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60 極悪非道エルフの後始末

「お嬢様、何事ですか?」

「何かあったの?お嬢様」


仄かに香水の香りを漂わせながら現れたアルタード夫妻はそう言って首を傾げる。


「お前らの目は節穴か?魔力が間欠泉みたいになってるのが見えないのか?」


自分の後ろを指差してルナリアは呆れたように溜め息を吐いた。

しかしアリスは若干動揺しながら困ったように笑い、ルナリアから視線を逸らす。


「えっと、お嬢様。魔界ではあれぐらい普通にあるけど…………?」


三人の間に気まずい静寂が訪れた。

後ろを指差していた左腕をばつが悪そうにポケットの中にいれると、ルナリアは脈絡もなくラグザールを蹴り飛ばし、アリスに笑いかける。


「あー、そうだったな。悪い、常識がズレてた。取り敢えず、アリスはあの魔力の行き先を調べてくれ」


「わ、分かったよ。お嬢様」


苦笑いを浮かべながら翼を広げると、アリスは光の柱に沿って上へ上へと上昇していった。

アリスを見送ったルナリアは倒れているラグザールに歩み寄ると、彼の胸ぐらを掴み上げて一言。


「ラグザールは地下街モルガル異扉ゲートを開いてくれ」


「それだけ殴っておいてよく頼めましたね?」


最高の笑顔で聞き返すラグザール。

彼の問いにルナリアもまた拳を握り締め、フフンと楽し気に笑う。


「殴られたことを忘れたいか?物理的に」


「結構です。どうぞお帰り下さい」


指をパチンッと鳴らして異扉ゲートを開くと、ラグザールは転移魔法で魔界へと戻っていった。


「チッ、逃げたか。まぁいい、もう少ししたら帰るか」


そう言って溜め息を吐くと、ルナリアはキャンプファイアの様に光を放つ魔力の柱に視線を戻す。

勢いを衰えさせる様子もなく魔力を吹き上げ続ける魔法核に心底呆れながら、ルナリアは師の夜伽に付き合わされた時の事を思いだしていた。


「そういや、師のアレもこんな感じで吹き上げてたな…………」


調子に乗ってやり過ぎたせいで師が死にかけたのは良い思い出だ。

低俗な事を考える時ほど時間が早く流れるのは何故だろう?と疑問を抱きながら、ルナリアは光の柱を眺め続けるのだった。



$$$



青かった空が赤く染まる頃、ようやく光の柱は姿を消した。

盛大なキャンプファイアの後に残されたのは頭蓋骨とそれに突き刺さっている剣だけだ。

ふあーっと大きく欠伸をすると、ルナリアは剣を引き抜いて頭蓋骨を踏み割る。

死者に対するせめてもの冒涜というわけだ。


「ったく、もっと苦しめてやりたかったのにな?」


一片の魔力も残されていない骨の破片を拾い上げ、別々の方向へ投げ捨てると、ルナリアは剣を鞘に戻し、軍神の剣をナイフに変えてベルトに戻した。


そのまま何も言わず、ルナリアは異扉ゲートへと歩いていく。

その背中に哀愁は微塵も存在せず、夕飯は何だろう?と珍しく呑気な事を考えながら、ルナリアは魔女の安息所へと戻っていった。



$$$



並べられた最高級の机とオーダーメイドの椅子。

高級そうな木で作られたカウンター。

それらを暖かい光で照らし上げるランプ。

視界一杯に広がる懐かしい光景にルナリアは思わず脱力した。


「あー疲れた。しばらくデカイ仕事は絶対しない!」


「ソノ声、ルナリアカ?」


帰った直後に出迎えたのは目を潰されて顔に黒い空洞を作っているナイだった。

唖然としてルナリアが立ち尽くしていると、ナイはカラカラと明るく笑って頭を掻く。


「カイント口論シテタラ、イキナリ“ナイフ”デ刺サレタンダ。オ陰デコノ様ダ」


「マジか…………治してやるから少し待ってろ。【神位封印セラル】」


詠唱と同時にルナリアの魔力は元の赤色に戻る。

そのまま魔力を集中させると、ルナリアはナイの顔に手をかざし、魔法の準備をした。


「この有り様だと…………【医神帰来レピオス・オーライル】」


途端に赤い光がルナリアから流れ出し、ナイの顔を覆う。

数秒で赤い光は何処かへ消え去り、ナイの顔には以前と同じように大きい一つ目が着いていた。


「どうだ?見えるか?」


「以前ヨリモ良ク見エルヨ!」


驚いたように何度も瞬きしながら、ナイは嬉しそうに笑う。


「そりゃ良かった。で、何でカインに刺されたんだ?」


そう言って不安定な魔力を落ち着かせると、ルナリアは近くの椅子に座って足を組み、不遜に笑った。


「大シタ事ジャナイ。拷問ノ仕方デ意見ガ合ワナカッタダケダ」


悪びれる様子も無いルナリアに、やれやれと言うように首を振りながら、ナイはそう答えて彼女の向かい側の席に座る。


「拷問?誰のだ?」


思わず身を乗り出して聞き返すルナリア。

その目はキラキラと幼子のように輝き、いかに彼女が拷問好きかが窺える。


「エ、イヤ、ソノ…………」


凄まじ食い付きぶりを見せているルナリアに、若干戦おののきながら、ナイは言葉を濁した。

それが不満だったのかルナリアはベルトからナイフを抜き取ると口元を歪める。


「何だ、歯切れが悪いな?ならこうしよう、言わなきゃ目を潰す」


ナイの眼前にナイフを突き付けると、ルナリアは彼に対して楽しそうに告げた。


「コノ師アリテ、カノ弟子アリ。正ニ、オ前達ノ事ジャナイカ」


視界に映るナイフを気にする素振りを見せず、ナイは余裕綽々といったように肩を竦める。


「余計なお喋りはいらん。さっさと言え」


詰まらないと言いたげに表情を消すと、ルナリアは間髪入れずに冷たい声で威し付ける。

そんなルナリアに気圧されたのか、ナイは大きな目をしきりに動かし、今更ながら打開策を練る。

だが、そんなものが存在しないことにすぐに思い至り、憂鬱そうに目を伏せると、彼はパンよりは重い口を開いた。


「…………フェルディーア、リンオルティ、ノ二人ダ」


予想外の答えにルナリアは思わずナイフを取り落とし、呆然と目を見張る。


「…………嘘だろ?」


予想を遥かに越えた回答にルナリアは、無意識の内に眉をピクピクと動かした。

カランと音を立てて机に落ちたナイフはクルクルと回って、その刃先をルナリアに向ける。


「悪イナ、ルナリア。本当ノ事ダ、205号室ニ行ッテミロ」


そう言うナイの顔は純血の悪魔よりも邪悪な笑みを浮かべていた。

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