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中学で告白できなかった初恋が国民的人気アイドルになっていた。泥酔して目を覚ましたら、なぜか隣で寝ていた!?  作者: 天月瞳


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第10話:交わした約束

快晴。


堂也は重たい足取りで、照りつける夏の日差しの中を歩いていた。


「暑い……」


マスクをつけ、どこか挙動不審な様子で書店へ向かう。


店のガラスに映る自分の姿を見て、苦笑した。


「これ、どう見ても不審者だな……」


こんなに緊張するのは、本当に久しぶりだった。




小説の重版自体は珍しいことではない。


だが今回は、映画公開を記念した限定版。


堂也が本当に気になっているのは、読者が悠花をどう受け止めているかだった。


今や国民的人気を誇るトップアイドルが、自分の原作のイメージによって評価を落としてしまわないだろうか。





書店へ一歩足を踏み入れると、表紙に並ぶ無数の悠花と目が合った。


映画のポスターと同じく、金髪の少女がガラスへ手を伸ばしている。


ガラスの内側に揺らめく泡のような水紋が、その頬に涙のような影を映していた。


「おお……」


入口の一番目立つ場所には、『カタッ』の限定版が山積みにされていた。


今回の限定版は、映画の設定資料集とセットになった豪華な一冊だ。


その横には大きな看板が立てられていた。


【超人気歌手・逸見悠花、映画初主演『カタッ』 映画公開記念限定版!】


劇中写真もたくさん飾られている。


そこでは、多くの人々が足を止め、写真を撮ったり楽しげに談笑したりしていた。




「ねえ、映画もう見た?」


「観た観た! 悠花ちゃんの演技、本当にすごかった!」


「まさかラストがああなるなんてね」


「最後のあの目が最高だったなぁ。できればあの目で睨まれながら罵られてみたい」


(さすが悠花……人気アイドルの影響力ってすごいな。……って、おい、どこの変態だ!?)


堂也が振り返ると、その男性は連れの友人たちから冷たい視線を浴びていた。


「ははっ、もちろん冗談だって! 冗談!」



一方その頃、別の客が『カタッ』を手に取る。


「これが原作なんだ」


「うん。前に読んだけど、映画より細かい描写が多いよ」


「この作者って、普段はホラー小説を書いてる人なんだっけ?」


「他のジャンルも書いてるらしいよ」


(そうです。もし興味がありましたら、ぜひそちらも読んでみてください!)


堂也は心の中で手を合わせてお願いした。


人が写り込まない角度を探し、一枚だけ記念写真を撮る。


あとで宣伝用の投稿をするときの画像に使うつもりだった。




「よし、俺も何冊か買っていこう」


作者である堂也には見本が届いている。


だが親戚や友人へ配ることを考えると、少し足りなかった。


……その前に、一つ気になることがあった。


書店の中をぐるりと回ってみる。


「お、新刊出てたのか」


「これ前から欲しかったんだよな。ここにあるなら買おう」


「あった、あった」


何冊もの本を抱えながら歩いていると、店の隅に自分の既刊が並んでいるのを見つけた。


小さいながらも、専用のコーナーが作られている。


そこには、


『カタッ』原作者・御堂逸中による他の作品


という紹介が添えられていた。



その光景を見た堂也は、少し胸が熱くなる。


以前はどの本もホラー小説の棚にまとめて並べられているだけだった。


それが今では、自分だけのコーナーが作られている。




(悠花、本当にありがとう。全部君のおかげだよ)


堂也は心の中で、静かに悠花への感謝を捧げた。


再び入口へ戻り、『カタッ』を数冊手に取り、先ほど見つけた本と一緒にレジへ向かう。



「お、新刊ですね」


店内には新たな告知が掲げられていた。


【17歳の美少女高校生作家・浅倉真 最新作『最後の夜、君を忘れる』予約受付開始!】


「ご予約されますか? デビュー作で小説大賞を受賞した、あの超新星の最新作ですよ」


店員が笑顔で勧めてくる。


「えっと……」


堂也は少し躊躇した。


作家の名前は聞いたことがある。


その作家の名前は耳にしたことがあったが、まだ作品を読んだことはない。


ましてや、美少女作家と噂される本人の容姿など知る由もなかった。


ただ、感情描写が非常に上手いことで有名らしく、ちょうど恋愛小説を書いている今の自分には勉強になりそうだった。


「ちょっと待ってください」


堂也は素早く棚へ戻り、浅倉真のデビュー作を探し出した。

まずは一冊読んでみてから、予約するかどうかを決めようと思ったのだ。


彼がレジに戻って会計を再開したその時、書店の自動ドアが開いた。


堂也は条件反射のように、ふとそちらに目をやった。



青いワンピースを着た少女が店内へ入ってきた。


その姿はひときわ目を引いた。


背中まで流れる金色の髪。


右耳には赤いイヤリングが揺れている。




少女は迷うことなく『カタッ』のコーナーへ向かい、一冊手に取った。


しばらく無言で表紙を見つめている。


(あ、この子……映画の悠花みたいな格好だな)


会計をしながら、堂也はそんなことを思う。


少女とすれ違ったとき、彼女が『カタッ』を抱えたままレジへ向かう姿が目に入った。


(ありがとう、見知らぬ少女よ)


堂也は心の中で、そっと礼を言った。



***


夜。


堂也はいつもの居酒屋を訪れた。


店の隅の席には、黒縁メガネをかけた若い女性がすでに腰掛けていた。


マスクをつけたまま、目の前には半分ほど飲んだ炭酸水のグラスが置かれていた。


「待たせた」


堂也は急いで彼女の元へ駆け寄り、席に座りながら謝罪した。



悠花が顔を上げ、堂也の姿を認めると、マスクを外して柔らかな微笑みを浮かべた。


「ううん、私も今来たところだよ」


向かい合って座ると、堂也は酒といくつかのつまみを注文した。


悠花もそれに合わせて一杯注文する。


「今日の午前中、本屋に行ってきたんだ」


堂也は朝の出来事を切り出した。


「どうだった?」


悠花が興味津々に尋ねる。


「さすがだよ。入口の一番目立つ場所に置かれてた」


「それは堂也のおかげでしょ。原作者なんだから」


「発売当時はあんな扱いじゃなかったからな。やっぱり君の知名度のおかげだよ」


周囲に聞かれないよう、堂也はあえて悠花の名前を口にしなかった。


「じゃあ、その功績は半分ずつってことで」


「いいね」


堂也はグラスを持ち上げる。


「それじゃあ、お祝いの乾杯をしようか」


「うん!」


映画公開後、二人がこうして顔を合わせるのは今日が初めてだった。


「最高のヒロインに」


「私の大作家さんに」


グラス同士が触れ合い、澄んだ音を響かせる。


「そうだ、渡したいものがあるんだ」


堂也は思い出したようにリュックから『カタッ』を取り出し、悠花へ差し出した。


「わあ! ありがとう!」


悠花は一瞬目を丸くし、嬉しそうに受け取る。


「開いてみて」


堂也に促され、悠花は扉ページを開いた。



最初の読者へ


僕のヒロインになってくれて、ありがとう。


御堂逸中


「……堂也! ありがとう」


悠花の瞳が感動に揺れる。


その本を愛おしそうに胸にぎゅっと抱きしめた。



「はは、ほんの気持ちだよ」


「ううん。すごく嬉しい」


悠花は大切そうに本をバッグへしまう。


……と思った次の瞬間、今度は別の『カタッ』を取り出した。


「ん?」


悠花は照れくさそうに笑った。


「まさか、同じこと考えてるなんてね」


「まじか」


堂也は驚きながら受け取り、本を開く。


大作家さんへ


次も、私をあなたのヒロインにしてください。


最初の読者より


「はは……これはまた、本当に予想外だ」


堂也は思わず笑いながらも、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。


「中学の頃、『私をヒロインにしてね』って約束したの、覚えてたんだ」


「もちろん」


悠花は迷いなく頷く。


「もっとずっと先になってから叶うものだと思ってた」


堂也はしみじみと呟いた。


「確かに、私が思ってたよりも早かったね」


悠花も真面目な表情で答える。


「でも、今回は堂也から誘ってくれたわけじゃないから……カウントとしては0.5回だけだよ」


「判定厳しいな」


堂也は苦笑した。


「次は、堂也から誘ってくれるのを楽しみにしてる」


「……頑張るよ」


新しい約束を交わした二人は、そのまま他愛のない話を続けた。


「聞いて聞いて。最近、映画のオファーだけで十本以上来てるんだって、お姉ちゃんのスマホがずっと鳴ってるの」


「受けるの?」


「もうすぐ武道館ライブだからね。お姉ちゃんが全部断ってくれてる」


「ああ、そうだった。じゃあ、お姉さんにもちゃんと休むように気を付けてね」


「うん!」


気づけばグラスは空になり、皿の上には串だけが残っていた。


最近あった出来事から、中学時代の思い出まで。


二人の話は尽きることがない。


「昔から、堂也の小説は絶対に成功するって思ってたよ」


「ありがとう。信じてくれて」


「当然だよ。だって私は、あなたの最初の読者だから」


「俺も昔から思ってたよ。悠花は絶対に大スターになるって」


「そう?」


「もちろん。あの頃から思ってたよ。君がステージに立てば、きっと誰よりも輝く一等星になるって」



別れ際。


「約束だからね」

悠花はバッグの中にある、あの本をポンポンと軽く叩いた。


「次は、ちゃんと堂也から私をヒロインに誘ってね」


「……ああ」


堂也は笑って頷いた。


「約束だ」



二人はまた一つ、未来へ向かう約束を交わした。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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