25.謝らないわよ! --最後の--
前話の内容、最後だけ4月19日修正しています。
読んで頂いたのに、申し訳ないです。
ブクマをつけて下さり有り難うございます。
ここまで読んでくださってる方全員に感謝を!
今回はエレナ視点のみです!
豪華な応接間の扉を開けると、宰相一家と私の家族が難しい顔をしながら対面する形で座っている。
お姉様の後ろに立つマイヤー殿下だけが、いつもと変わらない穏やかな笑みを浮かべていた。
------ 何だか最後の晩餐を思い出したわ。
キリストの言葉を思い出し、何だか胸がザワザワとする。
最後の晩餐で、キリストは言うのよね。
(あなたがたのうちの一人が、わたしを裏切ろうとしている)
それでキリストは晩餐の翌日、処刑される為に捕らえられた筈だわ。
------ 私もきっと何かあるわよね----
疲れた体に緊張も合わさって、庭師長の肘あたりを強く掴む。
庭師長は私を気遣いながら、私を母様の横へと座らせた。
「エレナ---- まずはアリステアと、ウォルフ、それに宰相夫妻に謝りなさい」
------- お姉様や宰相夫妻へ謝る気持ちはあるけど、あいつにだけは絶対謝りたくない。
でも---- ここで今騒いだら、お姉様とあいつの婚約は破棄出来ないわよね。あぁ憂鬱だわ---- 誤魔化そうかしら----
「先程は、お姉様の誕生日パーティーで騒ぎを起こし失礼致しました。お姉様、宰相夫妻には謝りますわ。配慮が足りず申し訳ありません」
「俺への謝罪はないのか!」
「---- 忘れておりました。大変申し訳ありません」
------ ハア。お姉様の足には気づかないのに、こういうのだけ気付くなんて---- 本当嫌な男だわ。
「宰相夫妻、父親として私も謝罪しよう。申し訳なかった」
「い、いえ頭をお上げ下さい。愚息にも問題があったのでしょう」
「父様! 俺は何も悪くない! アリスとダンスを踊ろうとしていたのに、急に入ってきたマイヤー殿下とあの女が悪いんだ!」
「ウォルフやめなさい! 黙ってなさいと言ったでしょう?」
「ママ! ---- でも俺は悪くないんだ」
あいつは私を睨みつけてくるが、全然怖くない。
それより母様から発せられる怒りのオーラが怖すぎてもう堪らない。チラリと母様の表情を見れば、まるで灰被りの継母のようだ。
------ 何だか、母様の方が悪役に見えるわね----
「ダガリー王、失礼ではありますが、発言しても宜しいですか?」
「マイヤー殿下---- 良いだろう。話してみなさい」
「な、関係ないだろ! マイヤー殿下が何故ここにいるんだ!」
「ウォルフ様、私がお願いしましたの。マイヤー殿下、お話し下さいませ」
------ マイヤー殿下がいるなとは思っていたけど、お姉様が呼んだのね。どうしてなのかしら?
あいつのアリスと呟く声を無視し、マイヤー殿下が話し始めた。
「エレナ殿下を支持する訳ではないですが---- アリステア殿下が足をお辛そうにしていても、ウォルフ卿は気付かないばかりか、ダンスを続けようとされていましたので、私は二人の元へ駆け寄りました。婚約者とは知らず、安易に声をかけた事は謝罪致します。しかし、私がアリステア殿下を連れ出そうとした際、ウォルフ卿は汚い言葉を投げてきました。エレナ殿下はその言葉に憤激し、騒ぎを起こしたのだと思います」
「アリスは何も言わなかったし、気づくわけないだろう! それに俺は汚い言葉なんか言ってない! 本当の事を言ったまでだ!」
「あれを本当というのなら、婚約者失格だな---- 」
------ マイヤー殿下と比べて---- 比べても無駄ね。
それにしても、本当の事? 有り得ないし、許せないわ。
お姉様は大丈夫かしら?
あいつに何も言い返さずただ見てるだけだなんて心配だわ。流石のお姉様も我慢の限界なのかしら?
取り敢えずマイヤー殿下には感謝ね。
話しがこれで良い方向に持っていけるわ。あいつがお姉様に何て言ったか宰相夫妻に言えるし、父様、母様にも聞いて貰える機会。
母様聞いてこないかしらね?
チラチラと母様へ視線を送ると、母様は私の目線に気付いたのか、目蓋を動かしながら私を見返した。
「汚い言葉ですか---- エレナ、マイヤー殿下が言った事は本当ですこと? はっきりと言いなさい?」
---- 流石お母様だわ、あいつがなんて言ったか言ってやるわ。
「はい、母様。お姉様は遠くから見ていても顔色が悪く、額には薄らと汗が張り付いていましたわ。それなのにダンスを続けようとなさるから、二人の元へ駆け寄りましたの。マイヤー殿下が心配してお姉様を連れてく為、手を差し出してくれましたわ。するとウォルフ卿はお姉様に浮気女と言い始め、最後には淫乱とまで口にされましたの----」
感謝しつつチラリと母様を見れば、怒りで体が震えている。
父様も母様が気になって仕方ないのか、横目で何度も確認していた。
------ お母様凄い震えてるわ、さっきの私と同じ気持ちよね。分かるわー、でも堪えるなんて流石は母様ね。
私なんて作戦さえも忘れてキレちゃったから、まだまだだ。後で円卓メンバーにも謝らないといけないわ。
ハロルドはきっと怒ってるわよね----
母様の怒りが頂点に達したのか、凄い顔で口を開いたと思ったら、パン! と何かを打つ音が部屋に響く。
驚きながら音がした方へ視線を向けると、あいつの母親が冷えた表情で立っていた。
「ウォルフ。私はそんな教育はしてきていませんよ。女性に、しかも婚約者に何て酷いこと! しかも相手は王族ですよ!」
あまりの出来事に思考が止まる。
あいつも驚いたのか、打たれたであろう頬に手を添えて母親を見ていた。
「な、ママ---- 俺は本当の事を言ったまでだ。アリスが他の男についてくなんて、浮気じゃないか! ママはそんな事しないだろ?!」
「なっ------」
「クシャナ、一度座ろう。ウォルフ、お前はもう口を開くな」
ハァと溜息を漏らす宰相様は、あいつの母親の肩を抱き寄せて再びソファへと腰を下ろした。
-------- ガイアではない?
「陛下、申し訳ありません。愚息がご迷惑をお掛けしました。アリステア殿下にも私から謝罪致します。申し訳ありませんでした。婚約の件ですが、こちらから取り消させて下さい。愚息では、アリステア殿下の相手に相応しくない。エレナ殿下も言われた通り、このままでは国を乱す事になりましょう。しかしあの場での行為は思慮が足りません。エレナ殿下には何かしらの形で謝罪はして頂きたい」
宰相様の表情は普段と変わりないが、私に向ける目の奥は冷たい。
膝に置いた手を握り締めながら、宰相様からの目線に耐えた。
------ きたわね。キリストはどういう気持ちだったのかしら。
でもいいわ、婚約破棄には持ち込めたし、覚悟していたことよ、市井に行く事になっても大丈夫。でも----
馬鹿ね、今になって家族と離れるのが寂しいと思うなんて。
ううん、後悔はしていないわ!
「宰相様、先程の私の言葉を覚えていますでしょうか? 私、市井へ下るのには抵抗ありませんの。謝罪の形をそういった形でも良いのでしたら、いくらでも謝罪させて頂きますわ。ただ、お姉様との婚約を解消して下さるのは嬉しいのですが、ウォルフ様こそ謝罪なさるべきでは? 責任を取るのならお互い様ではないこと?」
「エレナ!」
父様の激しい形相を見て心内では謝るけど、もう引くにも引けない。あいつだけ何もないだなんて、正直腹立だしい。
------ 謝るくらいなら、王族を捨てるわよ。
「何だか面白くなってきましたなあ、エレナ殿下。一先ずは落ち着いて、アリステア殿下のお気持ちを聞くのが良いのでは?」
庭師長の言葉で、皆お姉様へと視線を向けた。
「そう---- ですわね。お姉様色々とごめんなさい。お姉様の気持ちを無視していたわ」
お姉様は顔を強張らせたまま中々口を開かない。静かな時間は居心地が悪く、胸を打つ音だけが耳に届く。
お姉様は何て言うのかしら------
私なら大喜びする所だけど、お姉様はしないわよね。
何を言うのか、気になって仕方ないわ----
お姉様はマイヤー殿下を見るように、一度後ろを振り向く。二人は目で何かを確認していて、その姿に私は目を見開いた。
------ マイヤー殿下と距離が縮まっている?
お似合いだし嬉しいけど、何か二人で話したのかしら?
「私は、ウォルフ様との婚約破棄を望みますわ。そして宰相様、今回のパーティーでの騒ぎは私が原因ですのよ。エレナの行動は私を思っての事。ですから謝罪や責任は私が取りますわ」
「お姉様---- 私が勝手にやりましたのよ? お姉様は何も悪くないわ」
「いいえ---- エレナもよく聞いて。私は、国の為にとウォルフ様との婚約関係を続けてきました。多少の問題だと、ウォルフ様の行動や言動を見過ごしてきたのです。エレナが、ウォルフ様が王配になれば国を乱すと言った直後、私は何を思ったと思いますか? 私はその言葉よりも、エレナが女王になると言った次の言葉に悔しんだのです。私は---- 国の、民の為にと口にしておきながら、ウォルフ様の事には目を瞑り、唯々女王になりたいと思っていたのだと、先程気付いたのです。エレナは、国民にとって豊かな国であれば、誰が王であるかなど些細な事だと言いました。それは間違いではないのです。ですから、エレナと私、どちらが王になっても構わないのだと思ってしまったのですわ。私はウォルフ様の婚約者ですから責任を取らせて下さいませ。父様---- どうか宜しくお願いします」
お姉様は、深々と父様に頭を下げて涙を溢している。そんなお姉様を慰めるように、母様は被さりながら抱きしめていた。
-------- お姉様に謝らせて、責任を取らせたかった訳じゃない。それに--- あんな言葉言わせる筈じゃなかった------
自分の考えの甘さに苛立ち、視界が歪みだす。
私のせいだわ----
俯きながら体を震わせていると、庭師長は先程から抱く私の肩を強く抱き直した。
「宰相よ。申し訳ないがアリステアがここまで言うのだ。ウォルフにも原因はあろう。エレナも珍しく反省しているし、ここは引いてくれないか?」
「陛下。私の失言からこのような事になり大変申し訳ありません。アリステア殿下、エレナ殿下、愚息が申し訳なかった。発言は取り消しましょう。明日、婚約取り消しの書類をお持ちします」
「なっ! 父様何を勝手な、俺は認めないぞ!」
「お前は女性の泣く姿に何も感じないのか! クシャナ、ウォルフを連れて行け。話にならん」
「分かりましたわ。ウォルフ行きますよ」
「ママ! 絶対に嫌だ!」
「---- ウォルフ! 私の言う事が聞けないのですか!」
「------------」
「陛下、誠に申し訳ありません。私が愚息の代わりに責任を取りましょう」
「いや、宰相よ。ウォルフの事は、宰相がきちんと教育すれば問題ない。娘達には、私が責任を持って話そう。今日は宰相も帰りなさい」
「分かりました----- では、明日書類を持ってお伺いします。アマリーリア陛下、殿下方申し訳なかった」
宰相様が退室し、扉が閉まる音が聞こえればもう涙を止める事が出来ない。ボロボロと涙が流れ息をするのが難しくなったが、お姉様に謝りたくて仕方なかった。
「おねーさまー、ごめんなさいぃ、こ、こんな、い、いわせたかったぁわけじゃないのー」
幼い子の様になりながらも、父様、母様にも謝る。
ギュッと、母様から優しく抱きしめられ、余計に涙が溢れ出た。
「エレナ、大丈夫ですよ。母様がいますからね。ダガリー、エレナを怒らないで下さいな。私も今回の事に協力したのです、エレナを怒るなら、私を怒って下さいませ! アリステア、貴女は我慢しすぎなのですよ! それに、貴女は女王になる為に頑張ってきたのですから、自分を信じなさい!」
「はい------ 母様」
お姉様の嗚咽が耳に届いた頃、泣きすぎた私は母様の温もりの中で意識を飛ばした。
読んで頂き有難う御座います!
最後の晩餐。
裏切りものであるユダは、銀貨30枚でキリストを売り渡す手はずを整えていたんですよね。
レオナルドの絵は、キリストが「12使徒の中の一人が私を裏切る」と皆に伝えた直後の、慌てふためいた場面を切り取っていますね。
有名な絵ですが、キリストの足元は排気口を作られてしまい、石で塞がれたり、戦争で絵を守る為に泥を被せられたり、絵具が壁に合わなくて剥がれたりと、悲運の絵でもあると言われてるようですよ。




