48,久しぶりに郁美と話せたことと姉の結婚式
三人で、ちらちらと目くばせをし合った後、結城が、葉菜を見て言った。
「もしよかったら、これから私たちのグループに入らない?」
「えっ、いいの?」
葉菜の言葉に、みんなが笑った。
「当たり前じゃない。もちろん、嫌じゃなかったらだけど」
反射的に、葉菜は首を横に振る。嫌なはずがない。
「お昼も一緒に食べよう」
「私たち、お弁当派だけど、カフェテリアに持って行って食べてもいいし、ときには料理を頼んで食べてもいいんだし」
とても驚いたけれど、なんだかうれしくなって、葉菜も笑った。たくさん辛いことがあったけれど、それらはもう、全部終わったのだ。
その日の放課後、寮に帰ってから、葉菜は新しいスマートフォンから、郁美にメッセージを送った。
―― 学校や寮であったことを聞いていますか? 河合さんたちのことは、もう解決したから、郁美ちゃんが戻って来てくれたらうれしいな。
彼女たちが、今後どうなるのかは、まだわからないが、少なくとも、葉菜が嫌がらせをされることは、もうないに違いない。すると、すぐに返信が来た。
―― メッセージありがとう。担任の湯原先生から連絡があったし、まあちゃんからもメッセージが来て、全部聞いたよ。今から電話してもいい?
―― もちろん!
すぐに着信。
「もしもし?」
「葉菜ちゃん?」
「郁美ちゃん!」
だが、次の言葉がなかなか返って来ない。息遣いの向こうに、すすり泣きが聞こえたような気がした。
「郁美ちゃん、大丈夫?」
「葉菜ちゃん。……葉菜ちゃん、ごめんね」
「えっ? 郁美ちゃん、なんで謝るの?」
しばらくの間、郁美は泣きじゃくっていて、なかなか言葉にならなかった。
やがて、途切れ途切れに郁美が話し始めた。どうやら郁美は、自分だけが実家に逃げ帰ったことに、罪の意識を感じているらしかった。
「一番辛い思いをしているのは葉菜ちゃんなのに、私、葉菜ちゃんを助けるどころか、自分のことしか考えないで……」
「そんなこと、気にしなくていいんだよ」
そもそも、郁美はとばっちりを受けただけなのだから。葉菜のほうこそ、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「それより、体調はどうなの?」
「あ……大丈夫だよ。ありがとう。葉菜ちゃんも、怪我したって聞いたけど」
「ああ、それならどうってことないよ。ほんのかすり傷」
「本当? よかった……」
「あのね、また郁美ちゃんとおしゃべりしたり、一緒にご飯を食べたりしたいな。郁美ちゃんが寮に戻って来てくれたらうれしいんだけど」
「葉菜ちゃん」
まあちゃんたちも、郁美と距離を置いたことを謝り、もう一度友達に戻りたいと言ったそうだ。みんな、それだけ河合のことを恐れていたのだ。
郁美は、両親と相談して、週明けにも寮に戻りたいと言ってくれた。ほっとした。久しぶりに郁美と話せたこともうれしかった。
次の週末は大安吉日で、葉菜は佑紀乃とともに、ホテル内の結婚式場を訪れた。姉の結婚式があり、佑紀乃も招待されているのだ。
ホテルに向かう道すがら、佑紀乃が話してくれた。
あれから佑紀乃は、河合の父と話し合ったのだという。彼は、河合の数々の行動には、自分にも責任があると言っていたそうだ。
自分が稼いだ金で何をしようが勝手だし、娘にも、十分な金さえ与えていればいいと思っていたが、それは間違いだったと。
そして、母親の治療費を稼ぐために疲弊していた佑紀乃を援助したことに後悔はないが、それは妻と娘には、とうてい納得できることではなかっただろうとも。
だが、それに関して、佑紀乃は、「言い訳にしかならないけれど」と前置きしてから言った。
妻子ある人と愛人契約を結ぶなどというのは、決して許されることではないが、そうでもしなければ、お互いにとって、彼が佑紀乃の母の治療費を払う理由がなく、もしも契約を受け入れなければ、母はもっとずっと早くに亡くなっていただろうと。




