21,張り詰めた空気と真鍋の言葉
「わかったよ」
そう言って、葉菜は立ち上がった。
「私、これからは一人で食べるから」
そして、昼食のトレイを持ち上げる。
「何言ってるの。そんなの駄目だよ!」
郁美の言葉に、葉菜は首を横に振る。
「私のせいで、みんなまでひどい目に遭ったら嫌だもん。郁美ちゃんも、学校では私と離れていたほうがいいよ。
大丈夫、一人には慣れているから」
「葉菜ちゃん待ってよ!」
だが、葉菜は郁美にかまわず、トレイを持って別のテーブルに移った。
まったく食べる気になれない料理を見つめながら、葉菜は涙ぐむ。ああ、なんでこんなことに……。
だが、試練はまだ終わらなかった。
放課後、郁美とともに寮に戻ると、玄関を入ったところで、見海と瑠衣が待ち構えていた。
「葉菜ちゃん。郁美ちゃんも、ちょっといい?」
「はい……」
顔を見合わせた二人に、見海が言う。
「あのね、ほかの部屋の人たちが、昨日の葉菜ちゃんのことで、説明してほしいって言っているの」
「えっ……」
絶句する葉菜の横で、郁美が言った。
「どういうことですか?」
今度は瑠衣が話す。
「昨日のこと、学校中に知れわたっているみたいで、みんな、どういうことか知りたいって。だいたいのことは私と見海さんで話したんだけどね」
「どうしても、本人の口から聞きたいって言って、みんな談話室に集まっているの。淳奈はまだ帰っていないけど」
「食事のときじゃ、榎戸さんたちがいるからまずいでしょう? それなら食事の前に談話室でっていうことになって」
「わかりました」
そう答えるしかなかった。
葉菜が直接話をしない限り、納得してもらえないのだろう。もっとも、説明したからといって、納得してもらえるかどうかはわからないが。
郁美が、拳を握りしめて言う。
「大丈夫。私たちが援護射撃するから」
見海たちもうなずいている。葉菜は意を決して、彼女たちとともに談話室に向かった。
談話室に一歩踏み込むなり、いくつかのテーブルに固まって座っている寮生たちが葉菜を見る。室内の空気は、ピンと張り詰めている。
なんとか動揺を抑えつつ、見海たちとともに空いたテーブルに腰かける。彼女たちは、あくまで葉菜の味方をしてくれるつもりでいるようで、そのことが、ありがたく心強い。
葉菜たちが落ち着くのを待って、寮のリーダー格の三年生、真鍋が言った。
「今日、学校では三丘さんの話でもちきりだったわ。でも、それは噂話でしかないから、本人の口から真実を聞きたいと思って。
話を聞いて、私たちもショックを受けているし、同じ寮に住む者として知る権利があると思うの」
ごくりと唾を飲み込んでから、葉菜は立ち上がる。膝が震えているが、かまわず口を開く。
「わかりました」
葉菜は、順を追ってことのあらましを話した。転校初日に国語の教科書がなくなったこと、何度か結城に忠告されたことから、葉菜のロッカーで失せ物が発見されたところまでを。
ところどころで言葉に詰まったり、感情が高ぶったりしたものの、なんとか話し終えると、いつの間にか全身が汗ばんでいた。
真鍋が、真っ直ぐに葉菜を見て言う。
「それについて、あなたは事実無根だと言うのね?」
「はい」
「つまり、その結城さんという人の言葉から、河合さんという人があなたを陥れるために仕組んだことだと思っていると」
「はい。私は絶対にやっていません」
真鍋は、冷静な口調で話す。
「でも、クラスに馴染めない腹いせにやったんじゃないかって言われたのよね?」
葉菜は、思わず声を荒げた。
「私、腹いせなんてしません!」
すると、隣に腰かけていた郁美が言った。
「葉菜ちゃんは、そんなことをする子じゃありません。いつも一緒にいてわかっています」
テーブルの向かい側で、見海と瑠衣もうなずいている。
だが、真鍋は言った。
「でも、知り合って、まだ半月にもならないのよ。それで本当に三丘さんのことがわかっていると言える?」




