78.孟長老に気に入られるには
「苟師弟!いつもの!」
急に横合いから声が聞こえたかと思ったら、柏師姉だ。どうやら柏師姉も結構朝早いタイプらしい。
「お早うございます。柏師姉」
「あら?昨日の?随分と早いのね……修行を少しでも進めようと思ったのに……」
勘違いだった。自分の面倒があったので、早く来たらしい。昨日の様子から察するに修行優先みたいな人だし仕方なしか。
「ああ、それなら我が百師弟の案内しておきますよ」
「あら?本当に?……うーん師父もいないし、評価にはならないものねぇ。分かったお願いするわ!」
言うなり、苟師兄から籠一杯の素材を受け取ってさっさと自室の方へと向かっていってしまう。
「いつもあんな感じ?」
柏師姉の姿が見えなくなってから、作業を再開する苟師兄に尋ねてみる。
「いつもあんな感じだよ。柏師姉はそれこそ内門志望だからね。少しでも孟長老の評価を上げたいのさ」
「内門の弟子になるには好……じゃなかった李長老の管轄なんじゃないの?」
「でも、紹介するのは孟長老だもの。先ずは孟長老のお眼鏡にかなわないとまず無理だね」
「へ~それであんなに頑張ってるのか、やっぱり修行が進むほど紹介されやすいんですかね?」
「う~んその辺の評価は難しいよね。例えば知ってるかどうか分からないけど李長老の弟子の中でも群を抜いて才覚があると言えば、黄師姉と王師姉って言われてるんだけど知ってる?」
そりゃ知ってるが、流石に面識があるとも言えないので、軽く濁す。
「一応噂くらいはね。あと羊雲城の王師姉の妹さんと取引があったから、話くらいかな」
「へ~!それこそ多角的にやってるお家で、確か妹さんだとそれなりの菜館を経営してるんじゃなかったっけ?やっぱり孟長老が慌てて引き抜いてくるだけあって、百師弟も隅に置けないね」
「いやいや、偶々畑いじりしてたから縁があっただけですよ。それで?お二人は才覚があったから李長老の弟子になったとして、やっぱり柏師姉も?」
「うーん二人に比べれば何段か落ちるんじゃない?今もやっと二品薬の《浸霊丹》を作れる様になって研鑽中って所だし、腕で成り上がるのは時間かかるだろうね」
「じゃあ焦らずじっくり修行すればいいのに、なんでまたそんなに孟長老に気に入られようと?」
「やっぱり毛師姉の例があるからね。才覚は劣っても献身的によく働けば認められて内門に入れるって、そう思ってる修士は少なくないよ」
「ああ、やっぱり皆、内門には入りたいんですね」
「そりゃねぇ。待遇が全然違うし、使える修行資源だって大きな差があるしさ。そうなれば同じ練気期だったとしても、修行の進みも気海の霊力もおのずと変わってくる。いずれ差がどんどん開いていくって訳」
気海?
〔概念的なもんだからあまり深く考えなくていいぞ。分かりやすいイメージだとお前の今の霊力は空に浮く雲か空気のような状態で体の中に溜まっている。それを圧縮していけばいずれ水の様になり更に個体の様になっていくって言うイメージだ。体内に金丹を錬成し……〕
久々に長い説明を適当に受け流しつつ、苟師兄と会話を続ける。
「成る程ねぇ。つまり孟長老は働き者を評価する傾向がある?」
「うん、それは間違いない。特に宗に貢献する者ほど覚えがいい」
「何か訳でもあるんですかね?」
「さあ?ただの性格と言われても納得できるような人だし、裏があると言われればそれもまたありそうな気もするし、我には分からないね」
ふむ、さてそうなると自分の身の振り方をどうするかだ。
折角虎穴にいらずんばと入ってきたのだから、孟長老に近づいてもっとよく情報を得るべきとも思うし、逆に一定距離を置くことで、怪しまれないようにじっくり観察するというのも有りな気がする。
「どうしたの?」
「あっいや、自分も頑張らなきゃなぁって」
「それなら、向こうの受付に行って依頼を確認してくるといいよ。柏師姉は少しでも修行を進めること考えてるけど、宗内の事を考えれば依頼をこなした方が助かる人は多いからね。そっちの方が堅実じゃない?」
「ありがとうございます。苟師兄、行ってきます!」
そう言って、以来の窓口に行くとまた苟師兄が?
「さっきうちの弟と話してたでしょ?本当におしゃべりな弟なんだから!依頼でしょ?好きなの選びなさい?」
声を聴いたらどうやら女性の様だ。大変失礼な事を考えてしまった。
「初めまして今日からこちらで修行する百木青です。ちなみに今一番宗に貢献できる依頼ってどれです?」
「あら野心家なのね?でもいきなり何でもやらせるって訳にはいかないわ。何品薬までなら作れるのかしら?」
「一応二品薬ならそれなりに作り慣れたものがありますが?」
いいながら適当に作って指輪に突っ込んでいた物を並べていく。
ふんふんと、弟さんよりは少し上からの雰囲気で品定めしてくるが、そう邪気も感じないし、何となく様になってるので、あまり気にしない。
そして、出してる途中、急に眼を向いて一つの丹薬を取り上げた。
いや、丹薬と言ってもいいのだろうか?王師姉に作ったスキンケア商品だわ。
「これ!どこで手に入れたの!」
「自分で作ったんですけど?」
「レシピは?」
「あの、家伝のものなので……」
「そうなのね!じゃあこれを作ってきたら作ってきた分だけ、貢献ポイント払うから!はい頑張って!」
何か凄い勢いで、何かを書きつけて押し渡され、また苟師兄の元へと戻り、必要な材料を伝えて受け取る。
「悪いねうちの姉が」
などと嘯きながら苦笑いだが、そこまで悪い話じゃないのだろう。止められるような事はなく、何なら自分用の個室を割り当ててもらった。




