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84.夜の外門

 気が付いた時には本当に夜になっていた。


そして、自分が散々散らかした部屋の中もすっきりと片付いている。


「よう?起きたか?」


「あっ!すみません。霊力を使い過ぎたみたいで」


「気にするな。誰でも修行し初めの頃はそうなる。自分の手で何でも作れるとか、思ったほど上手くいかなくてもう一回だとか、そういう奴は伸びるのも早い」


何とも、出会ったその日から物分かりの良いおじさんである。


のそっとした動きの割に、無駄がなく。周辺を見る限り几帳面でしっかりとしていて、初めて会った相手にも悪意を向けたり、ずるをしたりと言った事もない。


一言で言えば、朴訥で腕のいい職人さん、その物って感じかね。


「それで自分が作った物って……」


「その身に着けてるもの以外は、どうせ使うつもりはなかったんだろ?明らかにお前さんの体型とは合わない物だったしな。一応はあっちにまとめてあるが、必要な物は持って帰ればいい。使った材料費はコレだ。貢献点でも銀子でも好きな方で支払っていけ。足りない場合は……さっき作った物を見れば、十分な利益が出るし、こっちで勝手に清算しておいてもいいぞ?」


「あっ!いや、この場で払います!」


うん、こんな真面目そうな職人さんに迷惑かけたくないもんな。それに、ちょうど丹薬作り過ぎのせいで余りに余った貢献点の使い道もない所だったし。


サッと支払いを済ませ、作った物の清算金は後日受け取りにくるという事で話はまとまった。


いつもだったら少しは疑って、ちゃんとした金額を受け取れるのかとか考える所ではあるのだが、まずこの師兄のおっさんの人柄、次に正直自分の持ち出しとしてはわずかであり腹が痛まない。


精々が妖虎の牙を使っちゃった事くらいか?まあでも使う当てもない物だし、別にいいだろ。


おっさん工房を出て夜気に当たると、結構ひんやりとした冷たい風が吹く。


そう言えば、夜中に外門を出歩くのは二度目か?


一度目は内門を逃げた時、あの時は陰符で姿を隠してさっさと抜けてしまったので、あまり覚えている事も少ない。


いざこうして歩いてみると、夜中にも関わらず結構賑わっている気がする。


それは勿論、前の世界を知ってる自分の都心やなんかとは比べ物にはならないが、それでも日本海沿いの田舎町でも行った事のある人なら分かるだろう?街灯があっても妙に青白くて不安になるあの暗さ。


それと比べれば、よっぽど暖色系の温かい光が程よい間隔で街路を照らし出し、少ないとはいえ人の気配のする様子はちょっとホッとする。


店やなんかは閉まっていても、夜遅くまで修行しているのであろうちょっと荒くなった人の息遣いや、遅い夕飯の準備でもしているのであろう炊事の音。


ふと、すれ違ったのは夜中警備でもしているのであろう剣修の二人組も、そこはかとなく表情に余裕があるように感じられる。


何か、安全な田舎街なんだろうなって、頭上に上る月を見上げて、あれは上弦の月か?そうなると結構傾いてるし、思ったより遅い時間か?でもここは異世界だし、どうなんだろう?なんて、前の世界で満月位しか気にしなかった月に思いを馳せながらダラダラと時間を稼ぐように家路につく。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!」


「へ?」


突然夜の平穏に響く叫び声に、思わず間の抜けた声を発してしまう。


すぐに、周囲を見渡すがいきなり人の気配が消えた?


いつもなら、野次馬が殺到してきてどこへとなく運ばれてしまうのに、夜ともなると勝手が違うのか?


いや寧ろ、夜中だからこそみんなで助け合えよ!なんて正義感振りかざす方が非難される世界なのか?


自分もさっさと逃げようと思う反面、妙に気にかかり、陰符を使用して姿を隠して声のする方へと向かう。


自分で危地に向かいながら何も見つからないでくれなどとアホな事を考えつつ、街路から一本奥の道へと入り、進んでいくと、前方に人影がある。


二人の倒れた人物と、剣を持った女性?


警戒しながら近づくと、倒れている二人はさっきの警備の二人組か?対して、剣を持って仁王立ちの女性は……、


「楊師姉!」


思わず口から声が出ると、凄い形相で周囲を睨みつけ始めた楊師姉の殺気立った様子に思わず、鳥肌が立つ。


自分の不用意な行動にどうしようどうしようと、自分でパニックになる。


とにかくこれ以上気配を出さないように息を潜める自分と、夜の闇を見透かさんとばかりに目を見開く楊師姉の対峙が何分続いたろうか?


「うぅ……」


倒れている二人のうち一人が、うめき声を上げ、すぐさま楊師姉が近づき様子を見始めた。


様子から察するに、楊師姉がやった訳じゃない?何となく気づかわしげだが、同時に周囲に対する警戒も怠れない楊師姉の葛藤を感じ取り、すり足でちょっと距離をとりつつ、陰符を解いた。


自分の姿が現れるなり、凄い形相でこちらを睨みつけた楊師姉だが、数瞬で様子が変わり、ちょっと安心したような表情でこちらに声を掛けてくる。


「小……百師弟!手伝ってくれ!」


表情とは違い、未だ固く緊張した声に非常事態である事を肌に感じすぐさま近づいて、倒れている二人を【医術】で診察すると、どうやら相当重い打撃を受けているようだ。


一人は胸骨が折れていて、もう一人は胃の内部に出血していて血を吐き出せずに苦しんでいるみたいだ。


楊師姉に伝えると、どうやら骨に関してはある程度知識があるのか何とかしてくれるみたいなので、自分は血を吐けずにいる方の人を何とか座らせて、地面の方を向かせつつ背中に金符で作った針をうってあげる。


すると、すぐさま咳き込んだので、針を抜くとガバッと血を吐いたが、それだけで呼吸が一気に楽になったのを見て、胃の出血を止める施術へと移った。

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― 新着の感想 ―
まあ、夜は昼と違って犯罪も多いからなぁ。 野次馬しに行って、自分が巻き込まれて死んだら元も子もないしなぁ。
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