23. 怖気付いてなんていられないわ! --断罪--
初めて感想頂けました!感激です。
有難う御座います。ブクマも有難う御座います。
今回は、エレナ視点の後、アリステア視点になります。
「ウォルフ!」
凛としながらも、冷えた声は会場に響き渡る。
------ 味方か、ガイアなのか---
胸が激しく動いて音が煩い。
冷たく見つめる母親に対し、あいつはしゃがんだまま目を輝かせて口を開き始めた。
「ママ! あいつが婚約破棄しろと言うのです。アリステアは俺の婚約者なのに、何故あいつから言われなくてはいけないのですか? 父様は何処ですか? 早くどうにかして貰わないと----」
ブツブツと、幼い子のように話すあいつの姿を見て、ゾワッと背筋に悪寒が走る。
------ ちょっと、想像以上の姿だわ----
ギュッとハロルドが私の手を握ってきたので、私もハロルドの手を強く握り返した。
「ウォルフ---- 取り敢えず立ちなさい」
あいつの母親が手を差し出すと、あいつは当たり前のように手を掴んで立ち上がる。十六歳とは思えない様子に、喉を鳴らしながらも目が離せない。
------ 凄いわ。こんなに母親の前だと違うのね。
「皆様、このような祝いの場で大変失礼致しました」
あいつの母親が、深く頭を下げて謝罪を口にする。
母親が何故謝っているのか分からないのか、あいつは私の事を睨みつけたまま、一向に頭は下げない。
「あら、謝罪は宜しくてよ? カイザー侯爵夫人。貴女よりも、貴女の息子であるウォルフが謝るべきではなくて?」
母様は、優雅にドレスを捌きながら登場し、私の横で立ち止まると、再び口を開いた。
「私の娘である、エレナもウォルフには謝らなくてはいけませんね。まあ、何方とも謝らないのでもいいのだけど---- それで気が済むかしら?」
「そうですわね。ウォルフ、ここは謝りなさい」
「ママ何で? 悪いのはあいつじゃないか! 俺は謝らないし、婚約破棄も絶対しません! それにアリステアはそんな事望んでない筈です、俺と未来を語り合ったんですから!」
「あぁ、なんて可哀想なウォルフ----」
------ この様子だと、味方にはなって貰うのは無理ね。
このままだとガイア確実ね、責められる心の準備をして置かないと---- 私が始めた事だから、どんな結果でも受け入れるけど、もし城を離れる事になれば少し寂しいわね。
チラリとハロルドを見て、何故か視界が歪み始めた。
------ 今は駄目ね。我慢しないと----
悲しくなってる暇はないわ、ここがきっと最後の踏ん張り時。
為せば成るって、自分で言ったじゃない!
意を決してハロルドの手を離すと、あいつとあいつの母親の前に躍り出る。
「申し訳ありませんが、私からウォルフ卿に言いたい事がありますの。宜しいですか?」
扇子を持つ手に力が入り、小さく扇子から音が立つ。
あいつの母親の冷たい視線に耐えながら、鍛え上げた表情でその場に足を突き刺した。
「な、なんて無礼だ! 謝らずにまだ何か言うのか!」
「無礼は承知ですのよ。でも言いませんと、私の気持ちが収まりませんの」
「俺だって言いたい事があるぞ! 貴様、将来の王配である俺に何て態度なんだ! アリステアが女王になった時、お前をまず市井に落としてやるからな!」
静かになっていた会場が、一気にザワザワと騒ぎ立てる。王族に対し不敬な物いいに、皆それぞれの意見を話しているようだ。
「あら、私は市井に行く事に抵抗はありませんことよ?」
私の言葉を聞いて、周囲の声が更に大きくなっていく。
周囲の声が収まるのを待って、私は口を開いた。
「今度は、私の番ですわね。ウォルフ卿、私は貴方をお姉様の婚約者として認めませんわ。王配と先程言われていましたが、貴方がそのまま王配になれば、国は高い確率で乱れるでしょう。お分かりかしら?」
「なっ! アリステアが私を望んでいるのだ。何を勝手な---- 国を乱すなど軽々しく口にするなんて、本当に恐ろしい女だ。お前こそが、国を乱す原因だろう! 国の話なんかして、お前は自分が女王にでもなるつもりか?」
周囲の人の視線が、私に一気に集まる。
様々な思惑の視線が私を貫き、会場は緊張感に包まれた。握りしめた扇子を広げ、私は優雅に広げると口元を隠し、メアリー1世の様に振る舞う。
------ ここで怯んだら負けよ。何なら道連れにしてやるわ!
「それが、どうかしまして? 私にも女王になる資格はありますことよ? お忘れなのかしら?」
「なっ! 不敬も過ぎるぞ! 姉を差し置いて女王になるなどどうかしている!」
「そうかしら? 私にも資格はありますのよ? 私が女王になると言えば、貴族の方々はどう思われますでしょうか。お姉様に味方するか、私を味方するか別れはするでしょう、でも国民には全く関係ない事ですのよ。平和で豊かな国であれば、国民にとっては幸せですわ。ですから、どちらが女王になっても些細なこと---- 問題ではありませんわ。」
手に力を込めて、息を吸い込む。
「ですから、貴方が王配になろうとするのであれば、私が女王になりますわ」
周囲からけたたましい声が上がりだし、批判や称賛の言葉が飛び交う中で、お腹に力を入れ姿勢を崩さぬ様背筋を伸ばす。
------ どんな言葉でも受け入れてやるわ!
あいつも流石に驚いたのか、言葉を止めて私を見つめた。絶対に逸らさないわよ---- 私もあいつの目を見つめて、瞼が動かない様力を入れる。
私に対し、批判を口にする人々が徐々に声を張り上げ、称賛の声を抑えようとした時、聞き慣れた声が私に近づいて来た。
「何やら面白い事になってますなあ。私も混ぜて頂きましょうか」
「庭師長---- 」
一人で立つ私に大きな勇気をくれる。
---- それにしても、庭師長の正装って初めて見たわ。髪も整っているし、綺麗にすると全然違うのね。
普段の庭師長から、百八十度違う姿に驚きが隠せない。それにしても、夜会には出席出来ないと言っていた筈だわ、どうしたのかしら?
「だ、誰だ貴様! いきなり無礼だぞ!」
「無礼なのは、お前だ! オスカー様、愚息の無礼をお許し下さい」
宰相様が父様を連れて現れたと思えば、何故か庭師長に頭を下げている。あいつの母親も、宰相様に続き慌てた様に頭を下げた。
------ どうして、宰相様が庭師長に頭を下げるのかしら?
一体何が起きてるのか分からず、周囲にいる人々を見れば、半数以上の人が頭を下げていた。
「オスカー、国の政に関わらないんじゃなかったのか?」
「関わる気はありませんよ。面白そうだから出て来たまで。可愛い従姪が何やら楽しい遊びを始めたから、これは参加しない訳にはいかないだろう?」
「えっ!」
----- 従姪?
「オスカー、今は何も面白くないだろう」
父様は、ハァっと息を吐くとその場を沈める様、威厳ある声で終わりを告げる。
「皆のもの、今宵はこれで解散だ。また後日話す場を設ける。その時にでも話しを聞こう、宰相---- 家族を連れてこい」
長く上等のマントを翻し、父様が立ち去ると周囲にいた人達は何か話しながらも散り散りに去っていく。
その様子を見て、体から力が抜けてよろけそうになると、庭師長は私の肩を抱き込んだ。
「よく頑張りましたなあ、エレナ殿下。私達も行きましょう、歩けますかな?」
「庭師長---- 父様の従兄弟だったの?」
疑問を口にすれば、庭師長はいつもの笑いとは違い優しく微笑む。何処からか祖父の面影を感じ、あぁっと簡単に腑に落ちた。
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「大丈夫なのか? 無理して戻らなくていい」
「ええ、慰めて頂いて有難う御座います。それでも今日は私のパーティーですから、迷惑はかけられませんわ」
私はハンカチで優しく涙を拭うと、ソファから立ち上がり鏡台へと向かう。
------ 何て酷い顔かしら。このままでは皆の前には行けないわね。
鏡台にセットされた化粧品を手に取り、どうにか見れる程度に顔を直していると、マイヤー殿下が私の後ろに現れ、髪を整え出した。
「そ、そんな申し訳ないわ---- 」
「皆の前に行くんだろう? このままじゃ君は落ち着かないと思うが---- 違うかい?」
鏡越しにマイヤー殿下のお顔を見れば、穏やかな笑みが目に映り、少しだけ心が落ち着く。
「そうね---- お願いしても良いかしら?」
「甘えていいんだよ」
マイヤー殿下の指の感触に、恥ずかしさを感じながらも、整えられていく自身の髪を見つめる。
「これで良いね。綺麗だよ」
マイヤー殿下が私の肩に手を置き、耳元で囁く。
熱くなる体と速まる鼓動は抑えられず、自身の肩に置かれたマイヤー殿下の手に、自らの手をそっと重ねた。
温かな手は私に優しさをくれるが、このままでいる訳にはいかない。
「行きますわ」
マイヤー殿下の差し出された腕に手を添えて、姿勢を鍛え上げられたものに戻しながら、会場へと足を向けた。
会場に辿り着くと、先程の場所にはまだ人集りが出来ており、その人集りから外れて、難しい顔をしながら話している父様と宰相様の姿が見える。
顔を引き締めて、マイヤー殿下と共に人集りに近づいて行くと、エレナの珍しく冷静な声が聞こえてきた。
「貴方がそのまま王配になれば、国は高い確率で乱れるでしょう。お分かりかしら?」
「なっ! アリステアが私を望んでいるのだ。何を勝手な---- 国を乱すなど軽々しく口にするなんて、本当に恐ろしい女だ。お前こそが、国を乱す原因だろう! 国の話なんかして、お前は自分が女王にでもなるつもりか?」
------ 一体何の話しをしているの? 国が乱れる?
二人の対峙する姿は、私の位置から見え辛く爪先立ちになってしまう。マイヤー殿下は私の動きに気づいたのか、先程よりも見易い位置へと移動してくれた。
エレナの、優雅な動きで口元に扇子を広げる所作は、堂々として美しく目を奪われる。
------ あの子、あんな動きが出来たのね。
体は小さいものの、大人の女性にしか見えない動きに、妹であるエレナと距離を感じてしまう。
エレナの後ろに立つ母様を見れば、見えていない筈なのに満足そうな表情を浮かべていた。
後ろから見ても分かる程、美しい動きをするだなんて------ いつ学んだというのかしら。
「それが、どうかしまして? 私にも女王になる資格はありますことよ? お忘れなのかしら?」
「なっ! 不敬も過ぎるぞ! 姉を差し置いて女王になるなどどうかしている!」
「そうかしら? 私にも資格はありますのよ? 私が女王になると言えば、貴族の方々はどう思われますでしょうか。お姉様に味方するか、私を味方するか別れはするでしょう、でも国民には全く関係ない事ですのよ。平和で豊かな国であれば、国民にとっては幸せですわ。ですから、どちらが女王になっても些細なこと---- 問題ではありませんわ。」
緊迫した空気が会場を包む。私の胸は激しく音を鳴らし、胸の打つ音が耳にまで聞こえてくる。
マイヤー殿下の腕をきつく握り、息を吸うエレナの言葉を喉を鳴らして待つ。
「ですから、貴方が王配になろうとするのであれば、私が女王になりますわ」
------ あぁ----
周囲からけたたましい声が上がり始めたが、私の耳からは遠ざかっていく。エレナの立ち姿や言葉の強さに、段々と視界が歪んでいった。
今までの私の努力は何だったのか---- エレナに圧倒され怖じける自分が悔しい。どうして---- どうしてこうなるのよ!
私はどうすればいいの!
言葉に出せず心で叫んでいると、マイヤー殿下の指が私の目の端に映り、涙を拭うと頬に手を添えて私の顔を動かした。
「辛いなら、私に甘えるといい。君は我慢し過ぎだ」
甘える? 甘え方なんて知らないわ----
私に甘えろだなんて---- 我慢し過ぎだなんて、言った人今までいたかしら?
グレーダイヤの瞳が、優しく私に語りかけてくる。
「私が側についてるから、気を張らなくていい」
自分でも知らない内に涙が溢れたのか、温かい何かが頬を伝っていく。先程の気持ちが嘘のように和らぎ、自然とマイヤー殿下の胸元に頭を預けながら、エレナへと視線を戻した。
一人で立つエレナの姿を見れば、今まで消えていた周囲の声が聞こえ始め、どんどんと騒がしくなっていく。
称賛の声よりも批判の声が大きく、投げ飛ばされる言葉は自分じゃなくても辛い言葉ばかり。
------ よく一人で立っていられるわね。しかも表情を変えないなんて---- 私でも辛いわ。
「何やら面白い事になってますなあ。私も混ぜて頂きましょうか」
オスカー様のいきなりの登場に、私は目を見開いた。今までこのような場を避けてきた筈よね、何故来たのかしら? エレナとは仲がいいの?
近くにいた父様と宰相様は、慌てたように人集りを掻き分けて行った。
「だ、誰だ貴様! いきなり無礼だぞ!」
「無礼なのは、お前だ! オスカー様、愚息の無礼をお許し下さい」
----- オスカー様を知らなくて当然だろうけど、無礼なのはウォルフ様よね。周囲にいる人が、頭を下げているのにも気づかないなんて----
「オスカー、国の政に関わらないんじゃなかったのか?」
「関わる気はありませんよ。面白そうだから出て来たまで。可愛い従姪が何やら楽しい遊びを始めたから、これは参加しない訳にはいかないだろう?」
「えっ!」
------ あの様子だと、父様の従兄弟だとは知らなかったのね。
それだとしたら------ 誰も近寄らない唯の庭師長と仲良くなるだなんて、エレナらしいわね。
クスクスと笑いが漏れ出す。
何だか、意地を張るのにも疲れたわ----
父様が会場にいる人達へ話し始めると、マイヤー殿下は私に歩き出すよう促した。
「人々が動き出す前に会場を出よう」
マイヤー殿下に頷き、父様の言葉を背に歩き出す。
ここから夜はきっと長くなる---- そう感じながらマイヤー殿下へと顔を向け口を開いた。
「マイヤー殿下、先程の言葉は本当ですか? 貴方に甘えていいと----」
「勿論。君は甘えるべきだよ」
「---------- でしたら、 」
夜はまだこれから---- 私は前を向いたまま、暗い廊下に足を踏み出した。
読んで頂き有難う御座います!
今回は物語は入れ込めず-------
メアリー1世だけ登場させました。
別の名を「ブラッディ・メアリー」
イングランドとアイルランドの女王で、プロテスタントに対する過酷な迫害で有名な人です。
カクテルの「ブラッディ・メアリー」はメアリー1世に由来してるそうですよ!
有名なエリザベス1世も彼女に幽閉されていたと言われてますね!




