそんな二人に挟まれて身動きを取れない状態になっていた。


「はぁ…、司ちゃんがいないと駄目だねぇ。この兄弟は」


一樹が苦笑いを漏らす。

トモヤまで「同感だ」とうなずいている。


「とりあえず、言い争いはそこまでにしようか?ここまで来て、まだ俺らを待たす気?」


一樹がコウを助けるように二人の間に入って、なだめる。


「まったくだ。お前らは何のためにココに来てるんだよ」


ニヤリと笑ったトモヤは、レーンを指さす。

つまり、勝負ならボーリングで。と言いたいわけだ。


「上等」


「はっ、空くんなんかが俺様に勝てるのかな?」


「そういうの、負けた時辛いからあまり言わない方が身のためだよ」


「ありえないから」


「ナルシー…」


「フェミニスト」


「大人げない」


「そのせりふ、自分の精神年齢の低さ認めてるとしか聞こえねー」


二人はリレーのように相手を罵りながらボールを投げる。そのボールはものすごいスピードで弧を描いて、見事にピンを倒していった。


「あの二人…互いをピンに重ねてみてんのかな…」


コウは恐ろしいものでも見ているかのように、呟く。


結局、その日のゲームは、二人ともパーフェクトゲームを成し、引き分けにおわったのだった――。


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