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異世界の学生剣士 ~未来を斬り拓く一刀~  作者: 夜神
第1章 ~旅立ちと出会い~
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第14話

 依頼を受けた俺達は、ガルダンにほど近い森を訪れた。

 ギルドで聞いたゴブリンの大量発生という話を考えると、依頼がブッキングしてしまうのではないかと思ってしまうかもしれない。だが依頼書に書かれていた出現場所は俺達が現在いる場所だけではなく、またギルド側で同じ依頼は受けられないようにしてある。

 つまり依頼は早いカウンターに来た者が勝ちとも言える。日によっては、受けられる依頼がないということもあるだろう。まあ文句を言っても、朝早くからギルドは開いているのだから早くこなかったあなたが悪いと言われるのがオチだろうが。

 とはいえ、依頼を受けられないということはほとんどあるまい。魔物の討伐といったものは遊撃士だけでなく国の兵士も行っているだろうが、遊撃士や兵士の数を足しても民間人の数には遠く及ばないのだ。こなす数よりも新たに発注される数のほうが多いだろう。


「……蒸し暑いね」

「そうだな」


 森の中は背の高い木々のおかげで日差しは射していないのだが、水はけが悪い地帯なのか空気が湿っている。加えて風もほぼ吹いていないため、森の外は気温の差が激しい。

 シャツを動かして、風を内部に送ってみるが大した効果は得られない。この環境が続くとすれば、今はまだ大丈夫だろうが、帰りには汗で衣類がへばりついていそうだ。


「ふたりとも暑いからって上着とか脱いだらダメだからね。森の中では肌はできるだけ晒さないようにしないと危ないから」


 確かに森の中は枝で切ったり、比ゆに触れると何かしらの症状を引き起こす植物があってもおかしくない。ララの言っていることは正しいだろう。コートくらいは脱ぎたいところだが我慢するしかあるまい。ただ……。


「……俺よりも肌を晒しているやつが言うのはどうなんだろうな」


 ララは服は胸元や腹部を露出させている。以前はローブを纏っていたが、大分痛んでいたので旅立つ前に捨ててしまった。下半身もミニスカートであり、ブーツで保護できる部分を差し引いても、太ももからふくらはぎに掛けては無防備だと言える。まあ服装に関してはシアも似たようなものなのだが。

 とはいえ、少女達は俺よりもこの手の場所に慣れているだろう。下手に気を回す必要もあるまい。ゴブリンは1体1ならば苦戦するような敵ではないが、基本的に複数体で行動している。熟練の者でも油断すれば命に関わるだろう。まずは自分の心配をしなければ。


「にしても……俺の記憶だとゴブリンは洞窟とかに出るイメージなんだがな」

「うん、確かに一般的には洞窟とか地下に出現するね。ただここは日差しがほとんど遮られてるし、森の中に住処になってる洞窟があるのかも」


 確かにララの言う可能性はある。

 依頼にあった数を討伐するだけで充分ではあるが、今後のことを考えると森の中も捜索しておいたほうがいいかもしれない。遊撃士は民間人のことを考えて作られた制度なのだから。

 警戒しながら森の中を進んでいくが、太い木々や茂みが覆い茂っていることもあって先のほうまでは確認できない。多少なりとも気配を感じられなければ、相当な不安に襲われていたことだろう。エルザの修行に死ぬ気で付いて行って本当に良かった。


「……ふたりとも」


 制止をかけるように静かに声を発したのはララだ。彼女の表情を見る限り、冗談の類で気を惹いたわけではないように思える。


「ここから少し左に向かって進んだ先に何かいるみたい……」


 ララと同じ方向を凝視してみるが、見えるのは木々と茂みばかりだ。標的であるゴブリンの姿は全く確認できない。それはシアも同じようだ。


「見えるの?」

「目は良いほうだからね」


 別に俺やシアも視力は悪くないはずだ。それでも見えないということは、ララの視力がずば抜けて優れているのかもしれない。長年狩猟といったものを行ってきた成果なのか、生まれつきなのかは分からないが、まあこのへんは気にする必要はあるまい。


「ゴブリンなのか?」

「多分ね。草木でよく見えなかったけど、1メートルくらい影が何個か見えたし」


 個体差はあるだろうが、ゴブリンの平均身長は1メートルほどとされている。緑色の肌とそれよりも濃い体毛を部分的に生やしており、醜い顔をしているのが特徴だ。先ほども言ったように集団で行動することが多いため、ララの言葉を信じるならばゴブリンである可能性が高い。


「おそらくゴブリンだろうが……」

「ま、民間人の可能性はゼロじゃないね」

「あぁ……だが魔物が大量発生してるのは街の人も知ってるはずだ」


 ララの言葉に間違いがなければ、背丈は子供のものだ。いくら子供でも、魔物が出る森を遊び場にするとは思えない。

 直後、不意に奥のほうで鈍く反射した光のようなものが見えた。

 今居るような森の中で光を反射するものは金属で作られたものくらいだ。見えた光の高さは地面から1メートルほどの位置。子供ほどの背丈の高さで光が反射するとなると……現状ではゴブリンが手にしているであろう得物が煌いたとしか思えない。


「何か光ったね……ララ、見えた?」

「うーん……多分剣だと思う。先端のほうが尖ってたし」

「動いている影はどれくらい居る?」

「今は……ざっと15体くらいかな。もしかしたら奥のほうにもっといるかもしれないけど」


 半ば覚悟していたことではあるが、2桁に上るゴブリンが相手か。個々の能力で勝っていても、数の暴力という言葉もある。反射した光やララの証言からしてゴブリン達は武装しているようだし、可能な限り先手を打って数を減らしたいところだ。


「シアにララ、狙撃できるか?」

「わたしは無理かな。狙撃用の装備でもないし、何より障害物が多いから」

「あたしは多分やれるよ。まあさすがに木の上とかからじゃないと厳しいけどね」


 厳しいということは、やれないこともないという解釈ができる。無邪気に笑っているくせに、さらりととんでもないことを言う奴だ。


「ならララは木の上から狙撃してくれ」

「りょーかい」


 笑顔で返事をしたララは、普段の彼女からは想像できないほど俊敏な動きで木の上に登り、愛用のクロスボウを構えた。その瞬間、彼女の眼光が鋭いものに変わる。しかし、殺気めいたものは感じない。矢を放つ直前まで気配を殺しているのだろう。

 ――まさに狩人だな。

 できないことは基本的に口にしない性格に思えるため、おそらくララは狙撃を成功させるだろう。スナイパーという表現のほうが似合うかもしれない。


「シア、俺達は撃ち漏らしを叩くぞ」

「ん、分かった」


 それぞれの得物を抜き放ちながら奥へと進む。草木や地上に剥き出しになっている根のせいで思った以上に先に進めない。ある程度足場の良いところで迎え撃つほうが無難か。

 そのように思った直後、後方から発射音が聞こえたかと思うと、頭上を風切り音が通過。獣のような断末魔の叫びが響いてきたかと思うと、残響と共に消えて行った。


「仕留めたみたいだね」

「そうだな」


 この視界の悪い森の中で一撃で敵を仕留めるとは、何とも頼もしい味方だ。敵に回すととても恐ろしく思うが。

 頭上を矢が通過する度に前方から悲鳴が響いてくる。ララは確実に敵の数を減らしてくれているようだ。

 そして、ついに1メートルほどの影が次々と姿を現す。緑色の肌に醜い顔からしてゴブリンに間違いない。

 仲間を殺された怒りからか、鋭い眼光をこちらに向けており、牙を剥き出しにしながら唸り声を上げている。最前に居た1体が傷んだ小剣を振りかざしながら飛び掛ってきた。だが空中で不自然に制止し、そのまま地面に倒れる。


「……凄い奴だな」


 ララの狙撃能力に関心しながら、太刀を握り直しゴブリンへ接近していく。

 魔物とはいえ、人に近い形をしているだけに斬るのに抵抗はある。だが斬らなければこちらが命を奪われるだけだ。


「せやッ!」


 仲間の死に意識を割いていた個体に向けて、太刀を上段から振り下ろす。鍛え上げられた鋼の刃は、魔物の体を容赦なく切り裂き命を奪った。喉奥に何か込み上げてくる感じがしたが、それを飲み込みながら次の敵に意識を移す。


「行くよ」


 爆発的な加速で距離を詰めたシアは一瞬でゴブリンを切り刻み、目の前にあった木に向かって跳躍。踏みしめながら方向転換し、別の個体に向けて飛翔し斬殺する。

 俺やララには不可能に思える戦闘を行っているが、おそらく彼女のいつもと変わらないだるそうな顔を見る限り、全く本気は出していないのだろう。彼女の本気の速度に銃撃も加わった場合、どれほどの戦闘力を発揮するのだろうか。とんでもない連中と知り合ったものだ。

 意識を切り替え、太刀を鞘に納めながら固まって立っている2体に接近する。一瞬の脱力の後、地面を強く蹴り抜きながら抜刀した。

 七星一刀流三の型……霞斬り!

 鞘から抜き放たれた刃が描いた剣閃が消失すると共に、魔物達は地面に伏す。体勢を直しながら残りの敵に意識を向ける。

 こちらに向けられている瞳には怒りも宿っているように見えるが、一方で恐怖といった感情も宿っている気がした。だからといって手加減をするつもりはない。


「――参る!」


 気合を発しながら太刀を構え直し、残った敵に向かって行った。



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