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77.薬堂、初出勤

 とりあえず新居は落ち着き、翌日の事。


家には誰がいる訳でもないので、気兼ねなく朝食に毒草と一緒に煮たお粥をササッと作って食べ、薬堂へと向かう。


朝一のハーブ園というのは中々に、芳しく趣もあり、よくよく見ればまだ朝露が付いているようだ。


一先ずは自分の教育係?でいいんだろうか?柏師姉の所へと挨拶に向かい、部屋の前に立つ。


部屋の入口はすだれの様なもので視界だけ塞いであるのだが、近づいてみれば中に人がいるかどうかはすぐに分かる。


ちなみに現在は不在だ。


適当に何室か外から眺めるも、どの部屋も不在。どうやらあまりにも朝早過ぎてしまったらしい。


やむを得ず、薬堂の中をうろうろしていると、ふと人の気配を感じたので近寄ってみる。


すると、竹籠に山と積まれた薬草を棚に置き、霊芝と見られるデカいキノコを並べていくやや小太りなお兄さんが、既に働いている様子だった。


「おはようございます」


背後から声を掛けると、随分と派手に飛び上がり、驚いた様子でこちらに振り返る。


「你早!って初めて見る顔だね。どうしたのこんな早くから?」


後ろから見るとやや小太り風だったが、正面から見た顔と声の感じは上品そうと言うか、ちゃんとしたお店の店員さんみたいな。人当たりはいいけどきっちりした雰囲気で小太りなのも寧ろ柔和に見えていいイメージな位だ。


「初めまして、今日からこちらで修行する事になりました百木青と申します。早く来すぎてしまったみたいで、途方に暮れてたところに師兄が作業中だったので」


「ああ!そう言う事ね。苟以寧だ。よろしくね」


「すみません作業の手を止めてしまって」


「ああ、いいのいいの!もう終わるしさ。それより今日からって事はアレかい?昨日師父が飛び出して行って、すぐさま連れてきたって言う雑役弟子かい?」


「はい、昨日急に外門弟子になる様に言われて、そのまま家を借りて、今日からここに来るようにって」


「はははは!相変わらず師父は無駄が無いって言うかなんて言うか」


「ちなみに孟長老はまだこちらに来られていない?」


「いや!今日は確か薬会の会合に行くから、数日は帰ってこないんじゃないかな?」


「薬会って鸚鵡緑外苑の?」


「違う違う!もっと広域のさ。どうしたって丹薬の作れるの作れないのって、個人差があるじゃない?でもどこの地域だってある程度の量が必要な訳!だから周辺地域で手に入る丹薬の情報をまとめて、どういう分配で流通させるかみたいな相談事。本当はその準備で昨日一日忙しかった筈なのに、君を連れて帰って来るんだから、ほんとに忙しない人だよね」


「ああ、だからあんなに唐突で強引な感じ……」


「違う違う。それはいつもの事、何でも端的に本題に入る人なんだよね。さすがに目上相手には譲るのかもしれないけど、弟子達から見たらそんな感じだよ」


「へ~ちなみに、苟師兄はここで何やってるんですか?」


「自分は丹薬素材の管理の仕事だね。本当はもっと遅くからでもいいんだけど、実家の家業の所為で朝早いのに慣れててさ」


「ご実家は何を?」


「薬の材料の卸と多少小売りもやるかな?それこそ丹薬の素材も売るし、香辛料なんかも扱う。朝が早いのは朝食用の屋台の主人が香辛料やなんかを買いに来るからだね」


「結構幅広く扱うなら、大店のご子息なんですね~」


「よしなって!南川城で慎ましくやってるだけの店だよ。あそこも一応は城壁の有る城ではあるけど、ほとんど水流調整の水門が本体みたいなもんだし、大したとこじゃないさ」


「それでこちらに修行に来られたのはやっぱり才能があって?」


「いやいや!コネだよコネ!師父とうちの父が顔見知りでさ。最初からこの外門に入れてもらったって訳」


「結構、孟長老ってやり手なんですかね」


「ああ、まぁやり手ではあるけど、君のイメージする様な感じじゃないよ?多分ね。とにかくきっちり細かくて、それでいて人付き合いも出来るし、手堅くて人を騙すような事も無いから信用されてるって感じ」


「それでもコネで弟子入りできるんだから、何か有利になる事とか?」


「うちじゃありえないね。噂じゃ師父は宗内の丹薬門を強化したいから、少しでも才能や能力があればかき集めてるみたいな話は聞くけどね」


「それで、いつかは苟師兄も大修士に?」


「そりゃ無理だねぇ。よっぽどの奇縁でもあれば別だけどさ。でもいいんだ!田舎宗派でも正派で何年修行して、修為がいくつで、何品の丹薬が作れますってのは、全て自分のステータスになる訳だから、家を継ぐにしても、自分の店を持つにしても、いずこかの薬会に所属するにしても損はないさ」


「将来の為にキャリアを積んでる訳ですか。向上心がありますね」


「やめなよそんな!まぁ何?若い内から焦ってお金貯めた所で何かの拍子に失っちゃえばそれまでだけど、腕前に関しては一生ものだからね。食いっぱぐれないようにするための処世術だよ」


ふむ、やっぱりいい所のお坊ちゃんなのかな。


いやただのお金持ちって訳じゃなく、ちゃんと生きる方法を幼い内から教育受けてる様な、ちゃんとした家って感じ。


人当たりもいいし、正直なところ柏師姉よりこっちの苟師兄に世話になる方がいい気がしてきたぞ?


まぁ、世話になる以上損はさせちゃいけないとは思うけども、はてさてもう少し話をしてみてもいいだろうか?あまり邪魔にならない程度にね。

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― 新着の感想 ―
まあ、主人公だったら農術があるから損をさせることはないな
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