79.陣術
個室で一息ついて使い慣れた自分の錬丹炉を取り出して設置する。
そう広くもない個室のど真ん中に、元々置いてあった備え付けの錬丹炉がちょっと邪魔だが、致し方なし。
何だかんだと日々コツコツと自分なりに修行してきた甲斐もあって、あっという間に準備は万端!素材の一部を錬化して置くことで霊力も温存できるし、何ならさっき話に出てた《浸霊丹》は言ってみれば《真霊丹》の強化版みたいなもので、より多くの霊力を体内に吸収できるし、既に作って指輪の中にストックしてある。
更に言えば、最近ではちょっとやそっと丹薬を作ったくらいじゃ疲れたり目が回ったりする事もとんとなくなった。
まだ練気2級の頃と比べれば、既に6級だし結構差が出るもんなんだと十分に体感できるレベルには霊力の量も扱いも成長したと思う。
〔いや、お前はもう7級だぞ?〕
「うん、いつ上がったのさ?」
〔そりゃ、この前妖虎を殺った後にぶっ倒れたろ?あの時さ〕
「寝てる間って事?言ってよ!次何の術取ろうかな……」
〔それだったらお前が陣法がどうたらと寝言を言ってたから【陣術】にしたが?〕
「ええぇぇぇぇ!寝言もカウントされるの?」
〔正直な所、今すぐに【大工術】だのと手に入れた所で、家やら塞塁やら作る訳でもなかろうし、そう遠くない内に教えられる術は揃いそうだしな。何でもよかろうかと〕
「確かにすぐに必要な物なんてないし、それで言ったらこの前、妖虎と戦った時の陣法とか使えた方がよっぽど助かるかもしれないけども」
〔じゃあ、陣について思い浮かべてみろ。既にお前の中に【陣術】の記憶が入ってる筈だ〕
陣ねぇ……ちょっと思い出そうとすれば、どんどん記憶が溢れかえってくる。
とりとめもなく、次から次から溢れ出てくるものを自分なりに整理していくと、どうやら1~9の数字の振られた陣が使えるらしい。
「いきなり九つも使えるんだ?」
〔そんなのは基本形も基本形だぞ?その形状の中に術を埋め込んでいく事で、発動するんだから言ってみれば数字の入ってない数式みたいなもんだ〕
んなもんどうやって使えって!
と、ツッコミながらもどんどん自分のイメージと記憶が遠く離れていた物が一体化するように折り重なっていき、まとまり、新たな形を形成していく。
物は試しとばかりに、木火土金水の符を一枚づつだして、円を描くように等間隔に並べる。
五行符+五の陣=五行陣
床に並べた符の間に直線が引かれていき、五芒星が浮き上がると陣の上の空気が異様に安定したのが感じられた。
〔相変わらず器用な事する奴だな。その上で錬丹をしてみろ。五行が完全に安定して外部の影響を受けずに錬成可能な筈だ〕
言われるがままに錬丹炉を動かして、五行陣の上でスキンケア丹薬を作ると、これまでとは到底比較にならない程にあっさりと質、量ともに完璧な出来となった。
何というのだろうか、いつもは真気を流しながらも脳内で言葉にならないイメージをこねくり回して、丹薬を作っていた筈が、全く無のまっさらな脳内に完璧なイメージ図だけを思い浮かべ、それが具現化したようなそんな感じ。
脳の負荷も霊力の消耗も比べ物にならない程に楽すぎて、つい調子にのってしまう。
次から次へとガンガン錬丹炉に素材をくべては丹薬を作り出し、部屋に備え付けてあった机に並べていく。
ある種のハイだったのか、ふと気が付くと手が空を切り、素材がなくなったのに気が付いた。
まだまだ物足りない気がしたが、一旦スキンケア丹薬を受付に持って行く。
「これ納めたいんですけど」
「はいはい、随分と早かったね。まぁ修行の進まない内は無理せず……これ今作ったの?」
「ええ、まぁ」
結構な量のスキンケア丹薬を作った筈なんだが、わざわざ一個一個確認しだす苟師兄の姉さん。つまり苟師姉な訳だが、随分とまた真剣な面持ちだ。
「見た事のない二品薬をこの品質で、この量をこの時間で……成程ね。そりゃ一番率の良い仕事を求める訳だわ。実力は認めるわ。それで、あなたはどんな依頼希望なの?」
じっとこちらを見つめる目からは、嘘は見抜くと言わんばかりの意思が伝わってくる。
「個人的にはそこまではっきりした目標は無いんですけど、やりたい事は色々あるので、あまりがんじがらめにならずに、尚且つ孟長老の覚えのいい仕事だと助かりますね」
「ふーん、野望はあるけど大きすぎて今はまだ現実味が無いって顔ね。分かったこの丹薬を含めて市場の需要が高いのに供給不足な物を優先して任せるけど、いいかしら?」
「勿論、まださして疲れてもないので、普通の丹薬なら作らせていただきますよ」
「自分の修行に当てる時間はいいのかしら?」
「それこそさっき言った通り、やりたい事はたくさんありまして、丹薬に限らず」
「そう?じゃあ、適量な仕事を好きに選びなさい。今ある程度見繕って来るから」
そうして持ってきてくれた依頼は、どれも今の自分には造作もないレベルのものばかり、折角だし五行陣に慣れる為にも、今日は錬丹漬けの日としましょうか。




