86.通り魔ってよくある話らしい
昨夜の出来事から、妙にそわそわしてしまって錬丹にも錬器にも集中できず、家で毒料理と霊力を吸収できる丹薬を飲み、そのまま混元功を繰り返す。
こういう時に体を動かせる功法ってのがあって助かった。
浮いては消えるネガティブな考えを体を動かす事で、もやもやの内に消していけるってのは、大変精神衛生上いいだろう。
何だったか?余計な事を考えると陥るとか言う走魔入火?それこそ今の自分は余計な事を考えながら修行をしているので、危険な状態に陥りやすいのだろうが、健康的功法のお陰で異常なしだ!
「それにしてもねぇ……辻斬り……斬ってはいないから通り魔か?まぁいずれにしてもそんな危険な奴が宗内を徘徊してるなんてな」
〔昔から一定数はいるもんだからな。どうしたって修行をすれば腕試しをしたくなる。とはいえ同門で気軽に傷つけあう訳にもいかないし、安全に配慮した組手じゃ満足いかない者もいる。より強い者と戦ってみたい、得た功法や術の効果が想定通りなのか実験してみたい、もっと単純に得た力を奮って自分の強さを実感したいなんて奴らはいつの時代どこに行ってもいるもんさ〕
碌なもんじゃないね。確かに自分もギリギリ喧嘩と言う名の暴力は容認されてた時代を知ってはいるけども、それは対等にやるって言う不文律があった筈だし、強いやつに挑みたいならまだしも、弱い奴を実験台にするなんてのは流石にやり過ぎじゃない?って思っちゃう。
〔ふん!人の業というものだ。そういう奴に限って散々他人を不幸にした挙句、自分も修行が進まずどこかで不貞腐れるのさ。結局淡泊に淡然とあるままに受け入れ、今の自分に満足できる奴が一番修行が進む。武に溺れ、アイツより強いとか、恨みを晴らそうなんて永遠の怨恨の輪廻にはまる奴とかは終わりが良くないもんさ〕
「随分と実感のこもった言葉だね。まぁ、何にしてもまずは自分の身を守るのが今一番火急の用なんだけども、なんかいい案はない?」
〔ふん!相変わらず変な話題の切り替えと気持ちの切り替え方だな。まぁ変に落ち込まれるよりはずっといいが、今回に関しては別に取り立てて特別な準備は必要ないんじゃないか?〕
「確かに、自分は剣修でもないし、狙われる可能性は少ないと思うけども、だからと言って何の準備もなしは怖くない?」
〔そうだな。今回の件に関してはさほど注意しないでも何とかなろうが、今後の事も考えれば、似たような事案はあるだろうし……〕
「似たような事案?」
〔ああ、何しろ今回も数人既に死んでるって話なのに、宗内は取り立てて大騒ぎをしていないって事は、ボチボチ起こりうる事だって話だろ?〕
「ええええ!?夜中に他人を襲撃するのが起こりうる事とか、風塵宗のセキュリティざる過ぎん?」
〔そうは言うが、ざるだからあの夜お前もあっさり逃げ出せたんだよな?それにここの宗に居るのは基本的にみんな修行者だぞ?ある程度は自分で対処しろって話だ。それこそ自宅に押し込まれた訳じゃないんだからな〕
そうかも知らんけど!それにしたって、通り魔が当たり前みたいな……それに対処するのも修行の内みたいな?
〔ああ、それに今回だってどちらも不意打ちではない筈だぞ?一人は余裕ぶって剣を上段に構えた所を胸にズドン、もう一人はビビッて手が縮こまった所で腹にズドンだ。当然ちゃんと姿を見せてからの攻防であるってのが分かる〕
何でそんな事が分かるのかは、それこそ自分には分からないのだが、多分システム的な何かだろうと無理やり納得する。
いずれにせよ、自分みたいな弱いのは昼日中の人通りが多い所で行動して、尚且つ剣修みたいにいかにも武に自信がありますなんて顔をしなければいいって事だ。
〔今回の件に関してはそれじゃ済まないと思うがな〕
「何か急に脅すじゃん!大丈夫だって言ったり、済まないって言ったり!」
〔多分対峙する事にはなるが大丈夫だって言ってるんだ〕
「何か、相手が大けがしてる所為でハンデ戦になるとか?」
〔誰もそんな事言ってない〕
「じゃあ、何で通り魔と出会うかもしれないのに、大丈夫だって言ったり済まないって言ったり!!」
〔それに答えを出せないのか?簡単だろ?通り魔とは出会うが、勝てるって言ってるんだ〕
本当か~~~?だって一応は修行してる剣修が二人やられちまったんだぞ?いっそ、相手が姿を現した瞬間に風刃で真っ二つ……グロすぎる!
なんかもっとこう……うまい事穏便に相手を無力化する的な方法とかそんな感じの!
ああ、もう!人間に狙われるかもしれないって事が、何でこんなにストレスになるのか!
〔武について本気で悩むことがあるなら教えてやれる事は多くあるが、今回はそう言う話では無いだろう。武功なら混元掌で十分だし、そもそも相手を殺したからそれで良いって話でも無さそうだ〕
「え?今まで生産みたいな事ばかり教えられてきたけど、実は武も出来るの?」
〔それはそうだが、やめておけ。暴力に伴う因果はただの修行の妨げだ。もし武の道をで大成したいなら、ただ純粋に何億回も型をなぞって幸せを感じる様な武術馬鹿だぞ?〕
確かに、自分はそれには当たらないかもなぁ。
〔そうだろうな。前の世界から見てはいたが、お前は寧ろ何か作って手元に成果が見える方が充実して楽しく日々を過ごせるタイプだ〕
言われてみれば妙にしっくりくるというか、確かにこれまでシステムが生産に傾いていたのも自分向きだったのかもしれないと思い直す。




