22,止まらない涙と「ホームシック」
「知り合ったばかりだって、わかるものはわかります。葉菜ちゃんは、陰でこそこそと悪いことをするような、そんな子じゃありません!」
瑠衣も加勢する。
「同室の私たちも同じ意見です。葉菜ちゃんは素直で控え目で、とてもいい子ですよ。
部屋で物がなくなったことだって一度もないし」
真鍋が冷たい声で言う。
「でもそれは、あなたたちが三丘さんに対して好意的だからでしょう? 普通、優しくしてくれる人を困らせるようなことはしないけど、相手が違えば、態度も変わるかもしれない。
まして、クラスに馴染めずにいるならなおさらだわ」
「そんなこと!」
今度は真鍋は、見海に目を向ける。
「見海はどう思う?」
真鍋と同い年同士の彼女は、くだけた口調で言う。
「私も瑠衣ちゃんや郁美ちゃんと同意見ね。なぜなら葉菜ちゃんは、こっそり人の物を盗んで隠すとか、そんな小細工ができるような器用な子じゃないと思うから」
「そう」
しばし考えるようにしてから、真鍋は言った。
「だいたいのことはわかったわ。三丘さんは事実無根だと言うし、見海たちは、三丘さんを信じていると。
でも、根拠が薄いわ。つまり、三丘さんが陥れられたと思っているのも、見海たちが同意見なのも、心証だけで、証拠がない」
瑠衣が、憮然として言った。
「そんな、証拠証拠って、刑事の取り調べじゃあるまいし」
だが、真鍋は動じない。
「疑いを晴らしたいなら、証拠が必要よ」
「そんのあるわけない!」
憤慨する瑠衣に、真鍋が言い放った。
「だったら私たちは、三丘さんが人の物を盗むかもしれない人だと認識するしかないのよ。
意地悪で言っているわけじゃないの。それが客観的な判断というものよ」
こんなこと、もう嫌だ。葉菜の両目から、こらえきれなくなった涙があふれ出る。
顔を覆って泣いていると、郁美が、そっと肩を抱いてくれた。
部屋に戻っても、葉菜の涙は止まらない。葉菜を庇ってくれた見海たちに申し訳ないのと同時に、昨日のことが学校中に知れわたっていて、多くの人に泥棒だと思われていることが悲しくてならない。
どうしてこんなことになってしまったのか。いったい自分が何をしたというのだ。
真鍋が言っていたように、転入してまだ半月も経っていないというのに、こちらが知らない人にまで白い目で見られることになるなんて!
瑠衣が言った。
「真鍋さん、ひどいよ。こうなったら、なんとか私たちの手で、葉菜ちゃんの濡れ衣を晴らそうよ」
一緒に部屋について来た郁美が言う。
「結城さんに寮に来てもらって、みんなの前で話してもらうっていうのはどうかなあ」
見海が聞く。
「葉菜ちゃんに忠告したこと?」
「それもだし、河合さんが、陰でクラスを牛耳っているっていうことも」
「話してくれるかなあ。それに、たとえ話してくれたとしても、それが証拠にはならないでしょう?」
「そうか……」
結局、なんの結論も出ないまま、夕食の時間になった。
みんなでカウンターに並ぶ。葉菜の番が来ると、榎戸が、泣き腫らした顔を見て、驚いたように言った。
「三丘さん、どうしたの?」
「あ……」
何も言えずに戸惑っていると、瑠衣が横から口を出した。
「ホームシックみたいです」
榎戸は、同情するように、うんうんとうなずきながらつぶやいた。
「そうなの。ちょっと環境に慣れて来て、ちょうどおうちが恋しくなる頃だものね」
郁美が言った。
「それで私たち、部屋でずっと慰めていたんです」
今日も、淳奈はまだ帰って来ない。
翌朝、学校に向かいながら、郁美が言った。
「やっぱり私、葉菜ちゃんと一緒にお昼を食べるよ」
「えっ、駄目だよ」
「まあちゃんたちはともかく、二人で食べればいいじゃない」
「でも……」
いくら何もしていないとはいえ、郁美に迷惑がかかるのは困る。
「一緒に食べるのをやめたら、まるで私まで葉菜ちゃんが泥棒をしたと認めているみたいじゃない。そんなの絶対に嫌!」
「郁美ちゃん……」




