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第7話 帝国への第一歩

執務室の静けさは、暖炉の薪がパチパチと燃える音と、窓の外で遠くに響く梟の鳴き声だけが支配していた。レイは机に向かい、書類の山を整理していた。報告書、収支表、リスト。執事は扉の脇に立ち、沈黙を破ることを恐れているかのように微動だにしなかった。


「ヴルフ伯爵について、何が分かった?」レイは目を上げずに尋ねた。


「それほど多くはございません。伯爵は慎重でして…しかし、いくつか掴めました」


執事は咳払いを一つし、羊皮紙を広げた。


「伯爵の兵力はおよそ五百。ほとんどが傭兵です。直属の兵は少ないものの、訓練は行き届いております。また、王都との繋がりもございます。王宮顧問に資金を流しているという噂です」


「誰に?」


「そこまでは…どの顧問かは不明です。複数の顧問がおり、それぞれが異なる貴族から…ええ、支援を受けております。伯爵の息がかかっているのが誰なのかは、今のところ確定できておりません」


レイは顔を上げた。その視線は冷たく、感情を感じさせなかった。しかし執事は、部屋の温度が下がったかのように身を竦めた。


「調べろ」とレイは言った。「名前が必要だ。それと、金額も」


「かしこまりました」


「他には?」


「伯爵には弱点があります」執事は言葉を選びながら羊皮紙を繰った。「奴は木材と鉱石の交易に依存しております。それらの品は、我々の領地を通らねば届きません。もし交易路を閉ざせば…」


「分かっている」レイは遮った。「説明は不要だ」


彼は椅子の背にもたれ、天井を見上げた。暗がりに蜘蛛の巣が張り、小さな蜘蛛が中央で獲物を待っていた。レイは数秒間それを観察し、それから机の上の地図に視線を戻した。


「荘園管理人の者を呼べ」


荘園管理人はすぐにやってきた。彼のスキル 『地図頭』 は、目を閉じたまま地形を完全に把握することを可能にする。今、彼は机の上に広げられた紙の地図を見つめ、細い指で道筋をなぞっていた。指先は長く、肉体的な労働とは無縁であることを物語っていた。


「ここでございます、若様。伯爵領へ通じる全ての交易路は、我々の森を通っております。もう一本、沼地を通る道もございますが、荷車が嵌ってしまい、商人は滅多に使いません」


「現在の通行税は?」


「ほぼ無税に等しい状況です。先代の領主様は、近隣との諍いを避けられましたので」


「ならば、そろそろ上げる時だ」


レイはペンを手に取り、羊皮紙に数行書き付けた。インクは黒く、まるで彼の外套のように深い。一文字一文字、慎重に、正確に書き進める。


「これを商人と近隣の領主たちに送れ。新しい通行税だ。一般商品は二パーセント。木材と鉱石は五パーセント。武器と魔術具は十パーセント」


荘園管理人の顔色が青ざめた。彼のタイマーが、初めて明らかに揺らめいた。


「若様、ご不満をお買いになるかもしれません。商人たちが取引を拒否する可能性も…」


「不満が出るのが当然だ」レイは答えた。「不満があれば、彼らは私に苦情を言いに来る。そしてその時、私は説明する。ヴルフ伯爵との取引を止めれば、通行税は引き下げると」


「つまり…選択を迫るおつもりですか?」


「私はただ、誰と手を組むのが得なのか、誰と組むのが損なのかを分からせたいだけだ。これは選択ではない。これは計算だ」


荘園管理人が頷き、書状を抱えて退出した。


書状は夕方までに配達された。レイは窓辺に腰掛け、空が暗くなっていくのを眺めていた。冷たく遠い星が一つ、また一つと輝きを増す。中庭の下では、新兵たちを叱りつける隊の長の声と剣のぶつかる音が響いていた。七年の寿命を持つ新しい隊長が、必死に部隊を統率しようとしているのだ。


「若様」執事がノックもせずに入ってきた。「ヴルフ伯爵から返答が」


「読め」


「『後悔することになる。俺の領地は小僧のおもちゃではない』…以上でございます。署名も、紋章もございません」


レイは答えなかった。暖炉の炎を見つめていた。炎は薪を舐め、薪はパチパチとはぜ、火花が闇に向かって舞い上がる。一つのかけらが石床に落ち、黒い焦げ跡を残した。


「こう伝えろ。『待っている』と」


「若様、危険では…」


「戦争とは、剣や矢のことではない」レイは遮った。「戦争とは資源だ。我々には森があり、鉱石があり、道がある。伯爵には傭兵と恐怖だけだ。恐怖は金が尽きれば終わる」


「しかし、もし彼が攻めて来たら…」


「攻めて来ない。奴は臆病者だ。彼のタイマーが示しているのは、戦死ではなく病死だ」レイは冷ややかに笑った。「だから、命を懸けるような真似はしない。そういう輩は負ける」


執事は何か言いかけたが、口を閉ざした。レイを説得できないことを知っていたからだ。


三日後、最初の結果が出た。伯爵に物資を運んでいた商人たちが、通行税の引き上げを訴えてきた。荘園管理人の古くからの知り合いだという男が直接訪ねてきた。太った男で、顔は赤く、手のひらは汗で濡れていた。彼は手を振り回し、破産すると叫び、子供たちが餓死すると喚いた。


「若様、こんな金は払えません!これは強盗です!」


「払える」レイは顔も上げずに答えた。「それか、伯爵との取引を止めろ。選べ」


「しかし、契約が!もし破棄すれば…」


「破棄するか、通行税を払え。第三の道はない」


商人は口ごもり、顔を青ざめさせ、それから赤く染めたが、結局承諾した。他の道はさらに高くつくこと、そして伯爵は彼の損失を補填しないことを知っていたのだ。


週の終わり、ヴルフ伯爵から新たな書状が届いた。そこには脅しの言葉はなく、ただ中立の地での「話し合い」への冷たい招待状だけが記されていた。


「攻めては来ない」レイは書状を読み上げた。「臆病だ。休息が必要なのだ」


「どのように返答なさいますか?」


「来たければ、ここへ来い。私からは行かぬ。もし話し合いを望むなら、私の領地で話し合おう」


「もし拒否すれば?」


「それならば、弱さを自ら晒すことになる。彼の家臣たちは、主人が賭けに出られなかったと知る。その時、何人かは考え始めるだろう。どちらに味方するのが得策なのか」


夜、レイは再び窓辺に立っていた。月は低く垂れ、空っぽの中庭を照らしている。風は収まり、城は墓地のような静けさに包まれていた。城壁の向こうで、兵士たち、使用人たち、弟子たちが眠っている。


レイは星を見つめ、考えた。


帝国は一日で築かれない。


しかし、第一歩は確かに踏み出した。


彼は微笑まなかった。ただ、闇を見つめていた。


明日は新たな一日が来る。新たな手紙。新たな脅し。新たな可能性。


窓を閉め、ロウソクの火を吹き消し、彼は眠りについた。



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