表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寝落ちで無双〜理不尽にクビにされた社畜が、睡眠スキルで最強の探索者になった件〜  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/58

第41話 二人で選んで、二人で勝つ

 申請から二日後。


 ギルド本部の待合エリアで、俺と栞は指定された面談室の前に立った。

 ノックして、入る。


 先に男が待っていた。

 四十代半ばだろうか、椅子に深く座って足を組んでいる。

 整った顔立ちに薄い笑みを浮かべていて、桐島みたいな傷だらけの顔とは別種の人間だと分かった。

 腰に提げた鞘は本物だが、どこか飾り物のように見えた。


「朝倉優馬、神城栞だな。今回の試験を担当する、堂島だ」


 立ち上がりもせず、書類に目を落としたまま言った。


「登録から二ヶ月でBランク最速記録。そしてデュオ特例か。若いうちは勢いがある。それはそれで結構なことだ」


 顔を上げて、俺たちを順番に見た。


「だが、Aランクの魔力密度はBランクとは別次元だ。体が重くなる。判断が鈍る。魔法の精度が落ちる。配信向けの派手なパフォーマンスが、そのまま通用すると思わない方がいい」


 桐島と同じことを言っている。

 でも、桐島の目とは違う。


「今からでも再考の余地はあるが、どうする?」


 堂島の目を見た。

 答えは決まっていた。


「討伐対象を教えてください」


 堂島が少し眉を動かした——それだけだった。


「……フォースト・ドラゴン。1体の討伐証明を持ち帰れ」


 試験票をテーブルに滑らせてくる。

 俺が受け取ると、堂島は再び書類に目を落とした。


「ドローンは義務だ。帰ってこなくても、無残な映像だけは残るようにしろ」


 隣で栞が無言でメモを取っている。

 フォースト・ドラゴン——その名前を確認して、タブレットを閉じた。


 ギルド地下。

 転送陣のフロア。


 ドローンを起動すると、電源が入った瞬間に同接カウンターが跳ね上がった。


 『Aランク試験始まった!?』

 『フォースト・ドラゴンってAランクの中でも厄介な部類じゃ』

 『2人で行くのか……頼む生きて帰ってきてくれ』


「準備はいいか」

「ええ」


 転送光が、二人を包んだ。


 転送完了の瞬間、全身に圧がかかった。


 重い。

 でも今回は、Bランク試験の時ほど足が止まらなかった。

 肺が押し返されるような感覚。

 魔力が空気に溶けている。

 慣れとは言い切れないが、驚きはない。


「前より、だいぶましだな」

「そうね。体が覚えてるのかしら」


 栞が杖の重さを確かめながら言った。

 顔色は変わっていない。


 石造りの回廊。

 Bランク試験と似ているが、空気の密度が違う。

 壁に埋め込まれた魔石が青白い光を放っている。


 進む。

 前方から気配察知が反応した——複数だ。


「来る」

「わかってる」

「睡眠」


 意識が落ちる。


 遭遇戦は短かった。

 道中の魔物を薙ぎ倒しながら、階層を下りていく。

 Aランクの魔物は硬く、速い。

 でも今の俺たちには、立ち止まる理由にならない。


 眠って、選んで、起きて、進む。

 コメント欄がそのペースに気づいていた。


 『あれ、詰まってない』

 『Bランク試験の時より余裕があるぞ』

 『Aランクの魔物を普通に狩ってる……』

 『慣れてるのか? ここ来たことあるの?』


 栞のデバフと俺の刃が同時に発動し、一切のロスなく魔物が沈む。

 今は違う。


 最奥のボス部屋の手前。

 重厚な石扉。


 その前で立ち止まった瞬間、収納の奥の道標の石が強く熱を持った。

 こいつが持っている。

 欠片を。


「……持ってるな」

「ええ。かなり強い反応よ」


 コメント欄が察した。


 『ボス部屋の前で止まった』

 『同接また上がってる 今何人いる?』

 『フォースト・ドラゴンとの決戦か』


 栞と目が合い、小さく頷き合って、二人で分厚い石扉を押し開ける。


 広大な石室の奥。

 そこに鎮座していたのは、全身を苔むしたような深い緑色の鱗に覆われた、巨大な竜だった。

 四肢は丸太のように太く、背中には巨大な翼が折りたたまれている。


 圧倒的なプレッシャーが肌を刺す。

 だが、俺たちの呼吸は乱れない。


「睡眠」


 俺が目を閉じた瞬間、栞も同時に目を閉じた。

 コメント欄が爆発した。


 『二人同時に目閉じた!!』

 『また来るぞこれ!』

 『Aランクのボス相手に以心伝心使うのか!?』


 真っ黒な空間。

 いつものコマンド画面が展開された。


 『フォースト・ドラゴン が あらわれた!』


 隣に気配。

 振り向かなくても分かる——栞だ。


「作戦を組む」

「わかってる。もう考えてた」


 栞がスキル画面を開きながら、淡々と続ける。


「フォースト・ドラゴン。風と植物の複合属性。だから火属性が弱点のはずよ。植物に火は通るし、風属性は燃焼を促進する。賭けじゃない、理屈のある推論よ」

「確度は?」

「十分ある。根拠のない話はしない」

「俺は火炎突きで、装甲の継ぎ目をこじ開ける」

「ええ。私は速度ダウン・最大から入る。飛行を最優先で封じる。飛ばれたら詰む」

「飛行を止めて、装甲を焼く。装甲が割れたら?」

「防御ダウン・大を重ねる。そこからは早くなる」


 二人で画面を確認しながら、穴を探す。


「ブレスは」

「装甲が割れた後に来るはずよ。怒り補正が入るタイミング」

「そこで仕留める。俺はカウンター改を合わせる」

「私はそこで、バフ・最大を全載せする」


 少しの間。


「最大、初めて使うか」

「あなたが壊れないなら」

「寝てるから壊れない」

「……そうだったわね」


 栞が小さく息を吐いてから、画面に向き直った。


「行くわよ」

「ああ」


 二人が同時に選択すると、ポン、と軽い電子音が二つ重なった。


 ドローンの視界。


 フォースト・ドラゴンが咆哮を上げた。

 空気が震え、石室の壁にヒビが走る。


 だが、目を閉じた二人は微動だにしない。

 ドラゴンの分厚い後脚が石畳を砕き、巨大な翼が羽ばたこうとした――その瞬間。


 栞の骨杖が、音もなく持ち上がった。


 『速度ダウン・最大』


 目に見えない重圧が、ドラゴンの巨体を上から叩き潰した。

 羽ばたきかけていた翼が、不自然な角度で床に縫い留められる。

 飛行を完全に封じられたドラゴンが、混乱と怒りに満ちた唸り声を上げた。


 その巨体の懐に、すでに優馬が潜り込んでいた。

 黒淵の紅刃に、限界まで圧縮された炎が纏われる。


 『火炎突き』


 森と風の魔力が凝縮された緑の鱗へ、弱点である炎の刃が叩き込まれる。

 硬質な鱗が焼け焦げ、ひび割れ、砕け散る。

 優馬の連撃が、ドラゴンの強固な装甲を容赦なく剥がしていく。


 『うおおおおお!』

 『ドラゴンの鱗が豆腐みたいに割れてくぞ!』

 『栞さんのデバフ、ドラゴンの飛行完全に止めた!』

 『なんだこの二人、完全に動き噛み合ってる!』


 装甲を砕かれたドラゴンが激痛に身をよじり、緑色の瞳が血走る。

 首を大きく反らし、口内に絶望的な熱量の炎が収束し始めた。


 怒り補正による、広範囲の殲滅ブレス。

 だが、それを待っていた。


 真っ黒な空間。


「仕上げ。カウンター行く」

「バフ・最大、全部乗せる」


 言葉はそれだけで十分だった。

 二人が同時に、最後のコマンドを選択する。


 ポン、ポン。


 現実。


 ドラゴンの口から、石室すべてを焼き尽くす灼熱のブレスが放たれた。

 その真っ只中へ、優馬が一歩踏み込む。


 同時に、栞の骨杖からかつてないほど禍々しい光が放たれ、優馬の背中へ叩き込まれた。


 『バフ・最大』


 完全に脱力している今の優馬の身体は、その異常な出力を完璧な形で運動エネルギーへと変換した。


 『カウンター改』


 放たれたブレスの炎の中を、黒淵の紅刃が正面から突き抜ける。

 ドラゴンの炎ごと、剥き出しになった胸の継ぎ目――その奥にある巨大な魔力核を、漆黒の刃が貫通した。


 ズバァァァッ!!


 閃光。

 轟音。

 フォースト・ドラゴンの巨体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


 『ボス を たおした!』


 陽気なファンファーレ。


 『は!?』

 『二人同時にコマンド選択してカウンター決めた!?』

 『栞さんのバフ最大って初めて見た……杖光ってたぞ』

 『これが以心伝心か……化け物すぎる』


 初心者マニア ◆fAnAtIc.Yu

 『記録しておけ。これが新時代の戦闘だ』


 パチリ、と、二人同時に目が開いた。


 倒れたフォースト・ドラゴンが、光の粒子になって霧散していく。

 その跡には、幾つかのアイテムが転がっていた。


「……終わったわね」

「ああ」


 深く輝く緑鱗が複数枚。

 鋭く尖ったドラゴンの爪が二本。

 そして、濃密な魔力を放つ翠緑の魔力結晶。

 もちろん、討伐証明となる魔核もある。


「つむぎさんに持っていく価値がある素材だ」


 俺が言うと、栞が一つずつ鑑定して目を細めた。


「……これ、全部一級品ね」


 そして、その傍らに落ちていた淡い光。

 十一個目の、夢の欠片。


 拾い上げて収納へ放り込むと、道標の石の熱が、明確にもう一段階跳ね上がったのがわかった。


「帰ろう」

「ええ」


 素材をすべて回収し、俺たちは転送陣へ向かった。


 ギルド本部。


 転送陣のフロアを出ると、堂島が腕を組んで待っていた。

 眉間に深い皺を刻み、幽鬼でも見るような目で俺たちを見つめていた。

 面談の時とは別人のような顔だ。

 ドローンからのリアルタイム映像を、ずっと見ていたのだろう。


 堂島が、乾いた唇を開いた。


「……合格だ」


 絞り出すような声だった。


「何か」


 俺が淡々と聞き返すと、堂島は顔を伏せた。


「……いや。何でもない」


 それ以上、彼が口を開くことはなかった。

 俺たちは一瞥もくれず、その横を通り過ぎた。


 カウンターで真新しいAランクカードを受け取る。


「素材の鑑定と換金は、どうなさいますか?」


 顔なじみの受付嬢が、興奮冷めやらぬ様子で聞いてきた。


「換金はしません。預かりでお願いします」

「明日、つむぎさんに連絡するわ」


 栞が横から付け足す。

 受付嬢が手際よく手続きを済ませてくれた。


 夕暮れの街。

 タワーマンションへの帰り道、並んで歩きながら栞が口を開いた。


「次はSランクね」

「まずは欠片だ」

「わかってるわよ」


 栞が少し楽しげに肩をすくめた。


「ドラゴン素材、何に使うつもり?」

「栞の杖と、俺の防具。あとは現物を見て、つむぎさんに判断してもらう」

「……あの人、これ見たらまた早口になるわよ」

「それでいい」


 収納の奥で、道標の石が静かに熱を持っている。

 欠片は十一個——残り、九個。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ