82.錬器工房
「やりすぎちまったねぇ」
思わず独り言をつぶやきながら、外門の雑踏を歩く。
何しろ、例のスキンケア丹薬なんだけども、孟長老が量産するように言ってたじゃん?
だから自分も限度をわきまえずに天井知らずで量産したって訳。
そしたら苟の姉の方が商人魂に火がついちゃったのか、あちらこちらに捌きまくって、荒稼ぎした挙句、市場にスキンケア丹薬があまっちゃったらしい。
物が多ければ安くなり、少なければ高くなる。これはどこの世界でも当たり前の市場原理な訳で、危うく値崩れする所を孟長老が回収して、事なきを得たって言うのが最近の出来事だ。
まぁ、別にそれで咎められたとかそう言う事は無いんだけど、お陰で作る物がなくなっちゃったんだよね。
通常依頼分の丹薬とかはさ、薬堂に材料がある限り作りつくしちゃったし、符禄もたくさん使うかと思って夜なべして作ったのに、どんどん【陣術】にも慣れて思ったほど使わなかった所為か、現状大量に指輪の肥やしとなっている。
あとできる事と言えば農か厨か医か?外門じゃ需要がないのか、はたまた需要のある場所を自分が見つけられてないだけなのか、兎にも角にもまずは外門の全容を知らねば話が進まないかと、現在散歩中だ。
暇してるだけじゃないか!というツッコミを甘んじて受けるしかない手持無沙汰である。
何を思った訳でもないが、ぼんやりと空を見上げると、どこか遠くから金属のぶつかる音が聞こえる。
一瞬ドキッと心臓が跳ねあがるような感覚があったが、この世界には消防車なんてないし、火事の合図とかでは無かろう。
何より、あれが火事の合図だとしたら、この世界の野次馬大好き連中が今頃は知って向かって行ってるに違いない。
そうなると、この金属音は日常の音なのかと、折角だからと音を頼りに路地へと入っていく。
表の通りとは違い、一階建ての建物が増え、家と何やら煙突のついた建物が併設された住居が目立つようになる。
ちょっと板塀の隙間を覗かせていただくと、どうやら土器の様な物を乾かしている?
別の家は、でっかい窯があるか?昔前の世界で見たガラス工房の窯にも似た、入り口の丸いやつだ。
ふむ、もしかしたらこのちょっと狭い路地は職人街ならぬモノ作り系修行者の区域なんだろうか?
何て言うか、モノ作りでも肉体労働者かアーティストよりみたいな?
今まで自分がやって来た丹薬とかは用法容量の決まった理系モノ作り系じゃん?料理とかともちょっと系統の違う道具系のモノ作りが集まってる。そんな雰囲気だ。
そうこうしている内に、例の金属のぶつかり合う音のする工房に辿り着いた。
そこは家とは呼べない。もう入り口から手入れされた道具類が大きさ順に几帳面に並べられていて、絶対細かいタイプの職人の工房って言う空気で満ちている。
ちなみに前の世界でこういう環境や職人には慣れているので、全く忌避感などはない。
寧ろ、好感が持てるし、もし仕事の邪魔じゃなければ少し話をしてみたいくらいだ。
「ん?どうした?うちで作った物は直接販売はしないぞ?全部内門外苑に卸してるから、そっちに行ってくれ」
話したいと思ったら、向こうから話しかけてくれたっていうね。
「ああ、いえ、あの~つかぬことをお伺いしますが、こちらの工房では錬器の修行なんかは出来ますか?」
そう、工房に置いてある道具類を見てふと記憶が呼び起こされたのだ。
強制的に脳にぶち込まれた錬器の記憶が、アレも作れるコレも作れると、急に脳内で騒ぎだす。
「勿論可能だが、経験は?」
「ありませんが、家伝の【錬器術】がありまして、修行させていただけると助かります」
「そうか……まぁ、先ず腕を見よう。材料はお前さんの買取だ。失敗すれば丸っと損失になる。上手くいけば売値との差額がお前に入る。簡単だろ?全ては腕次第だ」
確かにルールはとってもシンプルで、しかも工房内の道具類も貸してくれるらしい。
早速材料置き場へ案内されると、色や形の雰囲気で分けてある石のケースが並べられていた。
その中でも重量感のある黒い石を幾つか選び、更に木片と言うにはちょっと大き目の木の塊を一つ選んで、今度は作業場を案内してもらう。
先ずはでっかい炉に石を投げ込む。
それはもうでっかい炉だ。錬丹炉の様な美術品感のある鼎の様な物じゃない。
もう、金属融かしますよ!って言う主張の強い、ゲームにでも出て来そうなアレだ。
更にいつもの如く、葉っぱを投げ込んで真気を巡らせると、炉の足元にある小さな口から溶けた金属が流れ出て、長方形の型に流し込まれていく。
一個一杯になったら、コックをひねり一旦止めて、次の型枠を用意し流し込む。
5個ほどできた所で、別の形状の丸い蓋のされた炉に、でっかいハサミで金属の塊を突っ込む。ハサミって言ってもアレじゃないよ?切るやつじゃなくて、薪とか挟むやつね。
そして金属の塊が真っ赤になった所で、今度は鉄床とでもいうのか、あの鉄を打つ土台みたいな、形状で言うと船着き場のロープ係留するアレみたいな形のやつ。
アレの上にのせて、手近にあったハンマーで叩きのばし、また熱しを繰り返す。
作業が始めるとどんどん熱中し、金属と自分だけの世界へと没入していく。




