28.ごめんね。 --幸せ--
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日差しが暖かく、母様のお庭には沢山のテーブルにお菓子が並び、色鮮やかな花々が一緒に飾られている。
誕生日パーティーのお詫びとして開かれたお茶会は、何事もなく穏やかに時間が流れて、逆にソワソワしてしまう。
予想していたよりも私への反発は少なく、どちらかというと温かい言葉を御婦人方から頂き、事前の根回しが効いているように感じた。
円卓のメンバーには感謝しかない。私の知らない所で、こんなにも動いてくれていたのだから------ ああ、皆に早く会いたい。
居た堪れない気持ちを隠し、優雅にお茶を頂く。
母様の隣に座る私は、静かにしてなさいと言いつけられてしまったのもあり、大人しく御婦人方の話に耳を傾けた。
------ 後、どれくらいで終わるのかしら。
御婦人方は盛り上がっているのか、母様を中心に話が進み一向に終わる気配がない。他のテーブルからも、チラホラと小さな笑い声が聞こえ楽しそうな雰囲気だ。
主役である筈のお姉様はどこにいるかというと、先程マイヤー殿下が迎えに来て、少し離れた場所に二人で座っている。
最初の帰国予定を変更し、何故かマイヤー殿下の代わりに黒ちゃんがバレルシア王国へ帰っていった。
----- まあ、王子が二人とも国にいないのは問題だし、黒ちゃんが帰るのは致し方ないとは思うけど---- マイヤー殿下はいつまでいるつもりかしら? まあいいわ。
それにしても、最後の黒ちゃんの顔はなんとも言えなかったわね。
あんな泣きべそをかくなんて、この世界で初めて見たわ。まあ、私も人の事は言えないけど。
最近は泣かないけど、元気も出ないのよね---- 私らしくないわ。このままだと、笑い方を忘れそう----
チラリとお姉様を見れば、表情は明るく何だか嬉しそうにマイヤー殿下と話している。恋人の様に会話を楽しむ二人を見て、呆れて息を吐いた。
------ それにしてもマイヤー殿下って激甘だったのね、見ているこっちが恥ずかしくなるわ。
二人を見かけるたびに、穏やかな甘い空気が漂っていてもう堪らない。一度、二人の間でお茶を飲んだが、空気に耐えきれず直ぐにその場から立ち去った。
お姉様は、マイヤー殿下の事どう思ってるんだろう?
あの様子だと気は許してそうだけど、マイヤー殿下が甘過ぎて近くにいけないわね。
それにしても穏やかな人が甘い言葉を吐くと、あんなに甘くなるとは思わなかったわ。
目は口ほどに物を言うと聞くけど、お姉様を見るうっとりとした熱い視線----- 本当凄すぎる。
何だか見ているのも辛くなってきて、お茶に視線を移した。
------ 本当、憂鬱だわ。
ハロルドから忙しくなると言われて五日。
いつも一緒にいた筈のハロルドと会えなくなって、寂しさが募る。
たった五日なのに、とても長い五日だった。
ハロルドが何故忙しいのか、会えない理由が知りたくて手紙を送ったけど、返事はまだ返ってきてない。
------ このまま他国に行くのは嫌だわ。
父様からは目星をつけたと言われてしまったし、時間の問題ね。
母様が庇ってくれてるけど、いつまでもつか分からないし----- 逃げたい気分だわ。
ふと、記憶を思い出す。
千色皮のお姫様は、父親との結婚が嫌で逃げるのよね? 森の木の洞の中で疲れて寝ていたら、違う国の王様がお姫様を見つけて城に連れて帰るのよ。
千色皮のマントをきて顔に煤をつけているから、城の台所で働く事になるんだけど、夜会にこっそり参加して王様に惚れられるのよね。
灰被り姫と近いところがあるわね、最後は幸せになるし。
私も逃げたら幸せになれるかしら?
一人でひっそりと暮らすのも、幸せかもしれないわ。
ハロルドと入れれば一番だけど、そんな期待は出来ないわよね。それに無理矢理連れて行ったとしても、誰かを想うハロルドを見続ける自信がない。
ハロルドは、今どこにいるんだろう。
あぁ、また憂鬱になってきたわ----
「エレナ、ハロルドが来たわよ」
母様の言葉に、胸が大きな音を立てた。嬉しくなる気持ちが抑えきれず、キョロキョロとお庭を見渡せばハロルドの姿が目に映りこんだ。
久しぶりに見るハロルドは、黒のタキシードを格好良く着こなし、綺麗な姿勢で立っている。背が伸びて逞しくなってきた体は、もう大人の男性にしか見えない。
------ ハロルドって、こんなに素敵だったのね。
ハロルドから目を離せずにいると、ハロルドの後ろから可愛らしく品のある女性が現れ、近くにいる御婦人方へと一緒に挨拶をし始めた。
一通り挨拶が終わったように見えても、二人の距離は変わらないまま。会話をしているようだが、気になってしまい目を離せずにいると、ハロルドの表情に変化が起きた。
柔らかく微笑みを浮かべたハロルドの表情を見て、驚きながらも段々と気持ちが暗くなっていく。
------ あの人がハロルドの好きな人なのね。
彼女は誰だったかしら------ 思い出したいけど頭が働かない。
好きな人がいると知っているのと、相手を直接見るのとじゃ全然違うのね。
想像の痛みって、軽かったのね----- 痛みが強すぎて涙も出ない------
暗い何かが心に被さってくる、心にあった小さな希望も消え去ってしまった。
ここに、いたくないわ------ 二人の姿を見たくないもの。
自分が今までいた場所に、違う女性がいるのがこれ程辛いなんて思ってなかったわ。
そこは私の場所よ! と叫びたくなるのを、唇を噛み締めてどうにか耐える。
湧き上がる衝動は止められず、ドロッとした黒い感情が生まれ呼吸もままならない。
急にハロルドの青紫の瞳と視線がぶつかり、喜びと怖さが一気に混ざり合う。
ハロルドが私の方へ歩きだすと同時に、私は席から立ち上がり駆け出す様にハロルドから逃げた。
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「エレナ!」
ドレス姿である筈なのに、エレナの足は想像以上に早く中々追いつかない。
幾度と呼び掛けてもエレナは振り向く事はなく、唯ひたすら俺から逃げている。
-------- くそっ、一体何なんだ!
庭を抜け、城の裏側にある静かな場所まで追いかけると、疲れたのか足が遅くなったエレナに追いつき、ようやく捕まえた。
走ったせいで息が上がり、俺の苛立ちも強くなっていく。エレナは立っているのが辛いのか、俺に手を掴まれたままその場に座り込んだ。
「エレナ。一体何なんだ? 何で俺から逃げるんだ!」
「--------------」
最近のエレナは言葉が少なく、何を考えているのか全然分からない。五日振りに会えた筈なのに、戻るわけでもなく変わらない態度が腹立だしい。
「俺が一体何したんだ? 話しかけても返事はしないし、顔も見てこないだろ。何でそんな態度を取る、俺が何したんだ!」
「------------」
俺は堪らなくなり、掴んでいたエレナの手を乱暴に離した。
その態度は何だ、俺が嫌いなのか?!
---- もういい、今のエレナとは一緒にいたくない。
俯くままのエレナから離れるよう、足を動かす。
足音が強くなるのもお構いなしに、元来た道を歩いていると、エレナが急に声を張り上げた。
「行かないでよー! 私の側にいてよぉ!」
泣き叫ぶような声に驚き、急いで振り返ってみれば、エレナは涙を溢したまま真っ赤になった顔を上にあげている。
「やだぁ、行かないでよー。ハロルドちかくにいてぇ」
子供の様に泣きじゃくるエレナの姿に、足が動かない。
------ 俺の事、嫌いじゃないのか?
「な、んでいくの? いつもなら抱き、しめるか手を、つないでくれるじゃない。やだぁ、他、の人のとこ、いかないでぇ」
他の人って誰なのか、全く分からない。
エレナは何が言いたいんだ? 頭が混乱してくる。
そもそも何で泣いてるんだ?
「ハロル、ドはわたし、が他、国にいってもへいきぃなのぉ? そうなんでしょぉぉ?」
俺の頭の中で、何かが音を立ててキレた。
何だ? 俺が平気だと思ってるのか?!
エレナに近づき、上を向きながら泣いてるエレナの顔を両手で掴む。
絶対、俺から顔を背けさせないからな!
「おい! いい加減にしろ!! 俺が平気だと思っているのか? ふざけるな、平気な訳ないだろ!! エレナだけが寂しいとか勝手に言うなよ! エレナが他国に行くなんて、俺だって嫌なんだ。俺がどんな気持ちでいるのか、少しは分かれ! 俺だって---- 辛いし、エレナの側にいたいんだよ。俺だっ-----」
「ハロ--- ルド?」
情けない事に胸が痛くて、涙が溢れる。
息が苦しくて、言いたい事はまだあるのに言葉に出来ない。
「ハロルドも、寂しいの?」
「あぁ、寂しいよ。エレナと離れたら、駄目になるのは俺の方だ。エレナとずっと一緒にいたんだ、何で離れなきゃいけないんだ? 俺はエレナといたいのに-----」
エレナが俺の首に手を回し抱きしめてくる。力が入らない俺は、膝を地面につけてエレナを抱き返した。
溢れる涙は止まらず、喉が痛くなる。エレナの柔らかい体をもう抱きしめられなくなるかと思うと、怖くてエレナを強く抱きしめた。
「ハロルド、ごめん。ごめんね、私ハロルドの事何も考えてなかった。自分の事ばかり---- だから駄目なんだよね、ハロルドの好きな人には勝てないよね」
エレナからゆっくりと体を話し、逃げないようエレナの肩に両手を置いて向き合う。
「ど、どういう意味だ?」
「-------- ハロルド、好きな人いるでしょう? こんな自分勝手な私じゃ、ハロルドに好きになって貰えるわけないよね」
「好きな人? 誰の事を言ってるんだ?」
また妄想か? 全然意味が分からん。むしろさっきの俺の言葉、聞いていたのか?
しかも好きになって貰えない? どう言う事だ?
「え、さっき一緒に可愛らしい人といたじゃない。その人の事好きなんでしょう?」
------------ もう我慢の限界だ。
何で分からないんだ?! 流石に気付けよ!
「俺が好きなのはエレナ------ お前だ!」
テリージア城に、初めてハロルドの声が響き渡った。
お茶会を楽しむ御婦人方は、この時の事を後にこう語る。
王配様は、女王様に熱烈な愛の告白をされていたのよ---- と。
読んで頂き有難う御座います!
今回は千色皮でした。
グリム童話の1つですが、マイナーなお話しかもしれませんが、色んな魔法の道具が出て来て面白いです。シンデレラは靴ですが、千色皮は金の指輪なんですよ。最後は幸せになる物語です。
次で完結話です。
今まで読んで頂き、本当に有難う御座います!
最後も宜しくお願いします!




