7.閑話-隣国に向かう馬車の中- --好きな童話--
今回はハロルド視点から始まります。
「さすがに暇ね--- 」
エレナの呟きを流したハロルドは、錯乱状態だった。
それはエレナの、こんな話から始まりを迎えた。
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「昨日ね、黒ちゃんへのお礼にと、ハンカチに刺繍をしてたのよ、そしたら針で指をさしちゃってね。いばら姫を思い出したの」
いつものように、エレナから説明を受ける。
----- なんだ、いつもよりも物語としてはまともじゃないか。
王子が百年目ピッタリに城を訪れたのは、神業としか思えないが---- まあ物語だからな。
いつになくまともな物語に、少しだけ物足りなさを感じながらも、少し安堵した気持ちになる。
------ なんだ、ちゃんとした物語も知ってたんだな。
「でもね、王子のお母さん、人を食べちゃうお母さんだったの。それで二人の子供と姫を、王子に内緒で食べようとして---- まあ最後は、自ら大桶に入って死んじゃうんだけど。なんか裏切られた感あるのよね。原作は後で知ったから」
--------- なんでそうなる。
まず言いたい、なぜ王子は知らないだ。そもそも大桶でどうやったら死ねるんだ? 誰か教えてくれ!
やっぱり、気に食わない物語だったな。もう考えるのはやめよう---- なんだかんだ疲れるし。
「ねえハロルド、ハロルドは今まで話した物語の中で、どれが一番好き?」
その一言が、ハロルドを錯乱状態にさせた。
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あーあ、考え込んじゃったわね。
ハロルドが頭を抱えてるの、初めて見たかもしれないわね。
----- これはいつもより長くなるわね、きっと。
「さすがに暇ね--- 」
窓から見える風景を、目を細めながら見つめた。
バレルシア王国へは、十二日間も馬車に乗って移動しなくては行けない。
---- 辛いわね--- 耐えられるかしら?
こういう時、前世の文明が恋しくなるわね---- そう思い、直ぐに馬車の改造に手をつけた。
有難いことにゴムがあるので、車輪の外枠に模った厚手のゴムを、木の車輪につけて乗り心地を試すと、クッション性が高まり快適さが増した。
------ ゴムって凄いわね、これだけで全然違うわ。
道が悪くてもこれなら安心ね、銀の斧を選ぶと金の斧になるってこういう事ね!
それから、馬車の中で寝転べるよう、入口から入った奥側をフラットシートに変え、お尻が痛くならないよう、クッションをこれでもかと敷き詰めた。
ハロルドは完成した馬車を見て、早速売り込む! と商会に走って行ったわね。あんな生き生きした顔、久しぶりに見たわ。
------ 黒ちゃんは、今どこらへんかしら?
黒ちゃんはお兄様に早く会いた過ぎて、夏休み前の授業が終わると直ぐに旅立ったのよね。
人の事は言えないけど、ブラコンって凄いわね。行動力が違いすぎるわ------
バレルシア王国って、どんなとこかしら? 楽しみだわ、この世界に来て、初めての旅行だもの。
こういう時、観光ブックって便利よね。見ればある程度分かるし、クーポンなんて凄く助かるものね!
--- まぁ、いつも使うの忘れちゃうんだけど。持っていっても、結局ホテルに置いたままなのよね。
紙が出来たら、黒ちゃんにお願いしましょ。そしたら旅行に行けなくてもどんな所か分かるし、行った気になるものね!
「---- エレナ?」
考え終わったのかしら? やっぱり長かったわね、日が暮れそうだわ。
「なあに? 」
なんか苦しそうね。好きな物語がなかったのかしら?
まあ、この世界では考えられないものね。
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「--------- 親指、姫かな。」
--------- えぇ! 小さい時に話した話しじゃない!
---- 以外と可愛いかったのね、ハロルドは。
こうしてエレナとハロルドは、馬車に揺られながらバレルシア王国へと進んでいった。
読んで頂き有り難う御座います!
今回は眠り姫と親指姫。
いばら姫は好きな話しです、間違いなく好きですが原作をしった時には、やっぱりグリム童話だなと思いましたね。
でも実は、グリム童話ではなく、原作者はいないらしいです。
フランスの民間伝承、人々が語り継いだものをシャルル・ペローが童話集として出版したのが最初だと言われてるみたいで、加筆し物語にしたのがグリム兄弟みたいですよ。