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47,最高だと思ったことと結城とその友達

 タクシーが動き出すと、隣に座った姉が言った。

 

「スマホ、壊れちゃったんですってね」


 佑紀乃は助手席に座っている。


「うん。ベッドに置きっぱなしにしていたから……」


「何かあったときのために、持ち歩きなさいっていつも言っているのに」


「だって……」


 「何か」なんてなかなかあるものではないし、SNSもやらない葉菜には、スマートフォンはじゃまなだけだ。実際、なくて困ったのは、一昨日、姉に連絡できなかったのが初めてだった。

 

 姉が、こちらを見て微笑んだ。

 

「お昼ご飯の後で、新しいスマホを買いに行こうか」


「うん!」




 葉菜の希望で、駅ビルのいくつかあるレストランの中の、パスタ専門店に入った。ボロネーゼを注文した葉菜に、姉が言う。

 

「ソースを服に飛ばさないように気をつけるのよ」


「はーい」


 向かい側に座った佑紀乃が、にこにこしながら見ている。

 

 

 注文の品がそろい、ウェイトレスが去ったところで、姉が言った。

 

「昨日、佑紀乃さんといろいろお話ししたのよ。それで、食べながらでいいから、聞いてちょうだい」


「わかった。いただきまーす」


 葉菜は、フォークを手に取る。ミートボールが入ったたっぷりのトマトソースから、いい匂いが立ちのぼっている。

 

 まず、フォークでパスタを巻き取ってぱくりと口に入れる。

 

「おいひー」


 思わずつぶやいた葉菜を見ながら、佑紀乃が言った。

 

「私、彼とはお別れしようと思うのよ」


「あ……はい」


 何やら深刻な話が始まるらしいと思い、葉菜は、かすかに緊張して、フォークを持つ手を止める。

 

「これからきちんと話し合いをするつもりでいるんだけれど、ああいうことがあった後では、彼も同意してくれるんじゃないかと思うの」


「はい」



 そこで、姉が横から言った。

 

「そうなれば、佑紀乃さんは、あの洋館を出なければならないでしょう?」


「うん」


「それで、佑紀乃さんがかまわなければ、うちを使っていただいたらどうかと思って、そうお話ししたのよ」


「え?」


「空き家にしておくと、傷みが早いっていうし、そうじゃなくても、防犯上心配でしょう。もしも佑紀乃さんに住んでもらえたら安心だし、そうすれば、葉菜も週末に帰れるでしょう?


 そのときに合わせて、私も帰ってもいいし」


「あっ、そうか」


 それはいい。週末に、家で姉と佑紀乃と過ごせるなんて最高ではないか。

 

「なんだか佑紀乃さんに家のことを押しつけるみたいで、かえってずうずうしい気もするけど、お父さんも賛成してくれると思うのよね」


 姉は、折に触れて、父と連絡を取っているらしい。佑紀乃が、申し訳なさそうに言った。

 

「とってもありがたいんですけれど、ご厚意に甘えてしまっていいのかどうか……」


「そんなことないです。そうしてください。私、佑紀乃さんが待つ家に帰りたい!」


 葉菜が言いつのると、佑紀乃は、ほっとしたように微笑んだ。その顔を見て、葉菜も微笑む。

 

 

 

 翌日の朝、教室に入って行くと、結城と、その友達の橋上、高知が寄って来た。

 

「三丘さん」


「あ、おはよう」


「怪我したって聞いたけど、大丈夫なの?」


「うん、たいしたことないの」


 今はもう、三角巾も使っていないし、傷は、もうほとんど痛まない。葉菜の机までぞろぞろとついて来ながら、結城が言った。

 

「寮であったこととか、河合さんがしたこととか、話は聞いたよ。


 河合さんと、その取り巻きたちは、今は自宅待機させられているの。今後、処分が決まるらしい。


 三丘さんへの疑いも、すっかり晴れたよ」

 

 橋上が言った。

 

「私たち、ずっと何も出来なくてごめんね」


 高知も言う。

 

「三丘さんが物を盗ったなんて誰も思っていなかったけど、河合さんたちが怖くて……」



「ううん、もういいよ」


 葉菜は微笑む。みんなの気持ちもわからなくはない。結城は何度か忠告してくれたけれど、あれが精一杯だったのだろう。

 

 黙っていることだって出来たのに、河合たちの目を盗んで話しかけてくれたのだから、今ならば、素直にありがたいと思える。

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