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中学で告白できなかった初恋が国民的人気アイドルになっていた。泥酔して目を覚ましたら、なぜか隣で寝ていた!?  作者: 天月瞳


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第6話:撮影開始

里奈は悠花の横顔をじっと見つめていた。


その表情はどこか神妙そうだった。


「ん? 西村さん、どうかしましたか?」


隣にいる里奈の様子が少しおかしいことに気づき、堂也は不思議そうに尋ねる。


「いえ……なんだか、どこかでお会いしたことがあるような気がして……」


そこまで言うと、里奈は苦笑しながら首を振った。


「大物スターさんですものね、広告なんてどこにでもありますし」


(まさか、あの日のことじゃないよな……)


堂也の背中に冷たい汗がにじむ。


二人に接点があったとすれば、思い当たる理由はただ一つ。悠花が自分の部屋で眠っていた、あの日しかない。


「気のせいじゃないですか」


堂也は乾いた笑みを浮かべ、どうにかその場を濁した。


スタッフへの挨拶を終えた悠花は、そのままメイクルームへ案内され、衣装合わせとメイクに入っていく。


「御堂先生でしょうか?」


凛とした涼やかな声が耳に届いた。


堂也が振り向くと、悠花にどこか面影の似た端正な顔立ちが目の前にあった。


「はい。あの……?」


「悠花のマネージャーをしております、逸見彩里と申します。よろしくお願いいたします」


その女性は悠花よりも成熟した雰囲気をまとっており、身長も堂也よりわずかに低い程度だった。


見るからに仕事のデキる、洗練された都会的な美人だ。


彩里は堂也に名刺を差し出した。


「あ、ありがとうございます。すみません、僕は名刺を持っていなくて……」


堂也は慌てて両手で受け取った。


しかし、彩里はすぐには手を離さない。


ほんの一瞬。


わずか半秒ほどの静かな間。


それから、にこりと営業用の笑みを浮かべた。


「大丈夫ですよ。御堂先生は、まだ大学生だと伺っていますので」


そう言って、隣にいた里奈にも一枚手渡す。


「よろしくお願いいたします」


「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」


堂也は妙に喉が渇くのを感じながら答えた。


(この人が……悠花の言ってたお姉さんか?)


まさか悠花の家族と、こんな場所で顔を合わせることになるとは思ってもみなかった。


「これからも、うちの悠花をよろしくお願いいたしますね」


彩里は挨拶だけが目的だったようで、軽く会釈するとその場を後にした。


堂也は内心ほっと息をつく。


(悠花のお姉さん、オーラが強すぎる……)


「先生っ!」


隣から弾んだ声が聞こえ、堂也は振り向く。


「かっこいいですね! 私もあんな風にバリバリ働くキャリアウーマンになりたいんです!」


里奈は目を輝かせていた。


「はは、そうだね」


堂也はこっそり里奈を横目で見る。


少々失礼ではあるが、里奈がスーツを着てるけど、まだ新社会人らしい初々しさが残っている。


そんなことを考えながら二人で話していると、不意にスタジオの一角がざわつき始めた。


「どうしたんだ……?」


堂也がその騒ぎの中心へ目を向けた瞬間、思わず息を呑む。


そこには、自分の小説から飛び出してきたようなヒロインが立っていた。


「……綺麗」


里奈が思わず感嘆の声を漏らす。


その姿を見て、堂也はようやく気づく。


目の前の少女が、悠花なのだと。


メイクを施し、ウィッグを身につけた悠花は、まさに物語の中で描いたヒロインそのものだった。


監督は満足そうに頷き、堂也へ感想を求める。


「先生、いかがでしょう? 先生のイメージと違いませんか?」


堂也が悠花を見ると、彼女もまた返事を待っているようだった。


「……自分の小説から、そのままヒロインが出てきたみたいです」


堂也は素直な気持ちを口にする。


その瞬間、悠花の口元がほんの少しだけ嬉しそうに緩んだ。


「よし! それじゃあ撮影を始めましょう!」


監督が手を叩き、スタッフたちが一斉に動き出す。


そこから先は、堂也にとって何もかもが初めて見る光景だった。


実際のセットを使う場面もある。


しかし、それ以上にグリーンバックを使う撮影が多い。


撮影は想像していた以上に細かく、断片的だった。


一つのカットを何度も撮り直すことも珍しくない。


さらにアップのカットや、複数台のカメラによる撮影もある。


「すごいな……」


堂也の視線は、人々の中心に立つ少女から離れなかった。


その一つひとつの仕草から、人を惹きつける圧倒的な存在感が伝わってくる。


そんな悠花は、堂也の知っている彼女とはどこか違って見えた。


(遠いな……まるで別の世界の人みたいだ)


「ん? ぬいぐるみ?」


スタッフが一体のぬいぐるみを持ち出してきたのを見て、堂也は首をかしげる。


自分のストーリーに、ぬいぐるみが出てくる場面などなかったはずだ。


「あれは、役者さんが視線を合わせる目印なんだそうですよ」


事前に少し勉強していた里奈が説明する。


「なるほど」


堂也は半分理解したような顔で頷く。


悠花はただ一体のぬいぐるみに向かって演技をしているだけだった。


それなのに、彼女の絶望がはっきりと伝わってくる。


「はい、カット!」


監督が拍手をしながら歩み寄る。


「素晴らしい演技でした、悠花さん!」


「ありがとうございます」


悠花はようやく表情を緩めた。


「それじゃ少し休憩しましょう。メイクさん、化粧直しお願いします」


監督が声をかけると、スタッフたちがすぐに動き出す。


堂也は邪魔にならないよう、壁際へ移動した。


「先生、少し席を外しますね。お手洗いに……」


里奈が小声で声をかけると、そのまま席を外した


「あ、はい、わかりました」


「ふぅ……」


堂也は壁にもたれかかる。


背中に伝わる冷たく硬い感触を感じながら、深く息を吐いた。


「堂也~」


その声を聞いた瞬間、堂也は目を開ける。


まだウィッグ姿の悠花が目の前に立ち、周囲をきょろきょろと警戒していた。


「どうしたの?」


「しーっ」


悠花は人差し指を唇に当て、小声で言う。


「お姉ちゃんが忙しい隙に、こっそり挨拶しに来たの」


「やっぱり、さっきの人がお姉さんだったんだ」


堂也もつられて声を潜める。


「うん。自慢のお姉ちゃんだよ」


悠花は誇らしげに頷くと、いたずらっぽく舌を出した。


「でも、こんなに早くバレちゃうなんてね。本当は堂也をびっくりさせたかったのに」


「そういえば悠花、どうしてこの作品に?」


「もちろんオーディションだよ。私だってすごく頑張ったんだから!」


悠花は両手で拳を作り、自慢げに胸を張る。


「ああ……ありがとう」


堂也は小さく礼を言った。


「それより、一つ聞きたいことがあるの」


悠花は急に真面目な表情になる。


「さっき堂也の隣にいた女の人、誰?」


「西村さんのこと? 俺の担当編集さんだよ。いつもすごくお世話になってるんだ」


「ふーん……そうなんだ」


悠花は意味ありげに相槌を打つと、スマホで時間を確認した。


「あっ、まずい。お姉ちゃんがそろそろ戻ってきちゃう。もう行くね!」


そう言い残し、足早に去っていく。


「あっ、おい!」


堂也は、彩里が悠花と自分が同級生だったことを知っているのか、まだ聞いていないことを思い出した。


「はぁ……バレてなきゃいいんだけど」


堂也はため息をついた。


しかし、彼は気づいていなかった。


少し離れた場所から、壁際で一人ため息をつく堂也を、じっと見つめている彩里の視線に。



彼女はしばらくの間、無言で堂也を見つめていたが、やがて静かにその場を後にした。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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