アリステアとマイヤー殿下
「お姉様お久しぶりね! バレルシア王国での生活はどう?」
ハンナが生まれてから少ししてお姉様が帰城された。
隣国の王妃となったお姉様がまさか会いに来てくれるとは思わず、喜びつつも少しだけ不安になる。
------ お姉様が帰って来るなんて思わなかったわ。しかも滞在予定が一ヵ月もあるだなんて、大丈夫なのかしら?
王妃が国を一ヵ月も開けるだなんて聞いた事がない。父様と母様は素直に喜んでいたけど私は心配だわ。何かあったのでは?
ハロルドに聞いても分かってなかったし、聞いてみようかしら?
「エレナ、ハンナはエレナの小さい頃にそっくりね。可愛いわ」
「皆そう言って下さるわ。お姉様、会いにきてくれて有難う」
「いいのよ、私にとっても丁度良かったの---- エレナ、ハロルドとは仲良くしてる?」
「えっ! ま、まあ前とあまり変わらないかしら?」
「そう、それならいいのよ」
どういう事? マイヤー王と上手くいってないの? でもマイヤー殿下ってお姉様に甘々だったわよね------ これはやっぱり聞くしかないわ。
「お姉様大丈夫? 何かあったのですか?」
「------ エレナ。私どうしたらいいか分からないの」
「私でいいなら聞きますわよ。ソファにまずは座りましょう」
お姉様が泣くだなんて---- ただごとじゃないわね。
姑問題かしら? それとも子供が出来なくて悩んでるの? もうお姉様が結婚されて約三年。何か言われたのかしら?
「それで、一体どうされたのですか?」
「私---- いえやっぱり良いわ。エレナに言う事じゃないわよね。ごめんなさい。また明日会いにくるわ」
------ ええ! すっごく気になるじゃない。
どうしましょう。こんな時人の心が聞こえると便利よね。小狐が現れてききみみ頭巾をくれないかしら----
昔の記憶を掘り起こす。
そうそう、小狐の為に木の実を取ってあげたお爺さんがお母さん狐から汚い頭巾を貰うのよね。
それを被って薪割りをしていると植物や動物の声が聞こえてきて、長者の娘さんが病気だと知って様子を見にいくのよ。家の近くの楠が何故病気になっているか話しているのを聞いて娘さんを助けるんだったかしら?
私がききみみ頭巾を持っていれば、鳥や木からお姉様の事教えて貰えるのに----
「エレナ、どうかしたのか?」
「ハロルド、お姉様の様子がおかしいのよ。何か知らない?」
「いや、良く分からないな---- どんな感じなんだ?」
先程のやり取りをハロルドへ話す。ハロルドは私の話を聞いていつものように考え始めた。
「とりあえず、マイヤー王に連絡してみるか?」
「んー、あんまり大事にはしたくないのよね。母様に聞いてみるわ」
「そうだな、それが良いだろう。エレナはとりあえず横になってろ。俺が聞いてきてやる」
「分かったわ、ハロルド宜しくね? ああ、私にききみみ頭巾があれば----」
「ききみみ頭巾? なんだそれは?」
「ききみみ頭巾っていうのはね----」
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ハア。植物や動物の声が聞こえるなんてあり得ない。そもそもズキンって一体----
いや、今は考えてはいけないな。それにしてもアリステア様はどうされたんだろう。マイヤー王と上手くいっているかと思っていたが----
「お義母様、今宜しいですか?」
「あらハロルド。どうかしましたか?」
「アリステア様の事でエレナが心配してまして----」
「ああ、エレナは知らないのね」
「何かあったんですか?」
「確かではないけど、どうやらレオン殿下にお子が出来たみたいでね、先を越されたみたいなの」
------ 黒ちゃんに子供?!! そもそも結婚してたっけ? エレナと手紙のやり取りをしてる筈だけどそんな話があったか?
「あの---- く、レオン殿下は結婚されてましたでしょうか?」
「それがね、侍女の子と恋仲になったようなのよ。それで大変みたいよ。アリステアはまだお子がいないし辛いんじゃないかしら? そっとしといてあげて欲しいの」
「分かりました。エレナにも伝えておきます」
「お願いね、あの子の事ちゃんと監視して頂戴。何をしでかすか分かりませんからね」
「分かりました---- 失礼します」
ハア。侍女に手を出すなんてある意味凄いな黒ちゃんは---- エレナに言ったら何て言うだろうか。ちょっと嫌だな。絶対騒ぐに決まってる。
「エレナ、話を聞いてきたぞ」
「それで? 何があったの?」
アマリーリア陛下から聞いた話をエレナに伝える。エレナは最初普通に聞いていたが、話終えてから少し経つと急に表情を変えてベッドから起き上がった。
「ええ?! 侍女に手を出したの?! 黒ちゃんは一体何をしてるのかしら?!」
「まあ、落ち着いて。体を休めないと」
「こうしてはいられないわ。黒ちゃんに手紙でも書いてやらないと気が済まないわよ」
「いやいや、何でそこまで----」
「だって黒ちゃん、少し前まで貴族の子と良い仲だって惚気まくった手紙を送ってきてたのよ! 結婚式に呼んでやるとまで書いてたのに!」
黒ちゃん---- 本当何やってるんだ----
「とりあえずお姉様の所に行くわ! ハロルドついてきて頂戴」
「いや、アマリーリア陛」
「関係ないわ! 私は行くわよ」
やっぱり言わなきゃ良かった。エレナが大人しくしてる訳ないもんな----
「お姉様! エレナですわ、入室しても?」
「返事がないな。休まれてるんじゃないか?」
「こんな早くから? きっと悲しんでるのよ。お姉様! 中へ入りますわね」
エレナが扉を開けて中へ入ったと思ったら直ぐに足を止めた。
どうしたんだと、エレナの後ろから中を覗くとマイヤー王とアリステア様が抱き合っている。一先ずエレナを後ろに下がらせ扉を静かに閉めた。
「ハロルド---- 幻を見たのかしら?」
「い、いや。俺も見えたから本物だろう」
「何故マイヤー王がこんな所に? 国は大丈夫なのかしら?」
「俺には分からない。とりあえずどうする?」
ヒソヒソとエレナと顔を寄せて小声で話していたら急に扉が開いてマイヤー王が立っている。
「心配させたようだね、二人共変わらないようだ。中に入ってくれ」
マイヤー王に促され二人でソファへ腰を下ろすと、アリステア様が恥ずかしそうに頬へ手を添えて話し始めた。
「ごめんなさい。心配させたわね----」
「お、お姉様、何故マイヤー王がいるの?」
「やあ、いきなり来て申し訳なかったね。アリステアがいきなり城を出て行ったから追いかけてきたんだよ」
「マイヤーごめんなさい。私------」
「良いんだよ、私も悪かったんだから」
ニ人の甘い空気が流れ出し、手を握り合って体を寄せ合う姿は以前と変わらない。チラリとエルナを見ればなんだか居た堪れない表情でじっとしていた。
俺はニ人の空気に胸焼けしそうなまま無言でいると、ついに耐えられなくなったのかエレナが口を開く。
「一体何があったのか聞いても良いかしら?」
「エレナ、ごめんなさい。恥ずかしいのだけど----」
「アリステア、私から話そう。私がねアリステアを独占したいが為に子供を作らなかったんだよ。二人でいる時間を大事にしたくてね」
「え? 子供が出来ないんじゃなくて、作らなかったの?」
「え、ええ。後継もあるし欲しかったんだけど、マイヤーが二人でいたいと言うのよ。そしたらレオンにお子が出来たもんだから、何だか辛くなってしまってマイヤーには何も言わずに城から出てきたの」
「夫婦喧嘩だったんですのね----」
「喧嘩というものでもないのよ。マイヤーの愛は嬉しいんだけど、エレナにも赤ちゃんが出来て何だか羨ましくて----」
「アリステア、直ぐに子供を作ろう。私達の子供ならきっと可愛いよ。何人ぐらい作ろうか」
「マイヤーったら、エレナ達の前でやめて頂戴」
二人のいちゃつきが始まり甘い空気が甘すぎて辛くなってきた。
「エレナ、もう部屋に帰らないか?」
「あ--- そうね、ここには居られないわ」
マイヤー王とアリステア様への挨拶もそこそこにエレナを連れて部屋へと戻る。
「ハロルド---- 私手紙を書かなくて良かったわ」
「そ、そうだな。送っていたら大変だった」
「あの甘い空気には耐えられないわ」
確かにあれは誰でも辛いだろう---- とりあえず仲直り? して良かった。それにしても二人でいたいだなんてマイヤー王も大概だな。もう三年も経つのに----
まあマイヤー王にとっての初恋だしな。歳をとってからの初恋って怖い----
「そういえば黒ちゃんには手紙を書くのか?」
「あ、ああ。忘れていたしもういいわ。ハロルドどうしよう、何だかモヤモヤして落ち着かないのよ」
まあエレナの言う事は分かる。俺も気持ちが晴れないしな----
ベッドに座るエレナをギュッと抱きしめる。産後であるエレナを寝かしつけてから溜息が漏れた。
四ヶ月後、アリステア様から懐妊したと連絡が届いてエレナは満面な笑顔で喜んでいたが、俺はマイヤー王に底知れぬ怖さを感じてしまう。
その日の夜は中々眠れず、エレナの寝顔を眺めながら一人でお酒を飲んだ。
読んで頂き有難う御座います!
ききみみ頭巾は昔話です。ちょっとマイナーなお話ですが、最後に長者から娘を助けてくれた褒美をもらうんです。昔話って心優しいお爺さんは何かしら貰う話が多いですよね。無欲の勝利って言葉は本当かもしれませんね。




