↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
275/310

10/2 ちょうど2.1Kウミガメのスープ

アンナが死んだ日、俺は警察署からの帰り道を妙にはっきりした足取りで帰っていた。


立ち寄ったコンビニでクラッカーと、喉が渇くだろうからスプライトを一本、あと適当に掴んだプロテインバーを袋に詰めて、後はそれを振り回しながら帰った記憶がある。


暗がりの道。

スリングで遊んでたガキが割った街灯が1ブロックに亘って続いてる。

家の明かりはとおに消えていて、道端のゴミ箱の隅にネズミが這ってる。


末端が妙に硬くなる感覚と、道路と足裏以外に現実が存在しないような雰囲気、だから俺はビニール袋をぐしゃぐしゃに握って、クラッカーを側溝に放った。


鍵は潰れてるみたいに鍵穴に入らなくて、真っ暗な中で扉だけ妙に白く浮き出てた。


家に入ってベランダに出て、階下を覗いた時に心底怖くなって電気をつけたまま朝まで待ってた。


太陽の光が俺の目を突き刺すと同時に、服に飛び散った赤いものが目について、トイレに駆け込んでしこたま吐いて、そっから死んだみたいに眠った。



アンナの21歳の誕生日パーティーだった。


10/2はガンジーの誕生日だ。

だから頭がイってるマイクはソルト・ガンを誕プレに選んでた。


全員アンナが喜ばないことは知ってた。マイク以外。

だけど、アンナの兄貴が死ぬほど喜んでたから、マイクは自信をつけたみたいだった。


俺らは、ソルト・ガンは絶対ジェームズがアンナからパクって自分のものにする気だって言ってた。


誕生日パーティーのサプライズは、結構単純だった。


22時にアンナのバイトが終わるから、アイツが家に帰る前に全員で集まって、電気消した暗闇の中からバン!ってクラッカーで祝おうぜって感じ。


どこのサプライズも大体そんな感じだったし、結局それが一番だってのは全員わかってた。


だから22時15分には電気消して、20分にアンナが帰ってくるまでドアの前で息を潜めてた。


俺以外にいたのは、ジェームズ、マイク、クリス、ダニエル、扉の反対側にエミリー、ソフィア、グレース。


暗闇の中でみんなの堪え切れない笑いが所々で上がって、ヘッドライトに反射したニヤケ顔が映って。


ドアの外から足音が聞こえてきて、どうせバレてるけど、でもやっぱ誕生日パーティーはサプライズから。


鍵が開けられ、ドアが開いて、アンナが入ってきて。



パン!!



アンナは「ギュイ」みたいなことを言ってぶっ倒れた。


全員が大爆笑した。


「Surpriseーー!!!」


全員で笑いながら言って、拍手の中部屋の電気がつけられて。


アンナは血まみれで突っ伏してた。


「…Oh」



……



犯人はアンナの兄貴のジェームズだったらしい。


ジェームズはミリオタで、よくアルミニウム・スカンジウム合金製のフレームを自慢しにきてた。


動機は……わからない。

けど、両親の離婚があってから2人に確執があったのは噂で知ってる。


アンナの死因は腹部及び首の損傷、それによる失血性ショック。


ジェームズがクラッカーを改造して、中に散弾みたいなのを仕込んでたらしい。


グレースがみんなに配ってたクラッカーじゃなくて、火薬と弾をしこたま詰めた超強力なやつ。


見た目はほとんど一緒だけど、重さだけが違う。



フレークを半分残して、ゴミ箱に捨てた。


ジャケットを羽織り、家の外に出た。


外はもう随分日が翳っていて、西の空で黒い鳥が羽をばたつかせている。


風が吹いて、道路に等間隔に並んだ木から枯葉が数枚一斉に飛んでく。


散らばった枯葉を集めるための箒が、玄関の横にある。


通りを走る自転車も、向かいの庭でクソしてる白い犬も、いつもと変わらない。


見た目はほとんど一緒。


…

……視界の端、側溝の近くに茶色い袋が落ちている。


赤字で書かれた商品名が見える。


眩暈がする。


息を吐き、玄関を下った階段に腰をかけると、尻ポケットに異物感を感じた。


円錐状。


黄色い厚紙にカラフルな星がプリントされた外装。


下に伸びる白い紐。


クラッカー。


途端に油汗が滲み出る。


風の音も匂いも遠くに消えた様に感じる。


そういえば、俺は直前まで外にいたから、グレースから直接クラッカーを受け取っていない。


あの時隣にいたのは……。


クラッカーを手に乗せる。


昨日と重さの違いは感じない。


ジェームズがすぐに捕まったのは、アンナの外傷から容疑者がすぐ割り出せたからだ。


アンナの左半身に散弾を受けた跡。


扉正面側、奥側に立っていた人物以外。


つまり、ジェームズ、マイク、俺。


クリス達が帰ったあとも、俺らへの事情聴取はしばらく続いた。


そのあとジェームズがゲロったおかげで俺とマイクは夜のうちに帰れた。


……。


クラッカーの先を自分に向ける。


捻れてまとまった口は、黒々とした中身を隠している。


紐に指をかける。


クラッカーの重みは昨日とほとんど変わらない。


中に弾が入ってたら、絶対にわかる。


ジェームズから受け取った2つのクラッカー。


指を引いた。


周りに花が舞った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。